第2話 最強CPUアルフィス①
「さて、誰を実験台にするかな」
春雪はコントローラーを操作し、CPU《コンピューター》と戦うフリーマッチのモードを開く。
「あれ? CPUとやるんだ。マスターがハマってるゲームって、オンラインで対人戦できるよね?」
「ゲームに興味はないのにオンライン対戦とか、CPUって言葉は知ってるんだな」
「死神が人間から寿命を奪うと、その人間の知識や記憶も少しだけ得られるんだ」
「なるほどな。彁にゲームの知識があるのは、死神の特性というわけか。――待てよ。知識と記憶って言ったな?」
「言ったけど。それがどうかしたの?」
「俺の知られたくない過去とか、そういうのも彁は知ってるのか」
「エッチな本の隠し場所とかマスターの黒歴史なら、今すぐ言えるけど」
「……言わんでいい」
(俺の黒歴史を言いふらされたら死ねる自信があるぞ)
どこまで把握しているか分からないが、少女の姿をした死神に自分の秘密を握られている。寿命を一年奪われるよりも、そちらの方がある意味で春雪には恐ろしかった。
「Lv.アルフィス?」
春雪がLv.アルフィスというCPUのレベルを選択すると、彁はその単語に首を傾げる。
(アルフィスを知らないってことは、彁が俺から得た知識はごく一部みたいだな)
「アルフィスは国内最強のプロゲーマーのことだ。十六歳という若さで国内ランキング一位、世界ランキング五位という昔の俺並みの成績を残してる」
「ようするにマスターと違って、超強いプロゲーマーってことだね」
「おい。一言多いぞ。Lv.アルフィスは、何回目かのアップデートで実装されたアルフィスの動きを学習させた最強CPUだ」
「そのCPUにマスターは勝ったことあるの?」
「一度もない」
CPUのレベルを決めた後、キャラ選択で春雪が選んだのは漆黒の鎧に身を包んだ騎士『ギルス』だ。
長槍を武器にしているギルスはいわゆるスタンダード型のキャラで、初心者でも使いやすい癖のない性能だ。ギルスは春雪のメインキャラでもある。
「見た目だけなら、マスターのキャラより相手の方が強そうだなぁ」
CPUの使用キャラは、竜を象ったロボット『ジャバウォック』だ。
強力な飛び道具を複数持つが、動きが遅く後隙の長い技が多いため、扱いが難しい上級者向けのキャラだ。
「見た目だけならな。始めるとするか」
キャラ選択を終えてロード画面になると、春雪はモニターの画面に集中する。
対戦ステージは特殊なギミックがなく、狭くも広くもない四角型の闘技場だ。戦いの舞台では二キャラが、離れた位置で対峙していた。
画面は中央の縦線で分割されており、左側が1P、右側が2P《CPU》となっていた。
「緑色の棒が体力ゲージで、下の青い棒がブラストゲージだね」
「そうだ」
春雪は彁の言葉に頷く。
画面の上部には緑色の体力ゲージと、必殺技や特殊な操作に使用する青色のブラストゲージが表示されている。
ブレイブソウルズのルールはシンプルで勝利条件は二つのうち、いずれかを満たすことだ。
一つは相手の体力ゲージをゼロにすること。もう一つは相手キャラをステージ端の場外に落とすことだ。
ラウンド数や一ラウンドの制限時間は自由に決められるが、今回はラウンド数は一で、一試合の時間は七分に設定している。
対戦が始まると、ジャバウォックの口から火球が三回放たれる。
「おおっ、いきなりだね!」
ギルスが火球を避けながら前進する。
相手の迎撃を警戒し、ギルスが槍を盾のように構えて待機する。この構えはギルスの持つカウンター技で、カウンター受付時間中に攻撃を受けると自動で反撃できるのだ。
カウンターで来るのを先読みしていたのか、ジャバウォックは少しタイミングを遅らせてから、火炎のブレスを放つ。
ギルスは咄嗟に退避するが、こうなったら有利なのは攻めに回るジャバウォックだ。
(これだ。アルフィスの強いところは)
動きの遅さや近距離の弱さがジャバウォックの弱点だが、本物のアルフィスのようにCPUは読みの上手さで弱点をカバーしていた。
(苦手な距離のはずなのに、まるで弱点になってないな)
「読み合いの上手さ」や「人間離れした操作精度」など、アルフィスには他のプレイヤーを凌ぐ様々な強みがある。
その中でも、春雪が特に強いと思っているところは彼の「絶妙な間合い管理」であった。
ジャバウォックは常に自身の攻撃がギリギリ当たり、ギルスの攻撃は届かない絶妙な距離をキープしていた。
派手さはない地味なプレイだが、これがとにかく厄介であった。
この間合い管理のせいで、反撃のチャンスが回ってきても、ギルスは相手に決定的な一撃を与えることができないからだ。
(コンボの始動技はかわして後退したが、結構削られたな……)
堅実にダメージを重ねられたせいで、ギルスの体力ゲージは半分を切っていた。
(雑に攻めてくれたらやり返せるのに、あいつの試合データを学習させているだけはある。CPUとは思えないくらい冷静だな)
CPUは徹底的にリスクを排した冷静な立ち回りで、それゆえに隙がなかった。
「私の力でちゃんと全盛期に戻したはずなのに、押されてるね」
「戻ってるのは間違いない。以前はもっとボコボコにされてたからな……」
今までの春雪ならば、ジャバウォックに攻められた場面で、後退できずにそのままKOされていた。
「マスターの全盛期って案外大したことなかったり?」
「すぐに逆転してやるから見てろ」
(相手の飛び道具が強いから、待ち合いだとまず勝ち目はない。それに……)
ジャバウォックには地雷を設置する技があり、時間が経てば経つほど地雷を置かれて戦いにくくなる。
しかも、アルフィスは地雷の爆発から始動する即死コンボを得意としていた。そのため、地雷設置は春雪が最警戒している技でもあった。
両者の距離が離れたからか、ジャバウォックは飛び道具で牽制しつつ、地雷を設置し始める。
(相手が仕掛けた地雷の位置は、常に頭に入れておかないとな)
地雷は埋めた場所が光るので位置が丸分かりだが、数秒経過すると光が消えて画面から見えなくなる。
以前戦った時は、この見えない地雷が敗因であった。
「マスター、逆転するとか言ってたわりに攻められ続けてるね。こういうゲームって攻めないと勝てないんじゃないの?」
「相手の間合いで無闇に攻めても、手痛い反撃を受けるだけだ」
「近づいても近づかなくても勝てないなんて、詰みじゃん」
「いや、そうでもないぞ。弱点が見えてきた」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます