第11話 リボルト予選③「決闘」

 一時間後――。

 順調に予選を勝ち進み、残す相手はノワールだけであった。彼女も春雪と同様にこれまでの試合を全勝していた。

 この二人の試合の勝敗で、どちらが予選を抜けるかが決まるのだ。


「予選の終幕で全勝対決に持ち込むなんて、最強神さんも随分盛り上げ上手ですわね」


 ノワールは不敵な笑みを浮かべる。


「ですが、今回もあなたが予選落ちですわ。わたくしがあなたに敗北するなど百億パーセントあり得ませんから」


 一度圧勝していることもあり、ノワールは春雪を格下の相手と見なしていた。


「さっさと棄権しろ最弱神!」


「早く帰れ雑魚!」


 観衆もほとんどがノワールが勝つと考えているのか、春雪には声援がほぼなかった。それどころか、時間の無駄だからさっさと帰れとブーイングされる始末だ。


(アウェー過ぎるな……)


「うふふっ。最強神さん、誰からも勝利を期待されていないみたいですね。観衆の期待に応えて、あなたを華々しく散らすのも女王の務めですわ」


「……最強神さん、会場の空気に呑まれてはダメです! 負けないでぇっ!」


 声を張り上げて、最前列の客席から最強神を応援するのをりっちゃんであった。奇異の目に晒されながらも、りっちゃんは最強神の応援を止めなかった。


(……女の子が俺のためにここまでしてくれるなんて、絶対に負けられなくなったな)


 りっちゃんとは会ったばかりだが、男としてここまで応援してくれる少女の期待を裏切りたくはなかった。


「……賞味期限切れの弱小選手を応援するなんて、理解できませんわね」ノワールは冷笑する。「国内ランキング四位とは思えない節穴ぶりですわ」


「おいゴスロリ女。俺のことをバカにするのはいいが、彼女のことをバカにするのは止めてもらおうか」


「バカになどしていません。事実を言っただけです」ノワールは冷ややかに言う。「そういえば、あなたは賭け試合で手に入れた高価な椅子やモニターを持っていましたよね?」


「それがどうした?」


「あんな良い物を勝てない選手が持っていても、宝の持ち腐れです。椅子とモニターを賭けて私と決闘しませんか?」


 ノワールは春雪に決闘を提案する。

 ゲーマー特権法第七条には、『決闘について』の条文がある。

 第七条の条文には、双方がゲームを用いた決闘に合意した場合に限り、超法規的にあらゆる内容の賭け試合が認められると記載されている。

 つまり、双方が決闘に承諾した時点で、命だろうが人権だろうが何を賭けるのも自由だ。

 過去の大会では、選手同士で金銭等を賭ける決闘が行われることもしばしばあった。

 

「決闘を受けるのは構わない。ただし、お前にも大切な物を賭けてもらうぞ。お前が負けたら『レムニス国女王ノワールチャンネル』の全権利を俺に譲渡しろ」


(マスター、動画投稿者に転身するつもりなの?)


(動画投稿なんて面倒なことしねえよ。クソ生意気な女王様から、動画収益だけ根こそぎ奪ってやる。丁度、金にも困ってたしな)


(うわぁ……。ゲスいなぁ……)


 金目当てを隠そうとしない契約者の卑しさに、彁は呆れ果てる。


「いいでしょう。ですが、賭ける物のレートが釣り合っていません。命と同じくらい大切な私のチャンネルを賭けるのですから、あなたは命も賭ける物に加えなさい」


(まさかのデスゲーム!? これ、断った方がいいやつじゃ……)


(勝てば問題ない)


 ノワールがとんでもない条件を追加するが、春雪はそれに合意した。

 双方が条件に納得したことで、ゲーマー特権法に基づいた決闘が成立する。このことは大会スタッフから運営にすぐさま通達された。

 数分後、試合会場に純白のスーツを身に纏った長身の男がやって来た。彼は白馬の仮面を装着していた。二人の決闘の仲介人だ。

 仮面の男はゲーマー同士の決闘を成立させるために設立された組織『決闘審判会』の一員で、彼らは何らかの仮面を組織の規則(ルール)で身につけている。


「改めて確認します。双方決闘の条件に依存はありませんね?」


 ゲーマー特権法を用いた決闘は、一度始めれば取り消しは認められない。

 成立した決闘の内容は絶対に遵守しなければならず、敗北後に賭けを反故にしようとした場合、死刑の罰則が適用される(ゲーマー特権法第七条三項より抜粋)。


「最強神さんはこの決闘に命を賭けていますが、本当に命賭けの決闘をするのですか?」


(改めて問われると、とんでもない物を賭けちまったな。それでも……ここで退くわけにはいかない)


 立会人の男が二人の意志を確認するが、彼らの意志は変わらなかった。


「お二人の意思は確認させて頂きました――決闘開始(デュエルスタート)。ゲーマーの誇りを賭けて、双方フェアに戦うように」


 賭けの内容が衝撃的なこともあり、予選にも関わらず観衆は盛り上がっていた。

 かつての最強神を蘇らせるために、公平(フェア)には程遠い死神という反則技を春雪は使おうとしていた。


(……彁、寿命を一年捧げる。俺を全盛期に戻してくれ)


(りょーかい。その願い、叶えてあげる。代価一年)


 彁は鎌で春雪の背中を一閃し、彼の寿命を一年削る。

 グループ7最終試合――最強神VSノワールの決闘しあいが始まろうとしていた。


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