第15話 尋問
帰宅した後、春雪は久々に予選を突破したこともあり、最強神に関するエゴサーチをしていた。
『人のチャンネル奪うとか最強神最低だよな~』
『姫様を悲しませるクズは死ね!』
『あんなクソ野郎は大会出禁にしろ!』
『あいつ絶対チート使っただろ』
『勝てないからって反則使うとかないわ……』
春雪の期待に反して、SNS上では最強神はバッシングを受けており、大炎上していた。
「マスター、試合に勝ったのにボロクソに叩かれてるね。叩いてる人の大半はかりばーんのファンだろうけど」
「……そこまで言わなくてもいいじゃねえか」
ネット上の罵声に春雪はショックを受けていた。
「あれ? マスター、ドMだと思ってたけど打たれ弱いんだね」
「美女や美少女に叩かれるのならまだしも、どこの誰とも分からない奴らに叩かれて嬉しいわけねぇだろ……」
「慰めてあげようと思ったけどごめん。普通にキモい」
「……かりばーんのチャンネルは決闘で正当に得た物なのに、叩き過ぎだろ。俺は命まで賭けたんだぞ」
春雪はぼやく。
「法的に認められている手段だけど、ファンが大勢いる配信者をぶっ潰したからねぇ」
エゴサーチしている春雪は、自分を叩くコメントの中で気になる物を見つけた。
それは『最強神のチート使用疑惑』だ。
(……実際チートみたいなことはしてるからな)
死神という超常的な存在の力を借りているため、チートを行っているというのはある意味で正解だ。
(彁の力が絶対にバレることはないだろうが……)
リボルブ運営も春雪の試合終了後にチートの痕跡を調査したが、春雪がチートを使っているという確たる証拠は見つけられなかった。
自分か彁が種明かしをしない限り、死神の存在が周囲に発覚することはない。それでも春雪には多少の不安があった。
(……電話か)
春雪は着信音が鳴り響くと、机の上に置いてあるスマートフォンを拾う。
着信画面には金城香子と表示されていた。春雪にとっては見知った名前であった。
「春雪、久しぶりだねぇ。予選見てたよ。かりばーんに見事リベンジしたね」
電話に出ると、機械音声に似た特徴的な声が聞こえた。
「お前の方こそ、久々の大会なのによく予選を抜けられたな」
引退していたはずの香子は、七年振りに大会に出場し、予選を勝ち抜いていた。
「引退してからも、ブレイブソウルズはたまにプレイしていたからね」
「二度と大会に出ないと思っていたが、どういう風の吹き回しだ?」
「選手として活動する気はなかったんだけど、最強のプレイヤーにあそこまで言われたら、私が出ないわけにはいかないでしょ」
「紗音の言葉で火がついたわけか」
「まぁ、そんなところだねー」
しばらく世間話をした後、春雪の炎上を香子は話題に出す。
「春雪、ネットでめっちゃ叩かれてるよね。色々と心配なんだけど、大丈夫?」
「お前、そういうタイプじゃないだろ。むしろ、面白がって石投げる奴じゃねえか」
付き合いが長いこともあり、香子が親切な人間ではないことを春雪は知っていた。
「動画のネタにでもするつもりだろ」
「それは今後の展開次第かな~」
香子は答えをはぐらかす。
「炎上の一因になってる最強神チート疑惑――あれって、実際のところどうなの? 私もちょっと怪しいと思ってるんだよね」
「あんなのただの噂だ。チートなんて使ってない」
春雪は即答する。彼の言葉はある意味で嘘でもあり本当でもあった。
「……ふーん」
香子はしばらく沈黙した後、口を開く。
「君、嘘ついてるでしょ。付き合い長いから知ってるけど、春雪が嘘ついてる時って語尾が少し震えるんだよね」
「……言いがかりだ! 俺は嘘なんてついてない!」
「笑えるくらい動揺してくれたね。
春雪は香子の鎌かけに引っかかったと遅れて気付く。
