第10話 リボルト予選②「元国内最強の実力」

 ドーム内の広々とした試合会場には、いくつもモニターが設置されており、複数のグループの試合が同時進行していた。

 春雪のいるグループ7の試合が始まったのは、予選開始から一時間後であった。


「モニターで試合が配信されてるんだね~」


「リボルトの試合は予選も本戦も全て配信されるぞ」


「予選落ちするところを全国配信されないようにね」


「予選落ちなんてしねぇから」


 彁と会話していると、周囲の選手から奇異の視線を向けられ、春雪は慌てて口を閉ざす。


(彁は誰にも見えないのに、普段の調子で喋ってしまうな……)


(念波で会話するしかないね)


(テレパシーをされると気持ち悪くなるんだが、もう少しどうにかならないのか……)


(できないからマスターが慣れて)


(マジか……)

 

 春雪は込み上げてきた吐き気を堪える。


『はぁい。ここからはヴァジュラに代わって、私、ルーローが試合の実況を務めさせて頂きます』


 リボルトの実況者はルーロー以外にも何人かいるが、彼女は特に人気が高く、実況席にいるだけで会場が盛り上がった。


(香子の奴、羨ましいくらい人気者だな)



(香子?)


(ルーローの本名だ。金城香子かねしろこうこって名前なんだよ)


『全試合実況したいところだけど、私の身体は一つだけ。私の誕生日は七月七日なので、グループ7の試合を実況することにします』


(……相変わらずマイペースだな)

 

 適当な決め方に観衆からもツッコミが入るが、香子はスルーしていた。


『グループ7のトップバッターは旧国内三強の一角、最強神選手。対するは、国内ランキング九十位にランクインし、実力をメキメキと伸ばしてきているサヴァン選手です』

 

 春雪の対戦相手は、パイナップルの葉みたいな髪をした青年であった。青年は非常に太っており、青を基調にしたアロハシャツが破れそうなくらい膨らんでいる。

 白い半ズボンから伸びる太い脚を見て、彁は豚足を連想していた。


「ふひひっ。おじさんには俺の踏み台になってもらうよ」


「……どいつもこいつも俺のことを舐めやがって。踏み台になるのはお前だ」


 サヴァンの選択したキャラは、帝王ミカドも使用しているヴェルグであった。


(煽りカスが使ってたキャラじゃん! こいつは倒した後に死体蹴りも許可するよ!)


 自分を煽り倒したミカドの印象が強いからか、彁はヴェルグに対して辛辣であった。


(……死体蹴りはやらないが、彁の望み通りぶちのめしてやるよ)


 国内ランキング下位の選手に見くびられるのは、国内最強プレイヤーだった春雪のプライドを刺激した。

 春雪は最も使い慣れているギルスを選ぶ。


(この若造に元プロの実力を見せつけてやる)


 キャラとステージの選択が終わると、予選の最初の試合が始まる。ステージはギミックが何もない四角形の狭い闘技場だ。


(狭いステージで逃げる場所がほとんどないから、近距離の殴り合いになりそうだね)


 試合が始まった瞬間、ヴェルグがダッシュからの刺突で先制攻撃を仕掛け、インファイトに持ち込んできた。

 ガードされるリスクは高いが、開幕攻撃も戦術としてはありだ。


(予想していたよりも強気な奴だな)


(ちょっとマスター、あんなにイキってた癖にいきなりやられてるじゃん!?)


 試合開始時に先手を取られたため、相手のヴェルグに対して、ギルスは防戦一方であった。

 コンボの始動技や必殺技はガードや回避で凌いでいるが、明らかに劣勢であった。

 

(早く反撃しないと! 防御してるだけじゃ勝てないって!)


(落ち着けって)


 大慌てしている彁とは真逆で、春雪は冷静に相手の動きを分析していく。


(相手は出の早い弱攻撃とダッシュ攻撃が多めだな)


 相手の戦法や癖を見抜く「対応力」は、プロプレイヤーには必須の能力だ。


(相手の動きは大体分かった)


 反応速度は昔より衰えたとはいえ、対応力は全盛期と変わらず健在で、春雪はサヴァンの癖を早くも見抜きつつあった。

 

(初対戦の相手で遅れを取ったが、所詮はランキング下位のアマチュアだな)


 相手の動きが読めてきたら、ギルスが得意としているカウンターを起点にいくらでも反撃できる。

 槍を用いたカウンターで反撃に成功すると、ギルスは相手の動きを先読みして反撃や防御を潰していく。

 相手の行動パターンが分かってからは、ヴェルグを攻め倒して、春雪が一セット目をあっさりと取った。


(帝王ミカドのヴェルグに比べれば遙かに格下だ)


 サヴァンのヴェルグは帝王ミカドのヴェルグよりも数段落ちる。

 攻撃、防御、反応速度、読み合いの強さ、どれを取っても帝王ミカドには及ばない。


(負ける気が全くしねぇ)


 すぐに始まった二セット目も春雪の圧勝であった。彼は観衆に元プロの実力を見せつけたのだ。


「まさか、こんなオワコン選手に負けるなんて……」


「俺に勝とうなんて百年早いな」


 サヴァンに圧勝し、春雪は宣言通り彼を踏み台にした。


『完全勝利。最強神が見事に古参の意地を見せつけました。名前通りの最強神が帰ってくるのか、これからの試合に期待が高まるねー』 


(色んな人からオワコン呼ばわりされてるけど、ちゃんと強いんだね)


(おいクソガキ。誰がオワコンだ)


 観衆や彁には侮られているが元プロプレイヤーらしく、並みの選手なら叩きのめせるくらい春雪は強かった。彼は以降の試合を一本も取られず連勝を重ねていく。

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