第14話 中間テスト最終日
「ハジメ、今日で最後だね」
学校に向かう途中でヒメカはそう言った。
「やっとだな。もう疲れたぜ」
俺はそう答えた。
「じゃあ、今日終わったらどこかいかない?」
「え?」
「だって、本当は教えてもらうはずだったのに結局私が全部教えたし」
「はい……。パンケーキでも食べに行きましょう」
「やった! 約束だよ!」
ヒメカはガッツポーズをして、少し先にある校門に向かって走り出した。俺はそのヒメカにつられるように校門まで走って行った。
☆☆☆
「さて、最終日の最初のテスト始めるぞー」
担当の先生が入ってきてすぐにそう言った。
さっきまでは「えー?」「マジでやばい」とかの声で賑やかだったが、先生が入ってきた瞬間に一気に世界が凍ったかのように静まりかえった。
これって、テストあるあるだよなと一人そう思った。
まず、最初のテストは表現英語。簡単に言えば、英語の文法の科目だ。
これは大学でも割と専門に学んでいたし、社会人になってからも英語でメールをしていたから、一番勉強していた楽しかった。
それは実際にテストの問題を解き始めてからも変わらなかった。
どの問題も2週間かけて準備してきた甲斐あって割と分からない問題が少なかった気がするが、表現英語に関しては正直、分からない問題というのはなかった(選択肢で迷うところはあったけど)。
だからか、この表現英語は今までで1番早く解き終わり、合計で3回も見直しする事ができた。
気持ちよく1時間目を終える事ができた。
そして、次は1番授業が進んでいない教科の生物。
ある意味、勉強する部分が少なすぎて、どのように対策すればいいか分からなかったというのが正直なところ。
でも、さっきの表現英語も楽しくっていうのも変だけど、気持ちよく解けたから悪くはないはず。
しっかり、できる対策もしたしな。
「はい。じゃあ、最後のテスト配るわね。ケータイの電源とか切っときなさいよー」
明るい若い女性の先生が担当のようだ。
前の人からテスト用紙が渡され、一枚とり、後ろの人に渡す。
これで中間テスト最後か。なんか、少し寂しい気もするな。
それから、全員にテスト用紙が渡ったのか、クラス中から音が消えた。
「…………じゃあ、配り終わったわね。では、スタート」
先生の号令がかかり、早速スタート。
俺は勢いよくテスト用紙を開く。
…………はぁ?
この生物のテストは他の教科とは異なり、問題形式ではなく、レポート形式のようだった。だが、そんなことはどうでもいい。
なんと、今、俺の目の前に広がる文字のその内容が全くもって知らない単元。
何の話をしているのかが、問題文を何度読み返しても分からない。
こんなの授業でやってるわけがない。
背中にあの自己紹介に失敗した時と同じような冷たい汗が流れたのを感じた。
そして、この意味不明な問題を見て、俺はある事を思い出した。
この生物を担当している先生がどんな先生だったか……。
あだ名は狸親父の田貫。別名、予習の悪魔。
名前の通り、彼のテストには予習が必須なのである。
だが、その事を知っているはずもない一年生の最初の中間テストでは、赤点を取らない生徒はいないと言われていたな(一番最初の人生でも普通に俺赤点だったし)。
そういうこともあり、ほぼ全ての生徒から変な先生扱いされている。
やべえ、それを完全に忘れてた。見た目も太ってるだけだし、授業は普通だから気づかなかった。
でも、もう戻れない。
とにかく、分かる問題に回答していくが、ほぼ全部が範囲外。というかまず授業ですら触れていない。
さっきとは打って変わって、時間がやたらと長く感じた。まあ、理由は解ける問題が無いからで、今の俺にはどうしようもできない。
加えて未来から戻ってきたという利点を活かせればよかったのだが、完全にこういう先生だったのを忘れていたのと、生物に関しては高校二年生の時に文系を選択したから、そりゃ覚えてることなんて何も無かった(当然、一年生の時にやったテストの事なんて何も覚えている訳がない)。
まあ、唯一の救いは俺だけではなく、他のクラスメイトも頭を抱えてるか、寝ているかの人達がほとんどだったことかな。
でも、これってどうなるんだ?
赤点を取ったらダメなのか?
それとも、赤点でも補習が無ければいいのか?
ってか、この教科の赤点も変わるのでは?
多分、普通の高校生活では起きない事が今まさに起きていて、祈るように問題と睨めっこしていた。
だが、にらんでも答えが分かることは無かった。
☆☆☆
「あいつ、マジでふざけてる」
「本当にそう。授業で扱ってない問題ばっかだった」
「ちょっと、これはヤバすぎる」
クラスメイトはそうあの狸への不平不満を言っていた。
俺もクラスメイト達の意見に大賛成だ。
なぜなら、まだまだ先とはいえ、この高校時代の成績が指定校推薦とかにも影響してくるし、ましてやちゃんと範囲を勉強してきた人達からするとバカにされているような気がしてならないだろう。
うん、分かる。だって、俺もそうだもん。
でも、どう吐き出せばいいか分からない&さっきの事が信じられず、周りの声を聞きながら、机に顔を伏せていた。
そんな時、ダイキとユウマが話しかけてきた
「ハジメ、大丈夫か?」
「まあ、体調はね」
「気持ちはわかる。俺もちょっと、この生物のテスト引く位やばいから」
ユウマが俺の言葉に激しく同意と言いたい位、首を縦に動かしていた。
だが、その隣にいるダイキは何やら機嫌が良さそうだった。もしかして、あの問題を解けたのか……?
「何か、ダイキ機嫌よさそうだね」
俺はそうダイキに質問した。
「そうか? でも、問題が難しかったおかげで勉強していない俺と皆の点数が変わらなそうだからな!」
ダイキは透明で透き通っている笑顔でそう言った(この表現が正しいかは分からない)。
なるほど。
ダイキは勉強していなかったから、彼にしてはラッキーだったって事か。
「本当、ダイキって運がいいよね。受験でも自分が勉強した所がそのままでたんでしょ?」
ユウマがダイキに質問した。
「おう! 神様は俺の事が好きみたいなんだよな!」
ダイキはそう答えた。
俺はこの言葉につい笑ってしまった。
さっきまで呆然としてたけど、ダイキの底抜けな明るさに少し救われた。
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