第31話 準決勝①「再戦」

 リボルト最終日――。

 熱気に包まれた会場の中、準決勝第一試合の最強神VSりっちゃんが始まろうとしていた。


「最強神さんと戦えるのをずっと待っていましたよ」


 憧れの最強神との試合は、律にとってこの大会で最も特別な戦いであった。


「約束通り大会で当たったな。前に戦った時のリベンジをさせてもらうぜ」


「受けて立ちましょう」


 前回は何もできなかったが、春雪は公式戦で負けるつもりはない。


「りっちゃんは俺のチート疑惑についてどう思ってるんだ?」

 

 春雪は律に質問する。予選からあったチート疑惑は、明確な証拠が全くなく、春雪が大会を勝ち進んだことで有耶無耶になりつつあった。


「最強神さんは勝負でズルをする人じゃないって信じています」


(……今回も彁の力を借りるつもりだが、こうも言い切られると少し心が痛むな)


 自分に憧れを抱いている少女相手に、死神の助力を得ることに春雪は罪悪感を覚える。


(マスター、私と契約した時点で覚悟を決めなよ。相手が誰であっても、勝って世界最強のプレイヤーになりたいんでしょ?)


(そうだな)


 彁の言葉で春雪は鈍りかけていた決心を固める。 


「最強神さん、勝っても負けても恨みっこなしですよ」


「ああ」


(一筋縄ではいかない相手だが、今度こそ勝たせてもらう)

 

 リボルトの試合は準決勝から二先ではなく三先になる。

 三先では二先よりも必然的に試合数が増えるため、キャラならではの初見殺しは通用しにくくなる。勝負を制するには相手への対応力やプレイヤーの地力がより重要になるのだ。

 試合前に二人が選んだキャラはギルスとアザレアだ。続けてランダムセレクトで選ばれた戦いの舞台は、奇しくも以前のフリーマッチと同じステージであった。


(彁、寿命を捧げる)


(分かったよ)


 彁は春雪の寿命を削り、彼に全盛期の力を与える。 

 試合が始まると同時にギルスはカウンターの体勢に入る。アザレアの開幕攻撃を警戒したのだ。

 春雪の予想に反して、アザレアは動かなかった。


「……危なかったです。いつもみたいに攻めに行ったら、カウンターの餌食になっていましたね」


 初手のカウンターをかわしてから、アザレアがギルスに最高速で迫る。

 接近するアザレアの双剣を、ギルスの槍が阻む。香子から教わった対策通り、ギルスは槍の先端がアザレアに当たる位置をキープする。

 釣り行動を交えつつ、アザレアはギルスに近づこうとする。

 相手の攻撃が当たらない有利な位置取りはできているが、春雪は一瞬も気が抜けなかった。

 

(少しでも判断をミスったらアウトだな)


 春雪は辛うじてアザレアの動きに反応できている。しかし、何度も読み切れるスピードではなかった。


(マズいっ……!)


 アザレアに槍をかわされ接近を許しかけると、ギルスはブラストを咄嗟に発動し、衝撃波で無理矢理距離を離す。


(……今のは危なかった)


 中距離を維持するアザレア対策は有効で、着実にダメージは与えている。だが、攻撃がコンボではなく単発になるため、どうしても試合が長引いてしまう。


(マスター、また近づいて来たよ!) 


 ギルスの槍がアザレアの接近を阻もうとするが、アザレアの動きの方が一瞬早かった。


(しまった……反応が遅れた……)


 アザレアの切り上げでギルスの身体が浮かされ、コンボが始動する。


(流れを取った時のりっちゃんの爆発力は凄まじいね……)


 葵は律の異常な操作スピードと操作精度に戦慄する。

 ずらしや暴れに合わせて、律はアドリブで即座にコンボルートを変えていた。

 

(ここまでとは……。俺の動きに対して一瞬で最適解を選んでくる……)


 無抵抗でやられているわけではなく、春雪もコンボ対策を講じていたが、律は彼の対策を上回っていた。


(ブラストは使えない……。こうなったら)

 

 帝王ミカドとの戦いで見せた最強神式ずらしを春雪は使う。


「そのずらしは知っています。何度も見ていますから」


 帝王ミカドに通用した最強神ずらしも、律は冷静に対応していた。

 ずらしの方向や距離を完璧に予測し、アザレアはギルスの体力がゼロになるまでコンボを完遂させる。


『ここで一セット目が決着。ギルスは一度捕まると、全く脱出できませんでしたね』


(りっちゃんに近距離で勝つのは想像以上にハードルが高いな……)


(私の力で最強になったマスターが負けるなんて……)


 春雪が律に完敗したことに彁は衝撃を受ける。しかも、今回は自分の力で春雪は全盛期に戻っている状態だ。


「まずは私の一勝ですね」


「前回ボロ負けしたし、少しは油断してくれるかと思ってたんだが……」


「油断なんてしませんよ。誰と当たったとしても相手を舐めるなんて失礼ですから」


(いいこと言うなぁ~。私、りっちゃんのこと見直したかも)


 彁は律のことを一方的に嫌っていたが、対戦相手をリスペクトしている彼女に好感を抱き始める。


「さっきの試合では完全に動きを読まれていた。りっちゃんは俺のことをよく研究しているな」


「最強神さんの試合はずっと見続けていましたから」


(俺の試合を見続けていた……か)


 春雪は律の言葉がハッタリだと思えなかった。彼女は間違いなく自分なりの最強神対策を完成させている。


(りっちゃんは随分と春雪さんを警戒しているんですね)


(格下だと侮って欲しかったが、俺のことを相当調べているようだ)


(マスター、何とかならないの……!?)


(待ち寄りの戦いを続けても、さっきのようになる可能性が高い。賭けに出るしかないな)


(まだ一本取られただけで、三先ですし焦り過ぎだと思いますが……)


(いや、このままりっちゃんのペースにするのはマズい)


 速攻を得意としている律を勢いづかせてしまえば、そのまま押し切られてしまう可能性が高い。

 試合の流れを取るためにも、春雪は早くも勝負に出るつもりであった。

 

「君には何度も負けているし、そろそろ勝たせてもらう」


「最強神さんの強さは知っています。最後まで気を緩めたりはしません」


 律が王手をかけるか、春雪が一勝をもぎ取るか――二セット目の試合が始まった。

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