「君がどんな手を使ってるかは分からないけど、本戦一回戦で私と君は丁度当たる。お互い久しぶりのガチバトルだし、私と決闘しようよ」
「決闘だと?」
「私が勝ったらチート疑惑の真実を包み隠さず吐いてもらう。君が勝った場合はーーそっちで決めていいよ。ただし、命とかは無しでね。まだ死にたくないし」
「待て待て。決闘なんてしてもお互いにメリットないだろ」
「……逃げるの? やましいことがないなら別に受けられるでしょ?」
電話越しだが、香子の声からは圧力を感じた。普段飄々としているせいか、今の彼女には異様な迫力があった。
「この決闘を受けないのなら、最強神はチート使ってたって私のカウントで言いふらすけど」
大会運営者とも関わりがあるため、香子の主張次第で春雪は全ての大会を永久出場停止されてもおかしくない。
「今はグレーの状態だけど、私がチート説を支持したら世論は一気に黒に傾くかもねぇ」
「……決闘を受けるから、そういう脅しは止めてくれ」
「さっすが。最強神は話が分かるねぇ。君のそういうところ大好きだよ」
対面していないが、香子のニヤけ面を春雪は想像できた。
「ところで、最強神は決闘の報酬を決めた? 先に言っておくけど、報酬なしはなしだよー。君の方にも何か報酬がないと公平な勝負じゃないからね」
(香子は性格が悪いけど、変なところで律儀なんだよな。やろうと思えば、自分だけノーリスクの決闘もできるだろうに)
春雪は決闘の勝利報酬を考える。
「そうだな……。俺が決闘に勝ったら、次回のお前の動画で俺をゲストに呼べ」
「あれ? そんなのでいいの? もっとエグい要求されるのを想像してたんだけど」
「お前、哲也はゲストに呼んでおいて、俺は一度も呼んでないだろ。俺だけのけ者にしやがって」
「だって春雪、トーク得意じゃないでしょ。昔ならともかく、今はゲームの腕もアレだし。春雪をゲストにするくらいなら、他の数字取れる人呼ぶって」
長年気になっていた春雪がゲストに呼ばなかった理由が明かされたが、ぐうの音も出ない正論であった。
「次の試合について、もう一つ付け加えるぞ。決闘の勝利報酬とは別に、俺が勝ったら香子にだけ秘密を明かす。ただし、口外無用という条件付きだ」
(それだと、マスターはマズいんじゃないの?)
(……香子相手に一生隠し通せる気がしない。あいつが言っていた脅しを実行されれば、俺の方は打てる手もないしな)
(あの博士、マスターより大分頭良さそうだしね。遅かれ早かれ、マスターの方がボロ出しそう)
(リスクは大きいが、香子に延々と追求され続けるより、条件付けて秘密を明かした方がまだマシだ)
春雪が自棄になったように見えるが、彁は彼の案を否定も肯定もしない。死神として契約者の意向に従うだけだ。
「何を企んでるの? それだと決闘に勝っても負けても、君の隠し事は私にバレちゃうけど」
「秘密を明かす相手を不特定多数からお前に絞りたいだけだ。俺が決闘に勝ったとしても、チート疑惑を払拭しない限り、お前は一生納得しないだろ」
「ネタばらししたら、私が春雪の秘密を他人に喋っちゃうかもしれないよ。決闘とは違う口約束だから、口外無用なんて守る義務なんてないしねー」
「お前はひねくれた奴だが、約束は守る人間だと信用している」
「私のことを信用しているみたいだけどさ、後悔しても知らないよ?」
香子からの電話が切れる。
(……対策しないといけない相手は、香子だけじゃない。可能な限り、準備をしておくか)
春雪は明日の戦いに備えて、リボルブ公式チャンネルを開く。
対決する可能性のある選手の試合を動画で確認し、春雪は勝ち筋のイメージを固めていく。
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