第8話 殻を破った先の景色
今日(あの良かったのか悪かったのか分からない自己紹介をした次の日)の昼食はダイキとユウマと約束した通り、食堂で食べることになった。
でも、何でこうなった?
「やっぱり、大勢で食べるのって楽しいね」
「ヒメカの言う通りね」
「だろ? 皆を誘ってよかったぜ!」
確かに俺は次の日にダイキとユウマに一緒に昼飯食べようと言ったが、まさかの前回の校外学習で行ったメンバーで一緒に食べることになるとは全くもって想像していなかった。
もしかすると、前回もこんな感じでダイキとユウマが誘っていたのかも知れない。
か、ヒメカの流石のコミュ力で同じ班になったのかもしれない。まあ、今はそれどころではないけど……。
「あ、そういえば、ハジメは2人とは初めましてだよね? サユリとマコね」
「山本君、初めまして。林サユリって言います。よろしくね」
「私は岡部マコだー。よろしくー。」
「よ……よろしく」
俺は少しビビりながら、目の前の二人にそう返した。
だって、前回、この二人、特に林にあの『楽しくなかった』発言をされたからだ。
正直、まだ上手くやれる自信は無い。
ちなみに、ダイキとユウマと林と岡部は同中だったみたいで、仲がいい。だから、前回、同じ班だったのか……。
「でも、昨日はマジでハジメに驚かされたわ!」
「うん。ハジメは頭おかしい」
ダイキとユウマが俺の話を急に始めた。
「何があったの?」
「いやさ、急に『2人となら友達になれる気がする』って言われたから、俺もユウマも拍子抜けだよ!」
ダイキがそう言うと、全員が笑い始めた。
確かに昨日の俺が変だったことには言っている時点で気づいていたが、まさかここまで笑われると思っていなかったから、今更になってすごい恥ずかしくなってきた。
「そ……そんなに変だった?」
「聞いてる限り変だと思うわ。こんな面白い人中学にはいなかったわね」
「本当に林の言う通りだな」
「改めて、山本君、よろしくね」
「私もなー。よろしくー」
あれ?
思った以上に上手くいってる……っぽい?
だって、前回とは目の前にいる林の表情が大きく違っているように見える。
あの俺のことについて愚痴っていた時の林の怪訝そうな顔とは比べものにならない位、柔らかい表情をしていて、こんな顔できたんだという位まで思わされていた。
まあ、これから嫌われないかどうかとか心配なことはいくつかあるが、とりあえず、今のところ安心だ。
勇気出して話しかけてよかった。俺は心からそう思った。
それから俺は委員会の集まり等の特別な用事がない限り、このメンツで食事をしていた。
最初の頃は、変なこと言ってないかと浮いていないかとかよく心配になっていたが、そんな時はいつもヒメカが助けてくれたお陰で、気まずい雰囲気にならずに楽しく過ごせた。
そして、それは昼休みだけに留まらなかった。
「ハジメ。次、体育だから一緒に行こうぜ!」
ユウマとダイキが移動教室の時や休憩時間にも声をかけてくれるようになった。
本当、幼稚な表現しかできないのが申し訳ないが、心が暖かった。
だって、前回はどんな時でも一人で移動して、一人で昼飯を食べて、一人で休み時間は過ごしていたから(基本的には寝ているフリをしていたのだが……)なんか嬉しかった。
でも、同時にこの人達から嫌われていないかが怖くなる日も増えた。
繋がりができることは決して悪いことじゃ無いんだけど、大切なものを作るとそれを失った時に怖い。
まあ、そう考えてしまうのはあの事があったからなんだけど……。
でも、正直な所、1番最初の人生はコミュ障拗らせすぎていたのが、全ての元凶ではあるのだが……。
こうして、今までと真逆の順調すぎて逆に怖くなるような日々を過ごしていた。
そして、遂に俺にとってのXデーがきた。
「はい。じゃあ、来週の校外学習に向けての斑分けをします。6人組でグループを作ってください」
『この言葉を待っていたぜ!』と正直言いたかったが、不安で仕方なかった。
なぜなら、結局この日まで「一緒の班になろう?」という誘いとか特に無かったし、俺からもしなかったからだ。そのせいで前々回の時のことをフラッシュバックしていた。
でも、きっと心優しいヒメカがただの幼馴染ということだけ(?)でコミュ障な俺を誘ってくれる……はず。
前々回はその後にそれを秒速でキャンセルされるというのをさせられたけど。
その反対に前回は半ば強引にヒメカと約束をこじつけて、もはや付き添いの先生みたいな感じであの班に入ったが、しっかりそれで痛い目にあったのと、言い方は悪いが外堀を埋める作戦でいった為、状況としては割と前々回と近い気がする。
正直、全くわからない。
俺よ。どうする?
俺から誘うか?
いや、待ったほうがいいんじゃ無いか?
うーん……。
俺は弱気な自分と強気な自分との意見のすり合わせに葛藤していた。そんな時、誰かが俺の肩を叩いた。
「山本君、こっち来て。一緒の班になるでしょ?」
振り返るとそこに前回の校外学習で俺を毛嫌いしていた林がいた。なんと、林が声をかけてくれるとは……。
俺はその時、今まで感じたことがなかった感情を覚えていた。ポカポカとも違う。安心感っていうのかな。とりあえず、あの日声をかけた自分に『ありがとう』と伝えたかった。
「はぁ……やっとですかー。もう山本さんは大変ですね」
頭上からあいつの少し嬉しそうな声が聞こえてきた。
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