第10話 10 普通で終わる筈がないダンスパーティー①

年末の学園で行われるダンスパーティー。

俺には全身を赤く染めるというのは難しい為、赤のハンカチに赤いバラの飾りをつけて参加するようにしているのだが、俺の髪色は残念ながら黒。瞳は金だが目立って良い顔ではない。

ローザンヌに黒のドレスを着て貰う訳には行かないのだが、絶対黒を着て金を何とか着けるといた為、文句をつけることは出来なかった。

そう、私たちは心底愛し合っているのだと周囲に、そして毒婦リリーに見せつける為にも大事な事だった。


また、ローザンヌは普通の女性の着るドレスでは似合わない為、毎回オーダーメイドなのだ。

その服のデザインは我が祖母も感心しており、今回のローザンヌの服は我が家の女性陣二人が担当するらしく、祖母と母から「楽しみにしていなさい」と言われていた。



「そこで問題を起こさなければいいんですが」

「ああ、リリーに首ったけの男達にも確か婚約者はいなかったか?」

「いたかと……思いますね。それぞれそれなりに名のある御令嬢だったかと」

「捨てられるんじゃないか?」

「一応陛下も参加される年末の学園のダンスパーティーで男性陣が捨てられるという断罪シーンは余り見たくありませんが……あり得そうで怖いですね」

「ノザンには婚約者はいなかったと聞いているが、ノザンは既にあの面子から手を引いている。となるとノシュ・ファボレ伯爵令息、ボール・カマン伯爵令息、それにゼドール・グレンダイザー第一王子の三人か」

「兄にも一応婚約者はいるんですが、蔑ろにし過ぎて王家で今大変揉めております」



と、毒婦リリーから、そして最近チラホラ姿を見るようになったその三人から逃げる為にAランクしか入れないサロンにて昼ご飯を食べつつ私たちは会話をしていた。

ファボレ伯爵と言えば現騎士団団長の家だし、カマン伯爵と言えば宰相を出している家系だ。その二つがEランク……この国ヤバいのでは?



「国王陛下は何と仰られているのだ?」

「これ以上リリー・フィフィリアン男爵令嬢に熱を上げるつもりなら、王太子を僕に指名すると言っています」

「それに付いてあの馬鹿王子は?」

「ただ癇癪を起して話にならず、陛下も最早匙を投げた所です。恐らく新年には僕が王太子と発表されるかと」

「毒婦凄いな……第一王子を普通なら王太子にのし上げるのが鉄板の話だと思うんだが、私の考え違いか? 記憶違いとも言うのか?」

「いえ、ローザンヌの考えがあっているかと思いますし、記憶違いでもなんでもないです」

「となると、セシル様の時代の宰相となる人物の選定などが行われるわけですね?」



そうロディが語るとセシル様は強く頷き、その次に大きく溜息を吐いた。

どうやら芳しくないらしい。

その件の弟たちを……と言う話らしいが、彼等もまたやる気がない為良くてBランクなのだそうだ。

流石にAランクで……と言うのは中々に難しいらしい。



「年は離れるが、来年学園に入ってくる彼らの三男に期待するしかなさそうだ。それで駄目なら違う所からと言う話になっている」

「なるほど」

「やる気がない者を傍には置きたくないですよね」

「そうなんだよねぇ~。ロディとライカが傍にいてくれたら頑張れるのにぃ」

「俺は公爵家を継がねばなりませんし」

「俺も伯爵家を継がねばなりませんし」

「も――頭痛い! 僕の婚約者選びも本格化してくるし、正直辛い!! ライカくらいの可愛い子なら良いけど!!」



そう言って両手で顔を覆って悲しむセシル様に思わず遠い目になったけれど、セシル様も苦労してるのね……毒婦の所為で。

あらゆる人間を奈落に落としつつ高笑いしている毒婦リリーが想像できてゾッとした。

ある種の悪役令嬢なんだろうけど、リリーだけは駄目だ。

ノザンもそれは理解しているんだろう。

そもそもノザンとリリーが付き合ったらもれなく私を落とすために近寄ってくるのは理解しているし、ノザン自身もリリーが自分に靡いたのが私を落とす為だと理解してしまったら、もう愛する事なんて無理だろうしなぁ……。


あれからノザンは本当に勉強を必死にしていて、来年にはAランクには行けるんじゃないかと言う所まではかなり良い線を行っているらしい。

そしてもし仮にAランクになった場合、一年の友好国への留学を求めているのだとか。

半年と言う留学だが、両親もそれに納得している。

多分花嫁を得る為の留学だろうなぁ……とは思うけど、他国から悪役令嬢を迎える気なのだろうか……リリーの様な毒婦じゃないと良いけど。

けど、私がフランドルフ家の跡取りとなった以上、これを覆すことは最早難しい。

ノザンはどうするつもりなのだろうか? 他国に婿入りだろうか?

大抵の女性はその頃には既に婚約者がいそうな気がするけど……。



「穏便なダンスパーティーには……ならないだろうね」

「恐らく。血の雨を見なければマシくらいに思っておいた方がいいと思います」

「ライカは私から離れるんじゃないぞ?」

「はい!!」



――こうして、時間ギリギリまでサロンで会話をし、兎に角リリーに会わないようにと必死に避け捲ったお陰で何とか今は事なきを得ている。

せめてダンスパーティーまでは何とか……毒婦リリーから逃げておきたい。

でも、ダンスパーティーの際には女子寮に自分のパートナーを呼びに行く風習があり、その時ばかりは私一人だ。

気を付けて行かないと……。

学園の方も何かしら対策してくれると良いんだけど……そんな事を思いつつ、年末の試験を終えてホッと安堵してからのダンスパーティーとなったのだけど――。


普通で終わる筈なんて無かった。

もう阿鼻叫喚地獄絵図。

それが私の知らない所からスタートしているなんて、思いもよらなかったのだった――。



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