第7話 殻破り

「ハジメー、朝よ! 起きなさーい」


 どこかで聞いたことがあるようなお母さんの言葉で目が覚める。

 いつもの場所にあるデジタル時計に目を向けると、4月2日と書いてあった。


 やはり、当然のことながら、入学式の次の日に戻っていた。


 あの出来で後悔なんてしてないはず無いよな。


 ってか、出戻りできてよかったとも思ってる。もし、戻れてなかったらと思うと、ちょっと寒気がする。


 だが、どうする?


 いや、本当は分かってるんだ。

 前回、ヒメカと同じ班だった人達と友達とまでは言わないが、知り合い程度になる必要がある。


 まだ、入学して二日目。ここなら、いくらコミュ障の俺でもワンチャン……。


「あんた、随分怖い顔してるね」


 朝食のチーズパンを食べている時にお母さんからそう言われた。


「え?」

「なんか、覚悟決めたみたいな顔してるわよ」


 その後、お母さんは俺の顔を見ながら、「怖いわー」と連呼していた。


 まあ、この『話しかける』というのはコミュ障の俺からすると登山初心者なのにいきなり富士山に挑戦するようなもの。


 覚悟はいくら決めても足りないくらいだった(お母さんの「怖いわー」は終始無視していたが)。

 

 そして、それはヒメカにも気づかれてしまった。


「ハジメ、今日なんか顔怖いよ」

「え……マジ?」

「うん、マジ。なんか、これから全校生徒の前で告白するみたいな顔してるよ」


 ヒメカの比喩表現の癖強いって。

 でも、ある意味、ヒメカの言う通り今日が勝負。話しかけてみよう。


 確か苗字は……


「じゃあ、放送委員は平山ヒラヤマ君、図書委員は桐田キリタ君でお願いします」


 そうそう、ちょうど目の前で名前呼ばれてるこの二人だ。


 この朝礼内の委員会決めが終わったら、話しかけよう……。


 多分、ここでおかしいと思った人もいると思うが、その通り、朝、登校した時には話しかけられなかった。


 でも、まだまだ1日は始まったばかりだから大丈夫なはず。


☆☆☆


 キーンコーンカーンコーン


 おいいいいい!

 話しかけようとしてタイミング伺おうとしたけど、全然無いじゃねえか!

 もう昼休みスタートしたじゃねえか!

 俺の馬鹿野郎!!


 くっそー。正直、この二人は同じ中学校出身だったようで既に関係性ができてやがる……。


 どうやって話かければいいんだ?


「ハジメ、そんなに怖い顔してどうしたの?」


 ヒメカは俺の目の前にやってきて、そう言った。

 実は俺とヒメカ以外の同中の人はこの学校にはいないので、入学式2日目は前回もヒメカと昼飯を食べていた。


 まあ、その次の日にはヒメカにはあの未来での友達ができていたが。


 そうだ! 

 ヒメカに友達の作り方を聞けばいいんだ!


「ヒメカ、俺に友達の作り方教えてくれ」

「へ? 友達の作り方?」

「そ……そうだ」


 高校生(中身は25歳の社会人)にもなって、変なことを聞いていることは分かっている。

 でも、ここで動かないと永久に分かんないだろ?


「うーん。友達の作り方か……。まず、話しかけることじゃない?」


 やっぱり、話しかけるしか無いよな。

 ヒメカは続けて話す。


「だって、興味ない人に興味を持てって難しいでしょ? だから、まずは自分から動いて、興味を持ってもらう必要があると思うかな」

「ヒメカ、ありがとう」


 俺はそう言って、席から立ちあがった。


「え……ハジメ、どこにいくの?」

「ちょっと、用事を思い出した!」


 少しぶっきらぼうにヒメカにそう答えた。


 でも、とにもかくにもあの2人に話しかけないと始まらない。


 教室を飛び出した勢いそのまま食堂の方に向かった(教室にはあの二人はいなかったからな)。


 正直、食堂にいる確信も無かったが、教室でなければ、基本的にはこの食堂に集まると思い、賭けでそこに向かった。


 食堂に着くや否や周りをじっくり見渡す。


「どこだ…………。あ、あそこにいた!」


 運がいい事にこの食堂の端っこの方で二人で食事していた。


 もう考えるな。とりあえず、突っ込め!

 俺は二人が食事している机の横に行った。


「よ……よう」


 どんな声のかけ方してんねん!

 と自分自身にツッコミを入れた。


 いきなり、馴れ馴れしい感じで声をかけたから、ちょっとこの2人も俺達知り合いじゃありませんみたいな顔(引いているような表情)しとるやん。


 でも、もうここで止まれない。


「あ……あの、友達になってほしい。俺、まだ友達できてなくて……。えっと……、2人となら友達になれる気がするから」


 おーれーは何を言ってるんだ!!

 もう自分の口から出る言葉に何度もツッコミを入れてるわ。当然、目の前の2人は呆然としとるやんけ!!

 

 そこから、約2秒くらい静寂に包まれた。


 だが、その2秒がすぎた後、急にが笑いだした。


「お前、漫画の主人公かよ! 普通、俺らとなら友達になれるかもって初めましての奴に言わないだろ」

「確かにダイキの言う通り。君、変わってるね」

「いや……そうか?」

「マジマジ! えっと、とりあえず、名前は確か山本……」

「ハジメ!」

「お……おう。そんなに凄まなくても分かるから。まあ、既に知ってると思うけど、俺は平山ヒラヤマダイキ、んで、こっちが桐田キリタユウマな!」

「ハジメ、よろしく」

「お……おう。よろしく」


 ……と……友達になれたのか?

 とりあえず、今分かったことは俺がどれだけコミュニケーションを取るのが下手だったのかというのと、そんな俺でも意外と話しかければ何とかなるというのが分かった。


 そんな事を考えていた時、ダイキが俺に質問した。


「そういえば、ハジメは昼飯食ったのか?」

「あ……」


 やべ、弁当を待ってきていなかった。

 あ……、ヒメカが一人きりになってる!


「ごめん! 弁当箱教室に忘れたのと、今日は他の人と昼飯食う約束してたわ! 明日、一緒に食べよう」

「お……おう。俺達はいつでもいいけど」

「じゃあ、また後で」


 俺はそう言って、駆け足で教室に戻った。

 そして、ヒメカの方を見ると一人で黙々と食べていた。あれは怒ってる時の顔だ……。

 ソーッとヒメカの目の前に戻る。


「ご……ごめん」

「あーあ。私、一人きりでなんて可哀想な思いしたんだろうなー」


 やべえ。ヒメカがガチで怒ってる。仕方ない。あれをやるしか無い。


「姫、この卵焼きを贈呈しますので、お許しを……」


 俺がそう言うと、ヒメカはすぐに俺の弁当箱にある卵焼きをとり、口に運んだ。


「はい。許してあげましょう」


 とりあえず、ヒメカが許してくれたから、よかった。


 でも、高校時代にヒメカ以外と交友関係を築いてなかったから、一抹の不安を抱えていた。


 だって、高校で初めて自分から友達作ろうと思ったんだもん!


 だから、仕方ないだろう!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る