第35話 決勝戦①「ミラーマッチ」

 準決勝第二試合アルフィス対シースルーは、国内一位と国内五位の対決だったがアルフィスのストレート勝ちに終わった。

 続く三位決定戦りっちゃん対シースルーは、三対一でりっちゃんの勝利。残す試合はアルフィス対最強神の決勝戦のみとなった。 


「まさか、最強神さんがここまで勝ち上がると思わなかったよ」


「お前を倒して優勝させてもらうぜ」


「同じ旧国内三強なら、ルーローさんと対決したかったな」


「前から気になったが、お前はやけにルーローは評価してるな」


「僕がプロ入りする前にお手本にしていたプレイヤーだからね」


(知識とプレイヤースキルを活かした多キャラ使い――紗音のプレイスタイルは全盛期の香子に確かに似てるな) 


「最強神さん、この戦いを盛り上げるために僕と決闘してくれないかな?」


 紗音の決闘の提案に春雪は耳を傾ける。


「僕が負けたらきもすぎゲーミングを脱退して、最強神さんにチーム復帰してもらう。チームを解雇された最強神さんには悪くない報酬でしょ?」


「確かに悪くないが、お前が勝った場合はどうなるんだ?」


「最強神のアカウントを削除して、ブレイブソウルズを完全引退してもらう。大会出場もオフでのプレイもアカウントの再作成も禁止だ」


(……紗音は俺を表舞台から消したいようだな)


「いいだろう。その決闘、受けてやるよ」


「ありがとう。決闘を受けてくれて。これで旧世代の遺物――最強神を僕の手で殺せる」


「お前には何度も負けてきたが、今回は勝たせてもらうぞ」


 春雪が決闘を承認したことで、紗音との決闘が成立する。

 両者の合意で決闘が確定すると数分後、かりばーんや香子との決闘に立ち会っていた決闘審判会の男が会場入りする。


(彁、力を貸してくれ)


(分かった。マスターの全力を最強のプレイヤーにぶつけちゃいなよ)


 彁の力で寿命を削り、春雪は全盛期の能力を取り戻す。

 ランダムセレクトで選ばれたのは、場外のある五角形のステージであった。

 対戦ステージが確定すると、春雪はギルスを選択する。


「最強神さんはギルスを選ぶんだね。だったら、僕は――」


 紗音が選択したキャラは春雪と同じギルスであった。


「本当にギルスでいいのか?」


 ジャバウォックかアルビオンで来ると予測しており、春雪は紗音のキャラ選択に目を丸くする


「問題ないよ。僕はどのキャラも使えるし。同キャラ対決が嫌なら、他のキャラを使ってあげるけど」


(……舐められてるな)


 紗音は全キャラを使えるが、ギルスは彼のメインキャラではない。メインキャラを使わなくても、春雪ごときに負けるわけがないという意思表示だろう。


(マスターのギルスで美少年の鼻先をへし折ってやろう!)


(言われなくてもそのつもりだ)


(アルフィスは慢心しています。付け入る隙があるとすればそこでしょう)


『新旧最強対決――大舞台でついにこの組み合わせが実現しました。どちらが勝つか、私も一観戦勢として興味がありますねぇ』


 試合が始まると、二人のギルスの槍がぶつかり合う。


(槍のリーチを活かした牽制。基本中の基本だな)


 試合序盤は互いに牽制技を出し合う静かな立ち回りであった。傍目から見れば地味な試合展開だが、二人は牽制を仕掛けながら、互いの手札を潰し合っていた。


(相手は特に変わったことをしていないのに、こっちの攻めが何も通らないね……)


 彁の言うように紗音は高難易度のテクニックやコンボは何もしていない。

 反撃を受けないように槍の先端が敵に当たるようにする、ステップや釣り行動で相手を攪乱するなど――紗音がやっていることはごく基礎的な動きだけだ。

 基本に忠実であるが故に、紗音のギルスには全く隙がなかった。


(リスクを徹底的に排除し、どこまでも堅実に立ち回る。……りっちゃんとは真逆のプレイスタイルだ)


 律のような攻め一辺倒ではなく、紗音は防御を極めたプレイヤーであった。

 

(流石は国内最強のプレイヤーです。ダッシュ攻撃の屈み気味の姿勢すら回避に利用するなんて……)


 紗音のプレイは地味で上手さが分かりにくいが、やり込んでいるプレイヤーほど彼の操作精度や動きの的確さを理解できた。


(マスターより相手の方が有効打が多いね……)


 攻守が目まぐるしく入れ替わり、一見すると互角の戦いに見えるが、押されているのは春雪の方であった。

 春雪のギルスの攻めは的確にいなされ、紗音のギルスの方が有効打が多かった。その細かな差が体力ゲージに現れていた。


「これが力の差だよ」優位に立った紗音が呟く。「僕に攻め勝ちたいのなら、りっちゃんくらい強烈な攻めじゃないと無理だよ」


「……まだ勝負はついてないぞ」


「この試合は僕が取ったも同然だよ」  


(もう勝利宣言か。余裕かましやがって)


 春雪のギルスが唐突に必殺技を放つ。この試合では一度も見せていなかった強気な立ち回りであった。


「舐められたものだね。読み合いも何もない動きなら僕に勝てるとでも? そんなの予想済みだよ」


 追い詰められた相手の強引な攻めを紗音は最も警戒している。それを通してしまえば、試合の流れが一気に変わりかねないからだ。

 紗音のギルスがカウンターの構えを取り、必殺技を反射する。このカウンターが勝負を決める一撃で、春雪のギルスをKOした。


『初戦はギルス対決でしたが、アルフィス選手に軍配が上がりました』


「同じキャラでわざわざ相手してあげたのに期待外れだね」


「この試合は三先だ。残りの試合でお前に勝ってやる」


「へぇ。まだ僕に勝つつもりなんだ。その威勢がどこまで持つか見物だね」

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