第17話 納得がいかない
「おい! 死女神、どういうことだ!」
俺は今回の後悔については全くもって納得いっていない。
確かに赤点を取ったけど、補修はなし。
つまり、赤点だけだけど、赤点じゃなかったんだ。しかも、今まではある意味油断していたけど、今回はしっかり努力してたから、後悔は全くない。
「そんなに怒らないで下さいよー。山本さんの後悔ですが、1番最初の人生の後悔を越える必要があるんですー。そして、今回のは赤点(?)を取ったことが後悔なんで、赤点を取ったから元に戻ったってだけなんですー」
「つ……つまり、補修があろうがなかろうが関係なく赤点を取っちゃダメということか」
「はいー」
「そういうことは先に言えよ!」
「ひぇ! そんなに怒らないでくださいよー。あの口煩い神様かと思いましたよ」
その後、死女神はブツブツと言っていたが、俺はもうどうでもよかった。
というかどうすればいいかわからん。
だって、あんな範囲外のテスト解けるわけないよな……。
うん?
ちょっと、待て。
何で俺は前回の人生の記憶がある?
しかも、出題された問題も覚えている。そういえば、今までも前回過ごしていた記憶が元に戻っていた。これならもしかしたら、今回も同じ問題が出るかもしれない。
俺の目の前に一本の光の筋が見えた気がした。
ピンポーン
前回と同じようにインターホンがなる。
でも、今回は前回とは違うぜ?
「ハジメー!」
「俺が行く」
「あら、言う前に行くなんて珍しいこともあるのね」
俺はお母さんの言葉を遮るように彼女がいる玄関に向かう。
「おはよ、ハジメ!」
やっぱり、ヒメカだ。
「おはよう。どうしたんだ?」
俺はこの後の流れを知っている。一旦は知らないフリをしておこう。
「これから空いてる?」
「おう。空いてるけど、どうした?」
「えっと、一緒に勉強しない?」
「おお、いいぜ」
前回はヒメカに教えてもらってばっかだったからな。しかも、そんなにしてもらったのにお互い赤点だったし。
俺は折角ならヒメカと一緒に赤点を回避したかった。
だって、まあ何て言うんだろうな。一番最初の人生から俺がどんなにはぶられていてもヒメカだけはいつも一緒に居てくれてたからな。
まあ好きとかそんな感情は無いが、ヒメカには幸せに生き切って欲しかったからな……。
「じゃあ、ちょっと着替えてくるから玄関で待っててくれ」
「うん。ゆっくりでいいからね」
その時見せたヒメカの笑顔はあの俺が見た最後の笑顔と同じでヒマワリよりも明るかった。
☆☆☆
前回と同じで図書館に到着。
でも、もう一回言うけど、前回とは全く違うぜ?
だって、今回は前回の記憶というある意味チート技が俺にはあるからな。
それもあってか、前回は基本的にヒメカに教えてもらってばっかだったが、今回はヒメカに勉強を教える形になった。
でも、その時にあることに気づいた。俺はヒメカは結構頭が悪いと思ってたけど、そんなことない。
というか、あの時の俺より頭がいいんじゃないかと思わされた。
じゃあ、何で中学校の時は俺に教えてもらおうとしてたんだ?
何でもっと上の高校を目指さなかったんだ。
今だって、元々は前回、ヒメカから教えてもらったことを今回のヒメカに教えてるだけ。
「へへ。やっぱり、ハジメは頭いいね」
ヒメカは笑顔で俺を覗き込む。
何で俺なんかといつも一緒に居てくれるんだよ。俺は何も悲しくないのに、目頭が熱くなってきた。
でも、泣いてる場合じゃない。俺にはやるべき事がある。
とりあえず、今はヒメカと一緒に生物含めて赤点を避ける事が1番大事でヒメカの為になる。
「よし、次は数学やるか」
「うん!」
図書館がやけに静かに感じて、世界が俺達二人だけになったのかと思わされた。
☆☆☆
「ヒメカ、今日はありがとな」
「いやいや、こちらこそありがとう。結局いつも通りハジメに教えてもらったね」
「……お前、実は俺より頭いいんじゃないか?」
俺はつい聞いてしまった。
結局、聞いたところで何も変わらないのに。
でも、言葉は一度出てから引っ込めることはできない。俺にできるのはヒメカの答えを待つ事だ。
ヒメカはスキップをして俺の前を歩き始めた。
「……へへ。私がハジメといたかったって答えたらどうする?」
ヒメカは俺の方を振り返ってみた。
後ろには夕方のオレンジ色の太陽がヒメカを照らしていて、ヒメカの顔は紅く染まっていた。
「お……お前、まさかわざと」
「なーんてね。ハジメに勉強を教えてもらった方がいい点数取れるからだよ」
ヒメカはさっきと同じように俺の横に戻ってきた。そこから、異様に風の音がよく聞こえた。
まあ、なんか急に凄く恥ずかしくなって声が出せなかったのが本当の所なんだけど。
俺はそんな中、ヒメカがどんな感じになっているか気になって横を見る。ヒメカは前をしっかり見て進んでいた。
そして、その彼女の横顔は太陽に照らされていないのに紅く染まっていたように俺には見えた。
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