【3-29】これは仕様だから、BANはされません
放置バトルなら安全に敵を殲滅できるんじゃないか? そう思ったのだが、俺は放置バトルというシステムを理解していなかったようだ。
放置バトルには終わりがない。それをクロエに聞いた時は意味が分からなかったが、思い出せば確かに終わりがある放置ゲーとか見た事がない。
少し離れた場所で放置バトルを開始させても、あそこにいるモルガン蜂はいつまでたっても殲滅できない、敵を倒すために使用するシステムではない。
どうやら放置バトルとは、完全にただの稼ぎバトルシステムのようだ。通常の戦闘場面には適用できず、特殊な環境下で行える特殊バトル。
ゲーム化している俺のために運営が用意してくれた、お手軽な稼ぎシステム。このシステムを使って経験値や成長馬車素材を稼いで下さいという事だ。
となればリアルタイムアクションバトル一択となる。これを選択して身を隠すせばいいと思ったのだが、離れすぎると戦闘不参加と判断され素材などが入手できなくなるらしい。
上手く出来ているというか、ゲームにありがちな抜け道とか裏技が尽く潰されているような気がする。
この数から取れる馬車素材は是非とも欲しい。ゲーム化が適用されないと入手できない素材なので、バトルシステムは絶対に適用しておきたい。
だから俺は考えた。リアルタイムアクションバトルを選択して、安全に戦闘に参加できる方法を。
「――――うおッ!? ビビったぁ……けど、なんとか大丈夫みたいだな」
デカいモルガン蜂から発射されたデカい蜂針が、俺の目の前で不可視の結界に阻まれ砕け散った。
俺は今、インベントリから馬車を具現化させ【馬車結界】というスキルギフトを使用している。
このギフトは文字通り、馬車を中心に一メートルほどの範囲を、外からの干渉を遮断する不可視の結界で覆う事が出来る。
魔物観光馬車を運行する際に役立つかなと取得していたギフトだが、このような形で役に立つとは思ってもいなかった。
「しかしデカい針だな……こんなの食らったら即死だぞ。そもそもなんで針を飛ばせる――――うおぉっ!?」
再び飛び込んでくる大きな針は、先ほどと同じように結界に阻まれて砕けた。今のところ結界は大丈夫そうだが、あと何発耐えられるのかは分からない。
馬車結界のレベルは1。それほど強固でない事は想像に難しくないが、体力ゲージのようなものはないので分かりづらい。
さらには不可視なので本当に結界が張られているのかも分かりづらい。つまり何が言いたいのかというと、ものすごく怖い。
俺の顔面を目掛けて高速で飛来するデカい注射針、それが目の前で大きな音と共に砕け散るのだから怖いだろう。
「ま、まぁこの調子ならすぐに終わりそうだな」
クロエ他三名の護衛は、面白いほど順調にモルガン蜂を倒していっていた。
クロエはもちろんだが護衛達の動きも歴戦の猛者のそれで、危なげなく蜂を打ち落としていっている。
せっかくレベルマックスにしたというのに、トラップでは死ぬし厄災には即死させられたりと、いまいち強さを実感できていなかったが普通に強かった。
「この数なら成長馬車素材の量も楽しみ――――うおぉぉぉっ!? ダメだ、心臓に悪い……あれ? なんだこの亀裂……」
モルガン蜂の針攻撃がぶつかった個所に、ヒビのようなものが入っていた。どうやら結界が損傷したようだが、戦闘が終わるまでもってくれるだろうか?
馬車に近づいてくる蜂は優先的に排除してくれるが、それでも抜けてくる奴や遠距離からの攻撃はどうしても届いてしまう。
「……やっぱり最低限、俺も戦えるようにしないとダメかな」
レベルやステータスはそれなりのはずなので、全く戦えないという事はないだろう。問題は戦闘経験が皆無なので、どこまでやれるのかといったところだ。
命を掛けた戦いというものには慣れてきたが、恐怖心が少し薄れたというだけで戦えるという事ではない。
さてどうしたものか……なんて事を考えているといつの間にか戦闘が終わっていた。
「ヨルヤ、終わりました。まだ巣の中に何匹かいるとは思いますが、女王蜂も排除したのでここは安全です」
「お、おぉ、お疲れ様。怪我は……ないみたいだな?」
「護衛達は何度か攻撃を受けていましたが、送還となるほどではないようです」
「そっか……じゃあ残党に気を付けながら、蜜を回収するか」
クロエに残党狩りを任せ、護衛の一人には魔石回収を指示、残った二人の護衛に蜜の回収を指示する。
蜜壺のような物はないので、巣ごと回収して馬車に押し込む。しかし当然だが、一部を回収した だけで馬車が満杯になってしまった。
「これだけあれば十分か……? でもなんか勿体ないよな」
「馬車を改造しては如何でしょう? 収納という項目があったかと」
「なるほど。じゃあ今回の戦闘で手に入れた素材を使って……」
しかし収納という項目を見てみたのだが、残念ながら思ったような収納力アップではなかった。
馬車の側面などに収納袋や収納箱を追加できるようだが、大きな収納力アップは望めない。
今現在の馬車レベルで上げられる収納力なんてたかが知れていた。そもそもデカい蜂の巣なんて入れられない。
「どうする、他に何か……お? 車両追加……」
大項目の車両追加を確認してみると、一両増やす事が出来るようだ。
車両拡張ではなく車両追加、連結させて車両を二両に出来るようだ。
「これでいいな、単純に倍だ。特別車両みたいにして、VIPとか女性専用車両にするのもアリだしな」
今回は蜂の巣を押し込ませてもらうが、今後の使い道も色々とある。
専用車両にしなくても、単純に倍の客を乗せられるようになるし、これは改造を施すべきだろう。
「よし、やろう。まずインベントリに馬車を収納して、改造を……あれ?」
……蜂の巣を積んだまま、普通に収納できてしまった。インベントリにはゲーム化アイテムしか収納出来ないのではなかったか?
これは今後の事もあるので運営に確認してみる。するとなんとも都合のいい答えが返ってきた。
生物以外のアイテムは、馬車内にある限り収容可能とのこと。
人や命のある生き物はダメだが、食べ物や魔石、店で買った武器なども収容できてしまうという。
あくまでインベントリに収容されるのは、成長馬車であると。
馬車内のアイテムを取り出すには馬車を具現化させる必要はあるが、そんなの問題にならないほどの有能さだ。
注意点としてはインベントリに収容されている形ではあるが、馬車内の物は外と同じように時間が流れているということ。
食べ物や飲み物なんかは普通に腐る。時間を停止させる収容は、魔改造ギフトで取得可能という話も聞けた。
「荷降ろしが必要ないとか、最高だな」
「しかし食べ物などを降ろし忘れると、腐って異臭を放つ馬車となってしまいます」
「問題ないだろ、完全洗浄があるし。これで店で買った物でもインベントリに収容できるな」
「クロエ達も収容可能という訳ですね。命という概念ではありませんので」
こりゃ成長馬車の成長に全力を注ぐしかないな、そう思いながら馬車を改造する。
二車両となった成長馬車を具現化させ、蜂の巣を詰め込む。
流石に全ては入らなかったが十分だろう。詰め込み作業が終わり、馬車をインベントリに収容する。
大量の蜂の巣と共にインベントリに収容される馬車。俺は手ぶらでソフロンのボロ小屋まで戻るのだった。
「インベントリ収容不可アイテムを収容する方法……やっぱりあったな、裏技」
「運営が認めているのです、BANもされないでしょう」
「修正されないといいなぁ」
「されたらクレームを入れましょう。ユーザーに都合の良い事だけ即座に修正してんじゃねぇよ、と」
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