第11話 4個目の後悔

「ハジメ! 土曜日だからっていつまで寝てるのよ! しかも、結局夕飯は食べなかったし」


ドアの前でお母さんが言った。


「うーん。もうちょい寝かせてよ……って、土曜日!?」


 俺はベットから飛び起きて、急いでドアを開けた。すると、そこに少し見慣れてきた若いお母さんがいた。


「もう朝の10時よ。朝食もう冷めてるから、温めなさいよ」

「今降りる!」

「何か今日、機嫌いいわね」


 お母さんは分からないと思うけど、俺、昨日を3回も繰り返してるんだぜ?

 そりゃ機嫌が良くなるに決まってる。

 久々に新鮮な朝だぜ……。


 俺は一階に足早に降りて、机の真ん中らへんにあった目玉焼きをパンに乗せ、電子レンジに移し、温める。


 ……チーン……


 この電子レンジの音が鳴ったと同時に俺の頭の中にある疑問が湧いてきた。


 次の俺の後悔って何だろう?


 イキって手を抜き、クラスメイト、もはやヒメカからも少しの間、より変な目で見られる原因になった体育祭か?


 それだったら、まだまだ二ヶ月あるから準備もできるし、次こそはイキらないで全力でやればきっと……。


 一応、アイツに聞いてみるか。


 俺は手に持っていた目玉焼き乗せパンを三口で平らげて、自分の部屋に急いで戻る。


「おい、死女神! どうせ寝てるんだろ?」


 俺は挑発するように声をかけた。


「はぁ……寝てないですー。それで、今回はどうしたんですか?」

「単刀直入に聞くけど、次の俺の後悔って何だ?」

「あー、ちょっと待って下さいね」


 おいおい。こいつ、自分の担当の人間の後悔を把握してないだと……? 

 まあ、こいつらしいと言えばらしいがやっぱりムカつくな。


 それから5分位経ってから、死女神の声が聞こえてきた。


「はーい。分かりましたよ」

「結構時間かかったな」

「5分くらいで何ケチケチ言ってるんですか。どうせ上手くいかなかったら戻れるんですから文句言わないで下さいー」


 いや、お前が勝手にそうしたんじゃろがい!

 でも、こいつの全てのボケ(?)にツッコんでたら埒があかない。

 時間の無駄だし、話を先に進めよう。


「んで、次は何なんだ?」

「それはですねー」


……ピンポーン……


 その瞬間、インターホンがなる。


「ハジメー。私、今洗濯物干してるから、あんた対応して!」


 別の部屋からお母さんがそう言った。


「えー。俺かよ……」

「ブツブツ独り言言ってないで、早く行く」


 くっそー。今いいところだったのに。上から「怒られてますねー」と高笑いするあの死女神の声が聞こえて、よりイライラした。


「はーい」

「おはよ。ハジメ!」


 俺がドアを開けると、ヒメカが家の前にいた。

 昨日のあの態度が気になっていたが、今日はいつもと変わらない彼女だったので俺は不思議と安心感を覚えた。


「びっくりした。どうしたんだ? 入るか?」

「いや、大丈夫。ってか、これから空いてる?」

「まあ、空いてるけど」

「じゃあ、一緒に勉強しよ! 二週間後中間テストがあるしね」


 俺はこのヒメカの言葉で次の後悔が何なのかを理解する事ができた。


 ……多分、この中間テストが俺の後悔だ。


 というのもこの学校は俺にとって第二志望、滑り止めの学校だったのだ。


 本当は別の学校に進学したかったのだが、テスト当日に風邪をひいてしまい、まともな体調で受験する事ができなかった。


 実力としては、受かれるかどうがギリギリのラインだったから、きちんとした体調にではない俺では受かることはできないのは当たり前だった。


 そのこともあって、俺はやる気が失せてしまい何も勉強せずに中間テストを迎え、赤点を取りまくり、学年250人中の200位台という結果。


 それだけではなく、この真心高校では中間、または期末で赤点を取ると夏休みの一週間の補講が確定するので、前回は夏休みなのに学校に行くという最悪な事態になってしまっていた。


 赤点だけは取ってはいけない……。


 でも、前回はヒメカとこんな感じで勉強はしなかった気がする。もしかして、未来も変わってきているのか?


 ……とりあえず、今回はきっとこの中間テストが後悔になってるから、頑張るか。


「よっしゃ、勉強するか。完全にテストの存在忘れてたから助かったわ」

「よかったー。断られたらどうしようかと思ったよ」

「ん?」

「いや、なんでもないよ。ハジメ、頭いいから教えてね」

「お……おう」


 ヒメカはそう言ってくれたが、正直なことを言うと、なぜか知識だけ抜け落ちてやがるんだけどな。


 あの死女神、俺を社会人時代の知識そのままこの時代に戻したから、ぜーんぶ忘れてて授業大変なんだからな!


『だから、多分というか確実にヒメカの方が頭いいから、教えてもらうのはこっちだよ』と俺は心の中で呟く。


「ちょっと、着替えてくるから待ってて」

「おっけー! 外で待ってるからなるはやでね」

「了解」


 俺は玄関の扉を閉めて、自分の部屋に向かう。


「ハジメ、誰だった?」


 お母さんが部屋に入ろうとした俺に声をかける。


「あー。ヒメカだった。後、俺今からヒメカと図書館で勉強してくるわ」

「はーい。気をつけて行きなさいよ。後、ヒメカちゃんにもよろしく言っといてね」

「うい」


 俺は足早に着替えを済まして、玄関の扉を開ける。


「待たせたな。じゃあ、行こうか」

「うん! 今日はよろしくね」


 今回こそは一回で後悔を突破したい。

 俺は心からそう思った。

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