第68話 四度目の正直
「せーの!」
俺はヒメカに、ヒメカは俺に合計点数が記載された紙を一緒に表向きにした。
山本元……1位(892点/9教科)
松本雛……2位(891点/9教科)
「あーん。今回こそはハジメに勝てると思ったのに」
ヒメカは悔しそうに言った。
あっぶな……。
ってか、九教科合計891点って普通の勉強している人には取れない点数だと思うのだが……。
その証拠に第3位の人は864点だったみたいなので、俺達とは約30点も差がある。
「こんな点数見たことないよ」
ユウマは俺の机にあったヒメカと俺の成績表を見てそう言った。
「うん。ほぼ満点レベルじゃない」
林も唖然としていた。
俺も激しく同意だ。
チート無しでここまでの点数を取ったヒメカが少し怖くなった(もしかしたら、出戻りしてるとまで感じるほどだ)。
でも、今回もなんとかヒメカに勝つことができた。
もう恐らく今回しかチャンスはないだろう(なぜなら、次出戻りをするとヒメカに点数で負けてしまうだろうから)。
とにかく、これで後は25日にヒメカを助けるだけだ。
全て、俺の考え通りに行くはずだ。
☆☆☆
12月25日。
世間はクリスマスムード満載の今日だが、俺にとっては世界で一番大切な人を助ける日になる。
俺は朝6時には目が覚めて、ベットから起き上がりジャージに着替えをした。
「今回こそは昔の私に勝ってくださいね」
上から死女神の声が聞こえてきた。
「おう。反対にお前は怒られる準備をしといてよ。これに失敗するのは結構ダメなことらしいじゃんか」
「私とは別のパラレルワールドの私なんで、大丈夫ですよ。後、私は次の日には大体忘れるんで」
それは言えてるな。
間違いで俺を殺した癖に、今では生意気な口を叩くくらいだし。
ちなみに、今日のランニングは無しにした。
これも全て最初の人生と条件を同じにする為だ。
正直、もう戻れない過去も大きく変えてしまったが、ここから以前と同じように修正すれば、ヒメカがあのスーパーに行くのは前回で検証済みだ(前回は体調が悪いと嘘をつき、ランニングにいかなかったからな)。
まず、いつも通り卵掛けご飯を朝ごはんとして前回と同じように朝八時頃に食べる。
そして、そこからはベットの上に行き、テスト勉強で全く読めていなかった漫画をひたすらに読んでいった。
確かに前回と最初の人生を丸々コピーすることはできないが、ある程度踏襲すればきっと問題ない(と俺の勘が言っている)。
だから、今回は少しだけ俺の出発時間を早めにする予定だ。
前回に関しても寝ずに、俺が家を出るのが二分早ければヒメカを助けることができていたと思う。
つまり、最後の交差点の所でヒメカの動きを観察していれば、いずれヒメカはあのスーパーに行き、スーパーからでた所で余裕をもって助ける事ができる。
だから、今日は15時位にはスーパーの隣にある公園でヒメカを待伏せしようと思う。
これで抜け漏れはないはず。
結構漫画が溜まっていて、夢中になって読んでいるといつの間にか14時になっていた。俺は一階に降りて、コップに牛乳を注ぎ、それを勢いよく飲んだ。
「よし」
「あんた、どっかに行くの?」
居間でテレビを見ているお母さんが言った。
「ちょっと、近くのスーパーで飲み物買ってくる」
「じゃあ、適当にお菓子と小麦粉買ってきて。よろしくー」
まさかのおつかいまで頼まれるとは……。
だったら、ヒメカが来るのは早くても15時半位だろうし、先に食材買いに行って待伏せすることに決めた。
☆☆☆
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
店員さんから有料のレジ袋をもらい、自分で小麦粉、スナック菓子、温かいココアを不細工に入れて、スーパーを後にし、スーパー横の公園に移動した。
やはり、昼間と言っても大分冷えるな。
俺は手元にあるココアをちょびちょび飲みながら、ヒメカが現れるのを待っていた。
…………が、16時になってもヒメカが来ない。
絶対に何かがおかしい。
俺は走って、ヒメカの家に向かう。
もしかすると、何かが変わって、ヒメカが家にいるかもしれない。
「松本さんが家にいる場合が一番最悪です。私達、死神がコントロールできるのは車ですので、家に突っ込むということですね」
いつかそんなことを死女神が言っていたな。だったら、尚更なんとかしないと。
16時10分にヒメカの家に到着。勢いよくインターホンを押す。
「はいー」
……ヒメカの声じゃない。ヒメカのお母さんだ。
「山本ハジメです」
「あ、ハジメ君ね。ちょっと待っててね」
ヒメカのお母さんはそう答え、音数秒後に予想通りヒメカのお母さんが出てきた。
「忙しい所急にすみません。ヒメカって、どこに?」
「ヒメカはね、近くのデパートで友達と洋服を買いにいくって言って午後一で行っちゃったわ。でも、17時には帰るって言ってたわよ」
あ、岡部達と明日の服を……。
嬉しさもあったが、すぐに言いも言えない「今回もダメかもしれない」という気持ちが出てきた。
………………違うだろ。
やるしかないんだろ。
ヒメカを助けるんだろ。
「おばさん、ありがとうございます」
「いえいえー。気を付けていくのよー」
お辞儀をして、すぐにデパートに向かった。
17時に帰るのであれば、きっともう店を出ているはず。急がないと。
全ての体力を使い切るかのように全力でデパートに向かった。
「間に合ってくれ!」
俺はただひたすらに全力で走った。
今回を逃したら、ヒメカを助けることは困難になる。
火事場の馬鹿力なのか、速度がどんどん上がっていく感覚を覚える。
だけど、時間も同様に過ぎていく。
何とかデパートに着いた。
時間は16時45分。
問題はここからだ。どこにいるかが分からないから、探すしかない。
とにかく出口の方を確認するように走って回ったがどこにも見当たらない。
もしかして、入れ違いになってるんじゃないか?
俺はそのことに一番最初に到着した出口の真反対側にいる時にそう思った。
急いで一番最初に到着した出口に戻る。
もうこれ以上、ヒメカが死ぬ世界、ヒメカが悲しむ世界を作りたくないんだ。
俺はヒメカと明日を迎えたいんだ!
出口が見えた時、一番近くの横断歩道をヒメカが一人で歩いていた。
俺はスマホの時間を見た。
丁度17時。
顔を上げると小さな軽自動車がヒメカに気づいていないのかかなり早いスピードで曲がろうとしていた。
「ヒメカ!」
俺は叫びながら、全力で走った。
それに気づいて、ヒメカが俺を見て、「ハジメ!」と少し驚いている顔をしていた。
そんなに驚かなくてもいいだろ。
あれ?
やけにスローモーションに時間が過ぎている気がする。これなら…………。
俺は両手でヒメカを押した。
何とか、ヒメカは助けられたみたいだな。
少し安心した。
…………だが、俺がこの車を躱すことはできないだろう。
ドシャ
「ハジメ! ハジメ!」
地面の冷たさを背中で感じながら、ヒメカの声を聞いていた。
瞼が重すぎる。
俺はその重さに耐えられずにゆっくりと目を閉じた。
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