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僕とキャロラインは恋愛映画を観た。全てアンドロイドがアクターをつとめるものだ。3Dアニメに飽きた層には評判が良い。
かつては人間が中に入っている、いわゆる着ぐるみだったのだが今や全てアンドロイドだ。
しかもお金をかけているらしく主演の男女は顔の表情が素晴らしかった。キャロラインよりも表情の変化が豊かだ。キャロラインの場合は僕の嗜好に合わせてクールビューティになっている訳なのだが。
そしてしっかりと濡れ場もあった。ライティングとデジタル加工による補正で人間が演じるよりも美しいと僕は思ってしまった。
二十世紀にあったSF人形劇に毛が生えた程度のものかと思っていた僕は考えを改めることになった。
観客席には僕たちのようにパートナーがアンドロイドのペアが結構いた。
その多くはレンタル彼女または彼氏だろうと僕は思った。
しかし僕たちのような例の事業のモニターらしきペアもいた。
「つまらなかったわ」女性アンドロイドが言う。
キラキラの装飾品をたくさん身につけ、さらにラメ入りの紫のミニワンピを着たアンドロイドだった。
脚線は綺麗だ。しかし上映が終わり、館内照明がついて
彼女たちアンドロイドの皮膚は柔らかく繊細にできていた。何かの衝撃で皮膚が伸展すると裂けることがある。
人間なら自然治癒するかもしれないが彼女たちの場合は特殊な接着剤でふさぐかレーザーメスで焼いてつなげる。それらで修復できない場合は体全体の皮膚を取り換えることになる。その措置は一度だけ無料だが二度目以降は相当な額を負担しなければならなかった。
そのアンドロイドの脚には歯形らしきものもあったからおそらくは男の性癖によるものだろう。
「この後、どうするの? またホテル? 進歩がないわね。向上心がない男は嫌われるわ」
「お前が飯も食えないからだろう。遊園地に映画に買い物。することは決まっているだろうが」
男と女性アンドロイドは喧嘩を始めていた。
他の客はほとんど退席し、僕とキャロラインも立ち上がっていた。
僕は彼らの会話を背中で聴きながら沈鬱になった。
あの二人はやはりモニターだ。そして倦怠期に入っている。
僕とキャロラインも男女のことをしたらあのようになるのだろうか。キャロラインも今のキャロラインでなくなってしまうのだろうか。
そう思うと僕はこれ以上キャロラインと親密になれない。彼女と長く幸せな気分を味わうには踏み込んではならない領域だった。
しかし女性アンドロイドは、男女の仲が進展しないと縁がなかったと判断して離れていく。そうプログラムされている。
どちらにせよ僕とキャロラインは別れる宿命なのだ。
後ろで何かが倒れる音がした。
振り返ると男が真っ青な顔になっている。倒れていたのは女性アンドロイドだ。首が不自然な方向に曲がっていた。
「今のあなたの行為はDVにあたります」
女性アンドロイドの声も口調も先ほどとは明らかに変わっていた。無抑揚で機械的なアナウンス。男に対する警告文だった。
「器物損壊罪が成立しました。ただいま管理センターに映像を緊急送信しました」
その機械的な声に男は我に返ったようだ。その場にしゃがみこみ、言葉を失っていた。
「行こう」
僕はキャロラインの手を引いて映画館を出た。
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