第10話 気づいたこと

 さっきまでの騒動が嘘のように俺達は協力して料理を作っていく。


 そして……


「完成したな!」


 ダイキが元気よく言った。


「そうだな。ダイキが喧嘩しそうになった時はどうなるかと思った」


 俺はそう被せた。


「わかるー。喧嘩はダメだぞー。私は行ってないけどー」

「二人してなんだ! まあ、確かに俺が悪かったのもあるけど」

「意外にダイキは繊細だからね。とりあえず、食べようか」


 ユウマが軽くダイキをフォローした。


「サユリ、そこにあるお皿ちょうだい。よそぐね」


 ヒメカがそう言って皆の為によそう。


 自分達で作ったからなのか、色々あったせいなのかは分からないが、めちゃくちゃお腹が空いていた。


 思えば、前回はこんなこと全く感じなかったな。確かにお腹は空いていたけど、ここまで待ち遠しくなるとは感じていなかった。


 ……俺の馬鹿野郎。1番最初の人生でも勇気出しとくべきだったんだよ。


「はぁ……山本さんは気づくのがいつも遅いんですよねー」


 頭上からやかましい声が聞こえてきた。


 ってか、お前が間違いで俺を殺して、勝手に過去に戻して、後悔させなくしたんだろうが!


 しかも、俺とこの死女神は出会ってから全然時間が経っていないくせにかなり上から来るんだよな。

 まあ、感謝はしてなくもなくもなくもないけど。


☆☆☆


 もう学校に着くころには既に太陽がオレンジ色になっていて、カラスがよく映えていた。


「いやー、今日は楽しかったね」


 長い学年主任の先生からの話が終わり、班のメンバーで校門に向かっている時にヒメカがそう言った。


「うん。本当にそう思うわ」


 林がそう続けた。


「また、このメンツで遊ぼうぜ!」

「ダイキ、今日は一応授業だからね?」


 ユウマが軽くツッコミを入れた。


「そうだぞー」

「岡部もユウマも何だよ」


 ダイキがそう言うと大きな笑い声が校門の前に響いた。


「じゃあ、また明日!」


 俺はそう言った。


 俺とヒメカ以外は全員別の方向に家があるから、いつも校門でお別れだ。


「じゃあね、山本君、ヒメカ」


 林はそう言って、手を軽く振っていた。

 

 それから、俺は行きと同じようにヒメカと帰る。

 そういえば、前回はヒメカと一緒に帰ったり帰らなかったりしてたけど、今回はヒメカと仲良いグループの人達と友達になったから、毎日、一緒に帰れてる。


 これって、普通に考えて、凄い幸せな事だよな?


「ハジメ、顔怖いよ」


 ヒメカが急にそう言った。


「え?」


 知らず知らず俺はあのことを考えていたみたいで、無意識のうちに顔が強張っていたようだ。


「何か嫌なことあった?」

「ないない! マジでないから。逆にめちゃくちゃ楽しかったな」

「ねー。なんか、最近ハジメ変わった?」

「そうか?」

「うん。まあ、私に対しては変わってないけど、私以外の人とも会話するようになったし」


 ヒメカは少し手をモジモジしていた。


 俺は「出戻りしてるからな」なんて言っても信じてくれないと思うから、別の言葉で答えた。


「それは……あれじゃね? ヒメカが初日に友達の作り方教えてくれたからだな」


 すると、ヒメカはそこから反応することなく、黙って俺の前に出て、歩く。


 あれ?

 俺、変なこと言ったか……?


 そのまま俺達は程よい距離感、いびつな形でトボトボ静かに帰った。


「じゃあ、ヒメカ。また来週な」

「うん。……また来週ね」


 なんか、急にヒメカに元気がなくなった気がした。うーん、俺なんかしちまったか……?

 とりあえず、来週会ったら、謝るか。


☆☆☆


「ただいまー」

「おかえりー。夕飯はどうする?」

「先に食べてて、結構カレー食ったから」

「はーい」


 俺はお母さんにそう伝えて、自分の部屋まで一直線で進む。

 正直、全てがうまくいったと感じていたが、最後のあのヒメカの表情が気掛かりで……。


 もう一回、入学式の次の日に戻るのは勘弁だな。

 ……仕方ない。話したかないが、あいつなら知ってるかもな。


「おい、死女神!」


 俺は誰もいない天井に向かって、叫んだ。

 俺のお母さんはびっくりしたみたいで下で「あの子、何かあったんじゃない?」とお父さんに言っていた。


 でも、これしか話す方法ないんだから、仕方ない。だが、反応なし。


「おい、死女神! お前に聞きたい事があるんだよ!」


 もう一度叫ぶ。


「ふぇ……? 誰か呼んだ?」

「俺だよ。山本がお前を呼んだんだよ。もしかして、寝てたな?」

「ね……寝てたわけないじゃないですか。ちゃんと見張ってましたよー」


 絶対にこいつ寝てやがった。

 まあ、そんなことは置いといて、俺が後悔を超えられるかどうかをこいつは知ってるのかを聞いてみるとするか。


「おい。お前は俺が明日いけるとか知ってるのか?」

「知らないですよ。知ってるわけないじゃないですかー」


 こいつ。いつも一言多いんだよな。

 でも、実際に明日にいけるかどうか今のところ分からないって事だな。

 ってか、こいつほぼ何も知らないに等しくないか?


「じゃあ、お前は何なら知ってるんだよ」


 やべ、声に出しちまってた。こいつを怒らせると面倒くさそうだな。俺は少し後悔した。


「山本さんは知らないと思いますけど、何でも知ってますよー」


 死女神はそう答えた。


「じゃあ、俺の次の後悔は知ってるのか?」

「そ……それはそうですけどー、この世界にも企業秘密みたいなものがあるんで、今の後悔を超えるまで言っちゃダメなんですよ」


 ……絶対にこいつ、知らないな。


 何か怒らせてないかどうか心配していたが、反対にこっちがイライラさせられるとは思わなかった。

 何か、いっぱい動いたのか、緊張していたのか、それとも安心感なのかどうかは分からないが、ベットに横になったら、夕飯も食べずに俺は寝てしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る