第67話 起き上がる
「ヒメカ、25日のクリスマスの日はちょっと家族で集まるから難しいんだけど、次の日の26日は空いてる? 良ければ、どっかに出かけないかと」
俺は目の前にいるヒメカに向かって言った。
ちなみに、場所はいつもの図書館だ。
「え……?」
「そ……その、いつも勉強とか付き合ってもらってるし、感謝もあるからその……」
「つ……つまり、そ……その……デート…………ってこと?」
ヒメカは一瞬俺の顔をジッと見たが、すぐに顔を伏せ、耳を赤くしながら俺に質問をした。
そんな反応されるとこっちまで照れてしまう。
「ま……まあ、そうかもしれない」
俺もヒメカと同じように顔を伏せながら、答えた。
俺達にしては珍しく静寂な時間が流れた(勉強中以外ではの話である)。
「…………いいよ。でも、それは冗談じゃないよね?」
お互いに顔を伏せてから5分位経った頃にヒメカはそう答えた。
確か何回か前の人生でも同じようなこと言われたっけな。
冗談なはずがない。
「冗談でそんなこと言わないタイプっていうのはヒメカが一番知ってるだろ?」
俺がそう答えると、ヒメカは顔を真っ赤にしながらも、笑顔で俺の顔を見た。
目には涙が溜まっているように見えた。
…………とりあえず、これでヒメカと25日に会わないようになる未来になったはず。
さて、正直これで4回目の人生出戻りだから、どういう問題がテストになるのかは勉強しなくても分かっているが、なぜか毎回毎回、出戻る毎にヒメカの点数も上がっているので、勉強しない訳にはいかないな。
☆☆☆
「山本君、ちょっと」
ヒメカを26日に遊びに誘った次の日、林と岡部に呼ばれ、屋上の入り口前まで3人で向かった。出戻り2回目か3回目らへんであった時のような感じなのだろう。
「何で25日じゃないんだー?」予想していた質問と違っていた。
「25日がよかったんだけど、その日は家族で予定があって、次の日ならと」
嘘はついていないが、本当でもない答えを返した(一番最初の人生では、家族と一緒に七面鳥食べていたし)。
「なるほどね。確かに私の家でもそんな感じのことはするけど、普通デートするなら25日と思って、ヒメカから話聞いた時に変だなと思ったの」
「まあ、直接的に言うとだな、冗談でヒメカを26日に誘ったんじゃないかって思っただけだったのだが、大丈夫そうだなー。山本はそういうことができるタイプじゃないと思うしー」
岡部は林の言った言葉に被せてそう言った。
本当にいい友達にヒメカもだけど、俺も恵まれたなと改めて思わされた。
「それは大丈夫。もし、26日を何事もなく迎えられたら、俺、ヒメカに気持ち伝える予定だから」
林と岡部の目をしっかり見て答えた。
すると、林と岡部は安心したのか、地面に座り始めた。
「その言葉を聞けて安心したわ」
あの真面目な林がうなだれていた。
まるで岡部の魂が乗り移ったかのように。
「そうだなー。文化祭の時も言ったが、ヒメカの事、頼むぜー」
岡部は立ち上がり、俺の肩を叩いた。
「ああ。勿論、そのつもりだよ」
俺は自分にも言い聞かせるようにそう答えた。
☆☆☆
それからというもの、俺は以前の人生と基本的に同じように過ごした(一番最初の人生を除いてという表現が正しいか)。
朝は体力作りの為にヒメカとランニング、それから学校に向かい、放課後はヒメカと一緒に勉強をする。
なぜ、同じように過ごすかだって?
それは25日に行うヒメカの行動を同じにしたかったからだ。
「基本的に決められた時間に死神は対象者を殺す必要がありますー。まあ、例外としてその時間より早めにというのはありますが、それでも12時間前位ですねー」
以前、死女神がこんなことを言っていたしな。
前回を除いて、今までは意地でも過去を変える為に動いていたせいで、その例外が何度も起きていた。
反対にいえば、例外さえ起こさせなければ、最初の人生のようにあのスーパーの帰り道の横断歩道でそれが起きるはず。
時間はきっかり午後五時。
でも、ここで問題がある。
それは、ヒメカの学力が出戻りをするごとに上がっているということだ。
一応、前回まではヒメカにテストの総合点では勝っているが(ほぼカンニングと変わらない状態だし)、今回に関してはヒメカは満点を全教科で狙える位のレベルにまでなっていた。
「ヒメカ、なんか特別な勉強をしているのか?」
気になって、目の前にいるヒメカに聞いた。
「うーん、特別な事は何もしてないよ。でも、もうハジメには負けたくないからね」
そう答えたヒメカの目は輝いていた。
そういえば、小さい頃からヒメカは負けず嫌いだったな。
でも、今回ばかりは負けるわけにはいかない。
やっと、ヒメカを助けられる計画まで立てられたんだ。
止まっている訳にはいかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます