第65話 The important words
あれからと言うもの狸先生の言葉が変に頭に残っていた。
授業を受けてる時も、それこそ期末テストを受けてる時も何度も何度も頭の中でその言葉が反芻した。
「諦めたいのが貴方の本心なら諦めればいいんです。でも、諦めたくない本心を無視して、諦めるのは後悔が残るだけですよ」
でも、俺は結局何もしなかった。
ヒメカをクリスマスに誘う時間も、タイミングもあった。
けど、誘おうとすると体があの轢かれる瞬間を思い出したのか強く固まってしまう。
次死んだら、俺は二度と出戻りできなくなる。
この考えが俺の勇気を幾度となく奪ったのだ。
そして、遂に何もしないままクリスマスが来てしまった(期末テストは何とかヒメカに競り勝ち一位をキープしたが、今までで1番危なかった)。
前回までは髪をセットしたりとかヒメカを守る意味もあるデートを楽しむ為にそうしていたが、その彼女との予定が無いのだから特に問題はないでしょ。
俺はもう一回ベットに仰向けで寝転んだ。
目の前にはホワイトクリスマスと同じ色をした天井があったが、全く美しくなかった。
「本当にそれでいいんですか?」
上から久々にあの死女神の声が聞こえてきた。
「いいわけないだろ。でも、人間は死神には勝てないんだよ」
ぶっきらぼうに答えた。
それから死女神は何も答えなかった。
今日はヒメカとのランニングの約束もしてないから、久々にまったりする時間が取れた。
もう一回ゆっくりと目を閉じ、殻に閉じるように布団にもう一回くるまった。
☆☆☆
ここはどこだ?
下は芝生っぽい何か。涼しい風が吹いている。
俺はそこに一人で寝っ転がり、ただただ時間が過ぎるのを楽しんでいた。
「こんなことしてていいんですか?」
急にやけに聞き覚えのある声が聞こえてきた。
起き上がり、前を見ると狸先生がそこにいた。
「何で先生がこんな所にいるんですか?」
俺は質問した。
「それは私も貴方と同じだからですかね。与えられた使命は違うみたいですが」
俺と同じ?
まさか……。
「先生も手違いで殺された……」
「そうです。私の場合は奇跡的に生き返らせてもらった形ですので、そこが貴方とは違うようですが。加えて、私は人の夢の中に入れるというだけです」
先生も俺と同じだったのか。
確か、死女神も滅多にないけど間違いで人を殺してしまう事があるみたいな事言ってたな。
「まあ、私の話はいいです。ここでは時間はゆっくりでしか進みませんのであの時はできなかった話をしましょうか」
先生は俺の前に座った。
小太りだから、胡座では少し体勢がキツそうに見えた。
「山本さん、今貴方に何が起きているのですか?」
先生は俺に聞いた。
だが、俺は正直にこの出戻りの話をしていいか分からず困惑した。
先生はそれに気づいたのか続けて話した。
「大体は貴方の死女神さんから出戻りの能力のことも松本さんのことも聞いてますから大丈夫ですよ。私を助けてくれたようなもんですから」
俺はその先生の言葉に安心して、全部を話した。
今日、ヒメカが死んでしまうこと。
次、俺が死んでしまったら二度と生き返れないこと。
このままでいれば、誰も傷つかずにずっとヒメカといれることを…………。。
「私も山本さんと同じ立場なら、そうするかもしれませんね。でも、まだある事を貴方は知らないようだ」
「それは一体?」
俺は唾を飲んで狸先生に質問した。
「山本さんは出戻りしてるから気づいてないですが、全て繋がっているんです」
「え?」
俺は先生が何を言っているか全く分からなかった。
「つまり、例えば前回松本さんも山本さんも残念ながら亡くなってしまいましたが、その世界線も存在しているという事です」
俺の背中に冷たい汗が流れた。
「…………つまり、今まで出戻りしてきた分のパラレルワールドがあるということですかね?」
「はい。その解釈で大丈夫です。残酷ですが、山本さんは今無数のパラレルワールドを作っていて、前回以外全てで山本さんは1番最初の人生と同じようになっています」
なんていう事だ。
「ちなみに前回は?」
「前回は1番悲しいパラレルワールドだったそうです」
先生はそう答えた。
そりゃそうだよな。俺もヒメカも……。
「ですが、天才の死女神アケミ様を追い詰めたのも事実です。今みたいにグータラして、山本さんを殺してしまうような事は二度と起こさなかったようです」
「そうなんですね」
「だから、無理にとは言いませんが、後もう一歩だったというのは事実でしたし、少なくとも第二の山本さんを救ったのです。次死んだら、終わりかもしれないですが、終わらないかも知らない。だったら、松本さんが生きている世界線も見てみたくないですか?」
先生の言葉にハッとさせられた。
「…………俺、いってきます」
「はい。いってらっしゃい。もう夢は覚めますからね」
先生は俺の背中を軽く叩いた。
ゆっくり目を開けるといつもの俺の部屋に戻っていた。
時間は16時半、ヒメカのタイムリミットまで残り30分。
俺はどうすべきかが分かっていなかった。
でも、この世界は俺のパラレルワールドになっているんだろ?
確かに、このままグータラ過ごしていれば、俺が死ぬことはない。
だが、ヒメカは1番最初の人生と同じように交通事故に遭い、俺の人生はただただ空虚なものになっていってしまう。
あの時、一緒にいればと何度も何度も後悔する毎日なのが経験したからこそ目に見えて分かる。
ここでただただ次の後悔で出戻りするか、それとも今のヒメカを助けるか。
「…………死女神、俺、もう一回死んでもいいか?」
俺はただただ真っ白な天井を見ながら聞いた。
「…………ダメですよ」上からそう聞こえてきた。
やっぱり、無理なのか……。
「…………でも、それは私以外の普通の死女神達ならですが」
「それってつまり……?」
「もう一回死んでも私が何とかしますよって事です」
死女神は答えた。
…………なら、とにかく走って向かわないとな。試したい事もあるし
「ありがと」
俺は何もない天井にそう言い、すぐにパジャマから動きやすいようにランニング用のジャージに着替えて、家を飛び出した。
今回は途中までは違えど、今日に関してはおそらく1番最初の人生でヒメカが交通事故に遭ってしまったスーパー前の横断歩道の方に向かってるだろう。
全力で走って向かう。
けど、いつもランニングしていたから、あまり疲れない。
でも、出発時間が遅かったからつけるかつけないかギリギリ。
自分の全部の力を使い切るように走っていたから、想定よりも早く最後の曲がり角が見えた。
スマホを取り出し、時間を見る。
16時59分。残り1分。
ペースを全速力まであげて、曲がり角を曲がると少し遠くにヒメカがスーパー前の横断歩道で待っていた。
その横から変な動きをしているトラックも見えた。
ヒメカが渡る側の信号が青になり、ヒメカは横断歩道を渡り始めた。
だが、トラックはやはり止まる気配ない。
間に合うか?
いや、間に合わせるんだろ!
「ヒメカ!」
「え?」
ズシャァ……ドンッ
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