六羽 食べすぎでどーん
「──うさぎさん!?」
カルナシオンは慌てた。
ペレットを食べ終え、元気いっぱいであったうさぎさんが、突然その場で横に倒れ込んだのだ。
その勢いはとにかくすごかった。
ジャンプのように助走もつけず、その場で足のスナップを利かせ、身体が床に打ち付けることなど気にも留めず派手にすっ転ぶよう倒れる。効果音をつけるなら、『でどーん』だ。
カルナシオンでなくとも心配することだろう。
「どうした!? どこか具合がわるいのか!?」
『……ま』
「ま……?」
震えるようにうさぎさんは声を絞り出す。
その声は、まるで最期の時のようだ。
カルナシオンは再びテリネヴを呼ぶ体制に入ろうとした。
『まんぷく…………、でし……』
「!?」
こてん。
首を持ち上げ、それだけ言うとうさぎさんは脱力し、目を開けたまま眠りについた。
「っ!! な、なんてっ……っ、愛らしい…………!!」
「バカですかー?」
うさぎさんのあまりの愛らしさに、カルナシオンの思考は弾け飛んだ。
それに伴う語彙力の低下、震える身。
駄々下がりになる下僕からの評価。
しかしカルナシオンにとっては些細なこと。
ともかく、体調がわるい訳ではないのだと安堵しその愛らしさを噛みしめた。
「しかし……、目を開けたまま眠るのか。警戒心がよほど強い生物なのだろう」
「まだまだ信用されてませんねぇ、主どの」
「お前が怪しすぎるんだ」
「ああ! ひどい、あたしのせいにするなんて……」
ころころと笑うギルクライス。
ソファに座っていたかと思えば、宙に浮いて虚空に腰かける。
動きも思考も予想ができない。
カルナシオンは、下僕の中で最も怪しい男を恨めしそうに睨んだ。
◆
『おみみ、きれいでし』
「ん? ああ、これか」
その後数刻すやすやと眠っていたうさぎさん。
カルナシオンが魔道具を動かした音で目覚め、ぴょんとその場で飛び跳ねたと思えば、スチャッと前足を広げて臨戦態勢に入った。
慌てて謝りに来たカルナシオンの右耳には、走ると同時に揺れる赤くて雫のような形をした耳飾り。金具の付け根はやや白く、そこから徐々に先端に向けて赤みを増していた。
赤い、というのにどこか煌々と輝いて見える。
「下僕三号に勝った時の戦利品だ」
うさぎさんが興味を示した耳飾りに触れながら、カルナシオンは当時のことを思い出した。
『さんごうさん!』
「ん? ……そうだ、やつは体温が高い。体温の調整もできるし、うさぎさんの役に立つな。会わせてやろう」
『ほあ~!』
うさぎさんは胸が高鳴った。なにせ、あの三号だ。
「【我が呼び声に応じよ──ヴォ…………ではなくて、アルクァイト!】」
再び召喚に伴う魔法陣が展開される。
それを見たギルクライスは心なしか距離をとった。
「……」
『ほあーーーー!』
輝きを放つ魔法陣から現れたのは、赤い長髪の神秘的な男。
まるで見下すように鋭い金色の視線をうさぎさんへと投げかける。
寡黙で無表情。いや、どちらかというと険しい表情。
ギルクライスと比べるとまるで正反対。
美しい造形の男がもたらす冷たい眼差しは、余計に鋭さを増した。
服装は黒を基調とした内側の衣服に、白いサーコート。
腰元には剣も携えやや筋肉質な体も相まってか、一見すると冒険者や騎士といった職に就いていると予想できる。
『か、カッコいいでしー!!』
「……」
うさぎさんは自分よりも遥かに大きな見目麗しい男に称賛を送った。
「あたしもカッコよくないです?」
「それ以前にお前は胡散臭いだろう」
ギルクライスは対抗するも、主人より即座に否定された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます