第12話 普通で終わる筈がないダンスパーティー③

そこは正に、異様な空気に包まれていた――。

女子寮の前で次々自分の婚約者を連れて会場に向かう者すらも眉を顰めていた。

それもそうだろう――なぜなら。



「セレスティーナ、君は一人で会場に行ってくれ」

「は?」

「ジュリエット、君もだ」

「え?」

「ナイジェリー、言わなくても分かるよね?」

「……は?」



女子寮の外まではエスコートしたばかりに、ゼドール・グレンダイザー第一王子、ノシュ・ファボレ伯爵令息、ボール・カマン伯爵令息がエスコートを辞退したのだ。

相手は彼らの婚約者、無論由緒ある家柄の女性たちだ。



「我々はリリーと共に会場に向かう」

「貴方、本当に言ってますの?」

「呆れましたわ……此処まで愚かとは」

「愚の極みですわね」

「リリーを侮辱する気か!?」



と、一触即発の空気の中、列に並んで私もその光景を見ている。

先生たちも駆けつけて「何事です!」と言っているが、王子たちは自分達こそ正しいと思っている為先生の言葉なんて聞きやしない。

この王子たち終わったな……と内心思ってると――。



「「「ライカ・フランドルフ!!」」」

「ん?」

「そんな所にいたのか! 小さいから分からなかったぞ!! 喜べ! 冬季休みの間貴様と過ごせないと泣くリリーの為に俺の所有する別荘に案内してやる!!」

「お断りします」



それは正に即答だった。

馬鹿を通り越して阿呆だわ。

ため息交じりに返事を返すと、まさか断るとは思っていなかったのか顔を真っ赤にして肩を掴まれた。

結構痛い!!



「暴力反対です!!」

「貴様!! 俺が招待すると言ったら首を縦に振れ!!」

「嫌です!! 俺は冬季休みは領地の視察があるんですから行きません!!」

「なんだと!? 領地など他人に任せて遊び惚けていればいいではないか!」

「それが第一王子の言う言葉ですか!? なんて情けない!!!」



そう叫ぶとギリッと歯を食いしばる音が聞こえ拳が飛んで――来なかった。

寧ろ痛む肩が楽になったと同時に第一王子が吹き飛んだ、壁にめり込んでいるが……大丈夫だろうか。



「全く、私の大事なライカに何をしている。肌に触れるなど到底許せる事ではない」

「――ローザンヌ!!」



そう言って振り返った途端余りのベルばらに胸がバキューン! と跳ね上がり……私は同じ人に3回も恋をしてしまった……。

素敵すぎる!! 格好良すぎる!! もう抱いて!!

と叫びたいのを必死に堪え、そっと痛む肩に手を乗せ「痛むだろう? 先に医務室だな」と言われコクリと頷いた。



「ま、待てローザンヌ!! 我々は!!」

「領地視察をすることも貴族としての責務!! それを第一王子たるものが、他人に任せておけばいい等と、良く言えたものだな!! しかも他人に任せて遊び惚けていればいいだと……? 国を馬鹿にしているのか!!」


ローザンヌの良く通る声が響き渡り、流石にザワリと声が揺れる。

非難する瞳が一斉に三人に向けられたのだ。



「この事は陛下の耳にしっかり入れて置こう。どう陛下が判断を下すのか楽しみだな」

「ロ、ローザンヌ貴様ぁあああああ!!!」

「事実を言われて何を怒っている。君たちも大変だな……こんなのが婚約者で」

「いいえ、流石にもう呆れを通り越しましたわ」

「わたくしも」

「家族で相談し合っていたので大丈夫ですわ」

「そうか、君たちも良い未来が訪れることを祈っている。では共に会場に向かおうか」

「「「ええ」」」

「それと、君たちの待っているリリーだが、寮母に連れられて先に会場に行ったぞ。追いかけなくていいのか?」



ローザンヌの言葉にハッと我に返った三人は我先にと外に飛び出して行った。

これには呆れを通し越して馬鹿丸出しだなと未来を憂う者達が多かったが、婚約者を置いてサッサと去った事には怒り冴え湧いてくる。



「婚約者がいるのに大事にしないなんて……っ!」

「良いのですライカ様」

「こうなる事は目に見えていましたから」

「この度のパーティー。少々問題になるかも知れませんがお許しくださいね?」

「はは! 断罪してやるといい」

「「「そうしますわ」」」



どうやら断罪劇は決まっているようだ。

思わず溜息を吐いてしまったが先に医務室に向かいポーションで肩を直すとホッと安堵する事が出来た。

お三方は先に行って待っているらしい。



「全く、ライカに跡を着けていいのは俺だけなのにな?」

「まだ婚約なんですから駄目ですよ?」

「しかし、暫く君と二人で領地視察だろう? お父上やお爺様が居たとして、耐えれるかどうか」

「全くもう……ローザンヌは気が早いです。結婚までは綺麗な身体でいて下さいよ?」

「まぁ安心しろ。男が喜ぶことは前世でタップリと経験済みだ」

「うわぁ……そういう店に行ってたんですか? それとも恋人が? 結婚してたとか?」

「俺も男だからな。そういう店には何度か行ったことはある。恋人はいたりいなかったり」

「モテたんですね?」

「やきもちか? 今の俺は君に夢中で結婚をと思っているのに?」

「まぁ、それは嬉しいですけど……」

「ふふ、存分に可愛がってやるから安心しろ」

「ひぇ……」



大人の男の魅力……見た目的にも雄っぽさが増す!!

迫力美人なのに!!



「さて、素敵な断罪ショーを見る為に行くとするか」

「そうですね、どうなるのか楽しみです」



そう言うと立ち上がり二人ダンスパーティーの会場へと向かうと、毒婦リリーと三人の馬鹿の後ろに婚約者だったであろう方々、そしてその後ろに私達が着いた。

扇で口もとを覆っているけれど怒りのオーラが凄い。

毒婦に気づかれないようにそっと彼女たちに隠された私も身長の低さが辛い。

とはいえ、扉は開き――。



「ゼドール・グレンダイザー第一王子並びにノシュ・ファボレ、更にボール・カマンと、最後にリリー・フィフィリアン入場です」



聞くだけで頭が痛くなりそう。

一人の女性に婚約者が居ようとも4人で会場に入場するとか……。

そう思ったけれど、その後女性たちが一人ずつ呼ばれて会場に入り、これには更に会場が騒めいた。

婚約者を一人にして他の令嬢と4人で入場した彼等に何が待ち受けているかは――想像に難くない。

最後に――。



「ライカ・フランドルフ並びにローザンヌ・フォルデア入場です」



その声に現れた凸凹な身長の私達に視線が向かったが、ローザンヌの男装姿に見惚れる女性、そして何故か私に見惚れる男性の視線に遠い目をしたくなりつつ中に入り、フォルデア公爵家とフランドルフ伯爵家の双方が待つ場所へと歩いて行ったのだった――。



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