第13話 普通で終わる筈がないダンスパーティー④

こうして冬期休暇に入る前に始まった学園のダンスパーティー。

幾ら祖母と母が【悪役令嬢】だった過去があったとしても、それを覆すほどの功績を持っている為、繋がりを持とういう貴族は多い。

ましてや、私がフォルデア公爵家令嬢であるローザンヌと婚約している事もあり、その態度とは露骨とまで言えたが、祖母と母は全く相手にしない。

上客ならば笑顔で接するが、客でもない繋がりが欲しいと言う家には厳しかった。

特にノザンには婚約者がいない。

しかも跡目を継がないとはいえ、是非婿にと言う家も多かったが――それ以上に凄かったのはリリーの話題だ。


『婚約者のいる男性を三人も連れ歩いて見っとも無い』

『娼婦のようだわ』


そんな声があちらこちらから聞こえる。

無論婚約者の家も良い顔は一切していない。

まるで射殺さんばかりに睨まれていることにすら気付いていないのには神経図太いな~とさえ思った。

すると――。



「あ、ライカさまぁ~~~!!」



と、私に近寄ってきた。

思わずローザンヌが私を庇う。



「も――! 私貴方が迎えに来るのずっと待ってたんですよぉ~!!」

「貴女に暴力を振るわれてから恐ろしくって!!」



その言葉にザワリと会場が揺れる。

事実なのだから仕方ないだろう。



「ああ、第二王子と我が弟ロディが止めなければ危なかったらしいな。私も途中で駆けつけたが、暫く保健室にいたのだとか」

「本当なのかい? ローザンヌにロディ」

「はい、後ろから行き成り……俺もビックリしました。セシル様が止めに入らなければどうなっていたか」



ロディの言葉も相まって、リリーは学園内にて私に暴力を振るった事が伝わる。

それは波紋のように広がり、更にリリーたちを追い詰めて行くことに気づいていない。



「そもそも、婚約者である私がいるのに、何故そうもライカに構う! もう其方は婚約者のいる男性を3人もはべらしているだろう!」

「ライカ様は~! 私の一番の運命の人だから! ローザンヌが何て言おうと最後は私が選ばれるのよ? ね~? ライカ様!」

「それだけはないですね!!」

「へ!?」

「だって俺はローザンヌに3度も恋をし直しては惚れ捲ってますから!」

「おお……ライカ、私とて君に何度も恋をしているんだぞ?」

「ローザンヌ……」

「何時までも私だけを見つめていてくれ……その輝く金の瞳で」

「はい……」



と、思わず二人だけの世界に入り周囲が「まぁ……」と頬を赤らめる中、つんざくような声が響き渡る。



「も――!! 何でこうも上手くいかないの!? 他の男共は何とかなってるのに!! やっぱりローザンヌが邪魔ね……いっそ殺してやろうかしら」

「なっ! リリー流石にそれは」

「男爵令嬢ごときが、我がフォルデア公爵家の人間を殺すと言ったのかね?」



そうフォルデア公爵夫妻が前に出るとリリーは「そうよ、邪魔なんだもの」と悪びれる様子もなく溜息を吐きながら口にした。



「そもそも本体のストーリーではローザンヌがライカ様と接点を持つ事なんて無かった筈なのに……全部ローザンヌがいけないのよ! 見た目も筋肉ダルマだし、何よ、そんな不格好な姿まで晒して」



これには我がフランドルフ伯爵家が声を上げた。



「あら、わたくしたちが丹精込めて作った一点物をそんな風に仰るなんて。流石我が家を出禁になった御令嬢は違いますわね、お母様」

「ええ本当に、我が家に来るたびにつんざく声でライカライカと騒いで。ライカはいないと言うのにやって来ては何で居ないのかとノザンと喧嘩してましたわね」

「ノザンはいないと言っているのにこの娼婦が言う事を聞かないのだとか」

「ああ、第一王子からの命令だから致し方なく……でしたわね」



その言葉に今度は第一王子であるゼドールにまで飛び火した。

これ以上会場で騒ぐのは不味いと思ったのだろう、三人の阿呆共もリリーの機嫌を取ろうとしていたその時だった。



「ノシュ・ファボレ伯爵令息」

「ボール・カマン伯爵令息」

「並びに……ゼドール・グレンダイザー第一王子。私たち3人は貴殿との婚約を破棄致します!」



と、家族を連れゼドール様の婚約者であったセレスティーナ様、ボール様の婚約者だったジュリエット様、ノシュ様の婚約者だったナイジェリー様がこの会場で婚約破棄を言い渡した。

これには国王も立ち上がって驚いていたが、会場はシーンとなり……3人の男たちは「え?」と言う顔をしている。

ゼドール様なんて後ろ盾であってセレスティーナ様が居なく成れば最早ゴミ。

それすらも分かっていないのだろう。



「罪状は……言わなくともご存じですわよね?」

「度重なる浮気、その娼婦を最も大事にしてわたくしたちを蔑ろにし、エスコートもしない」

「何度注意を致しましたけど、一切聞き入れなかったわ」

「わたくしたちの両親も呆れてますの」

「もう貴方がたなんていらないわ」

「そちらの有責で婚約破棄ですわね」



これには馬鹿3人の内2人の親が駆けつけたが時すでに遅し。

リリーをそっちの気でノシュとボールが慌てていた。



「な、何故急にそんな事を言い出すんだ!」

「君たちは俺達の言う事を聞いていれば!」

「その考えですわよ」

「わたくしたちを蔑ろにしてまで言う事ですか!?」

「「それは……」」

「ほとほと呆れましたの」

「何時までもその娼婦と仲良くしてくださいませ?」

「でも、貴方がたより、その娼婦はライカ様がいいそうですけど?」

「捨てられるのも時間の問題ね」

「嫌だわ……クスクス」

「「クスクス」」



その言葉に急に私の方を見た三人に思わずローザンヌが庇う。

マントを翻し私の前に立ったローザンヌはカッコイイ……惚れちゃう……。



「ノシュ・ファボレ伯爵令息。ボール・カマン伯爵令息。ゼドール・グレンダイザー第一王子。こちらはそちらの娼婦……リリー・フィフィリアン男爵令嬢に追い回されていい迷惑だ! 良い加減にして貰えないだろうか!!」

「な、追い回すなんて」

「追い回していなければなんだ! ストーカー行為か!!」

「ひ、酷いわ!! 私はただライカと恋をしてフランドルフ伯爵家に嫁ぎたいだけなのに!」

「「「リリー!?」」」



この一言で会場は更に静まり返った。

この3人の事など全く考えていない自分本位過ぎる本音だったからだろう。

それでも尚言葉は続いた――。



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