第32話 準決勝②「律の隙」
『これは……一セット目とは打って変わって、ギルスの方が攻め始めました』
ギルスはアザレアの得意としている間合いに飛び込み、果敢に攻めていく。
技の回転率もスピードもアザレアの方が上で、本来ならば圧倒的に不利な距離だ。
「少し驚きましたが、この距離で負けるつもりはありませんよ」
ギルスの動きは律も想定していなかったが、アザレアにインファイトを挑んできた相手は初めてではない。律はそのような相手を一人残らず返り討ちにしてきた。
(……上手いな。俺の攻めを的確に捌いて反撃してくる)
近距離の読み合いは、春雪が全て負けているわけではなく、律に読み勝っている場面もある。
だが、近距離戦の読み合いの勝率は三対七で、春雪はここぞという場面で律に読み合いで負けていた。
『やはり、この間合いでの戦いは無謀だったか。接近戦での立ち回りはアザレアが上回っていますね』
ステージ端に追い込まれたギルスは、アザレアの斬撃をしゃがんでかわすと、足払いを食らわせる。
苦し紛れの攻めだが、ギルスはアザレアにまともな一撃を久々に与えることに成功した。
葵との戦いでは追加効果が不発に終わったが、今回は足払いで運良くアザレアが転倒する。
「……あっ」
アザレアが転倒させられると律は声を上げる。
(この好機は逃さない)
動けないアザレアにギルスは、コンボで反撃する。
宙に浮いたアザレアにギルスが次々と技を叩き込むと、敵の体力が一瞬で溶けていく。
(元々の体力が少ないキャラだから、一気に体力が削れているね!)
アザレアの体力は全キャラでも最低で、簡単なコンボでも食らうだけで致命傷になり得る。
(ブラストを警戒しながら、このまま削り切りたいところだな)
アザレアがギルスの突きを食らうと、右方向にずらし始める。
(今の動きでりっちゃんの弱点が見えてきた)
春雪は律の大きな弱点に気づく。
律は天才的な攻めのセンスを持っているが、防御が下手なのだ。
春雪も全キャラ分を完璧に覚えているわけではないが、技によってずらしの最適な方向は異なる。
ギルスの突きに対しての正解は左方向だ。ギルスは右から左に槍を振るう技は多いが、逆方向は出の遅い技しかない。そのため、左方向にずらせばその後の追撃は、非常にかわしやすくなる。
春雪はギルスのこの欠点を把握しており、位置取りは常に気を配っている。だが、今回はコンボ前にアザレアに攻められていたこともあり、その余裕がなかった。
(突きに対して左ずらしはギルス対策の一つだが、りっちゃんは知らなかったみたいだな)
律が慌ててブラストを使うと、春雪はそのタイミングに合わせてカウンターブラストで対処する。
(コンボを食らわせて確信した。りっちゃんは防御はあまり上手くない)
律はコンボ中のずらしや暴れのやり方が雑で、何度かコンボを抜け出すチャンスはあったが、その機会を悉く逃していた。
コンボが終わった頃にはアザレアは瀕死で、ギルスは彼女が起き上がる前に下段蹴りでトドメを刺した。
(勝ったけどさ、クッソ地味な決め方だね……)
(ほっとけ。地味だろうが勝てばいいんだよ)
『最強神先取が一本取り返しましたが、この試合はアザレアの脆さが出てしまいましたねー』
(意外です。あのりっちゃんにこんな弱点があったなんて……)
(俺も驚いている。圧倒的な攻撃センスが仇になって、今まで防御を鍛える必要も機会もなかったんだろうな)
プロプレイヤーとしては致命的な弱点だが、超高速の攻めを対処できず、律と対戦したプレイヤーは弱点を突く間もなく敗れたのだろう。
(マスター、もう一回攻めれば次の勝負も勝てるよ!)
(……攻めきることができればな。さっきのは運が良過ぎた)
先ほどの試合で攻めきることができたのは、まぐれ当たりした足払いでアザレアが転倒してくれたからだ。二度目が上手くいくと、春雪は思えなかった。
「流石は最強神さんです。ですが、このまま負けるつもりはありませんから」
「望むところだ」
『次のセットは勝負どころですね。互いに一本を取りましたが、どちらが先に二勝目を上げるか見物です』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます