第4話 校外学習

 あの階段落ち&自己紹介失敗の後悔を超えてから、淡々と授業を受け、やっと、運命の班分けの日が来た。


 正直、社会人の時の方がずっと遅く時間が過ぎていた気がする。これが若さゆえのものなのだろうか?


「じゃあ、来週の校外学習に向けての班分けします」


 担任の先生がそう言った。


 元々の俺は出遅れ&自己紹介失敗の影響で誰にも声をかけてもらえずに、余りものになってしまい人数あわせで陽キャラのグループに入った。


 だが、当然その陽キャ達のノリがよくわからず、つまらなすぎて、なるべく空気になるように意識して過ごしていた記憶がある。


 まあ、ヒメカも別の班だったんだよな。


 だから、より孤独感が凄く感じていて、本当に速く時間がすぎないかとずっと願っていた。


 でも、今回はそんなことはさせない。なぜなら、今回の俺には秘策があるからな。


「好きな人たちで集まって6人組でグループ作ってください」


 先生が続けてそう言った。


 始まったぜ。ここですぐにヒメカを誘えば、俺にも勝機がある……はず(ここまで俺はヒメカとしか話していないが、ここでヒメカと同じ班になれれば、少なくとも安心だと思うし)。


 こうして、ヒメカを探し始めた時、後ろから誰かに話しかけられた。


「ハジメ、一緒の班になろう?」


 ヒメカがそう声をかけてくれた。

 本当にいい幼馴染だと思った。


 だが、その瞬間……


「ヒメカ! ごめん! もう班つくちゃったから、山本君はもう……」


 ヒメカの友達と思われる人がヒメカにそう声をかけた。


 おいいいいい!

 ヒメカのお友達さん、班作るの早すぎだよ!

 これ、絶対に昨日のうちにヒメカに言わずに班分けしてただろ?


 こうして、俺のたった一つの救いの手がチリになった。


「ハジメ、ご……ごめんね。でも、なるべく、近くにいようね」


 ヒメカの優しさで少し現実逃避ができたが、いくら逃避しても無情にも俺に友達がいないという現実はそこにちゃんとしっかりあった。


 そして、誰にも話しかけられないまま、時間が経っていき、どんどん皆がグループを作っていく。


 そうすると、一人の人が少なくなり、既に出来上がっている班に声をかける必要性が出てきた。


 だが、既に出来上がっているコミュニティに突っ込んでいくことは、竹やり一つで魔王城に突っ込んでいくようなものだ。当然のごとく俺はより孤立していった。


「はい。じゃあ、まだ決まってない人はいますか?」


 先生が言った。


 先生、この状況で手を挙げさせるなんて、一つの拷問ですよと正直思った。


 でも、嘘をついても仕方がない。余っていた俺は手を挙げる。


 ってあれ、俺だけなのか……。

 

 周りをじっくり見ても俺以外に手を挙げている人はいない。あの自己紹介の時を思い出すかのように、変に背中に冷たい汗が流れた。


「山本君ですね。どこか班で人数が足りないところありませんか?」


 先生が言った。


「じゃあ、俺達のグループでいいっすよ!」


 陽キャグループのリーダー的ポジションと思われる人が答えた。


「田中君、ありがとう。じゃあ、山本君、その班に入ってください」


 余りものには、選ぶ資格なんかない。そんな当たり前っちゃ当たり前のことが俺を今苦しめている。

 なぜなら、元々の人生と全く同じ陽キャラグループの人達だったからだ。


「山下君だっけ? よろしくなー!」

「あーし、話したことないんだけど」

「俺もだよ! まあ、だからこそ知り合えるって感じ?」


 俺はこの怒涛の会話に気圧されてしまい、何も答えられず、変な空気にしてしまった。ってか、俺の苗字は山本な……。


☆☆☆


 遂に来た校外学習の日。


 だが、気分はただただ憂鬱だった。というか、憂鬱でいるしかなかった。


 だって、二回目になるけど、前回と同じであの陽キャの人達と同じになったんだぜ?


 ヒメカと一緒に学校に向かっている時はまだましだったのだが、学校の校舎が見えてきた位から、より強い憂鬱の波が襲ってきて、今からでも熱がでないかなと思った。


 だが、無情にも体は前回同様にとても元気で、熱など出るはずもなかった。


 バスに乗ってからはただただ淡々と時間がすぎるのを待った。

 

 だって、ほぼ初対面級(確かに入学式からは一か月くらい経ってたけど)の人達なんだぜ?

 しかも、会話の内容も良くわからないし……。


☆☆☆


「山下君は何が好きなん?」

「お……俺のことはいいよ……」

「そっか! じゃあ、人狼でもしよっか?」

「さんせいー」

「俺は食器洗いしてるから、遊んでていいよ……」

「じゃあ、よろしくー。えーと、山田くん?」


 やっぱり、このノリには全くついていけない。気を遣って話かけてくれたみたいだけど、そんな必要ないんだよな。


 っていうか、俺、山本な……。


 人の名前もちゃんと覚えてない奴らと一緒に食事なんかできるかよ。

 俺は彼らの笑い声を聞きながら、食器洗いに勤しんでいた。


 でも、全く嫌じゃなかった。


 だって、あいつらと話さなくていいんだから。

 というか、もうこの班になった瞬間に俺はもう一度ループしなきゃいけないことは決まっていたんだ。


 だから、考えるべきは次どうするかだ。

 ……この班決めをするずっと前にヒメカに一緒の班になろうと誘ってみよう。これなら、きっと、上手くいく。これしかない。


 その為にも、今はこの孤独に耐えよう。

 もう一回経験してるんだからいけるだろう?


 その時、死女神が少し悲しそうな声で俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「はぁ……山本さん……」


 俺はその声が聞こえなくなるように水の勢いを強くして、まだまだある食器を一つ一つ洗った。


☆☆☆


 やっと、終わった。


学校の近くで停まったバスから降りた時に、まるで拷問から解放されたかのような達成感を感じていた。自分の家の方角を見ると、そこにヒメカがいた。


 実は俺が一人で食器洗いをしていた時に、「私も一緒に洗うよ」とヒメカは笑顔で手伝ってくれた。


 やっぱり、俺がいるべきはあの陽キャの班じゃなくて、ヒメカのいるグループなんだとその時思った。

 それは今まさに「帰ろ?」と言ってくれた時にも改めて思った。


 正直、校外学習よりもこの帰り道にヒメカと一緒に帰る方が随分と楽しかった。


「ハジメ! じゃあ、また明日ね」

「また明日」


 まあ、俺はあの入学式の次の日に戻るんだけどな。


 見てろよ。

 次はこんな余りものの班になんかに入らないぜ?


「はぁ……山本さん……」


 なんか、頭上からあの死女神のため息が聞こえた気がしたが、俺は無視をした。


 だって、次は完璧に上手くいける自信がある。

 

 だから、目をかっぽじって見てろよな。そう気合十分で眠りについた。


 でも、なぜか俺の頭の中であの死女神のため息が妙に気になっていた。

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