【3-28】お使いクエスト






「――――という訳でして……これ、イネッサからの紹介状なんですけど」

「まさかランバドールのお嬢ちゃんからの紹介とはね。拝見させてもらうよ」


 イネッサからの書状を手渡すと、少し驚いた表情を見せたエルフの男。世界警察の執行者からの手紙に驚くのは無理もない。


 しかしランバドールのお嬢ちゃんとは、もしかしてイネッサは良いとこのお嬢様なのだろうか?


「不思議そうな顔をしているね? 彼女と知り合いなのが意外かい?」

「いえ、そういう訳では……どんなご関係なのかなぁと」


「そうか、自己紹介がまだだったね。僕の名前はソフロン。ソフロン・リーズヴェル・ウルディアと言うんだ、イネッサ嬢とは同郷なんだよ」

「同郷……ウルディアって国の出身ということですか?」


「国というよりは大きな集落だね。エルフ族の仕来たりで、名前の後に出身地を名乗る事になっているんだ」


 手紙を読みながら色々と教えてくれるソフロン。同じ集落出身の者は、血の繋がりなどなくとも家族なのだという。


 姪みたいなものだよ……なんて説明してくれるソフロンだが、彼はどうみても二、三十代なので違和感が半端ない。



「なるほど、僕の作っている酒が欲しいという事か……」

「はい。お譲り頂く事は出来ませんか?」


 僅かだが眉間に皺が寄るソフロン。何か問題でもあるのか、それとも単純に他人に譲れるような物ではないのか、譲る気がないのか。


 そもそもの話、なぜ全く流通していないのかが気になる。もしかしたら噂通り、自分の趣味で作っているだけだから他者に譲るつもりなどないのかも。


「いや~実はね……今はちょっと、酒がないんだよ」

「え? ない……んですか?」


「酒を完成させるための素材、それを全部世界警察に没収されてしまったんだ」

「世界警察に……没収!?」


 世界警察の人間に教えられて来たのに、世界警察に酒を完成させるための素材を募集された? ちょっと意味が分からないのだが、話を聞くと納得した。


 どうやらソフロン、少し前に世界警察に捕まったらしい。


「いや~、造酒の申請をしていなくてね、バレて捕まったんだ」

「マジで密造酒だったんかい!?」


「今はちゃんと許可を取って真っ当に作っているけど、捕まった時に作りかけの酒やら素材やらは全部没収されてしまったんだよ」

「なるほど、そういう事か……」


 イネッサがどうやってエルフ酒の情報を手に入れたのか……警察と犯罪者、どうやらそれが答えらしい。


 ソフロンとイネッサは同郷、だから情報を持っていたのではなく、犯罪者データベースにソフロンの情報が載っていたからか。



「酒はほぼ完成しているんだけど、最後の素材を手に入れられていなくてね」

「その素材って、どこで売っているんですか?」


「この大密林の中で取れるのさ。こんな場所で酒造りなんてしているのは、綺麗な水とその素材が豊富だからなんだ」

「なるほど。ありがちな展開、という事は……」



『クエストを開始します』


【サブクエスト————欠かせない素材】

【クリアー条件————モルガンの木の実、モルガン蜂の蜂蜜を手に入れる】

【クリアー時間————2日以内】

【クリアー報酬————エルフ酒】



 ほら出たお使いクエスト。まぁエカテリーナのクエストもお使いクエストのようなものだから、お使い先のお使いという訳だ。


 簡単に手に入るとは思っていなかったけど、まさか大密林に入って素材探しをするはめになるとは……傭兵たちと一緒に行動するべきだったか。


「あの、俺が手に入れてきますよ。木の実と蜂蜜」

「本当かい!? 助かるよ、僕じゃ浅い所の素材回収が精一杯で……というか、よく探している素材の事が分かったね?」


「い、いえ……モルガン大密林の素材といえば、それかなと」

「さすが慧眼だね。じゃあよろしく頼むよ! 素材を手に入れたら、ここに来てくれ」


 そう言いながらボロ小屋を指さすソフロン。本当にこんなボロ小屋で酒を造っているのかと思ったが、どうやらここは保管庫らしい。


 カモフラージュ的な意味も込めての外観らしいが、本当にボロい。製造現場というのは見るもんじゃないな、完成品だけを見ていれば幸せだ。


 ソフロンから素材の特徴を聞いた俺は、さっそく大密林へと入った。




 ――――




【GP――――135】→【GP――――105】


 大密林へと足を踏み入れた瞬間に、追加で二体の護衛を召還した。守護者が一人に護衛が三人、合計四人で大密林を闊歩していく。


 見通しも悪いし足場も悪い大密林。全方位からの襲撃に対応するべく前方をクロエに、側面と背後を護衛に固めてもらって進む。


 足場が悪いため従馬の召喚は諦めた。あの従馬たちなら問題ないとばかりに進みそうだが、下手にGPを消費すると後が怖い。



「木の実は結構落ちてんな」

「ヨルヤ、ここにも落ちています」


「よっと……蜂蜜の方はどうだ?」

「今のところ、それらしいものは見つかりません」


 空を覆い隠すほど生い茂っている、モルガンの巨木。その巨木が成長しきる前の少し小さめな木に、木の実がなるという。


 成長する時にそれは落ちるので、回収は地面に落ちている木の実を拾うだけという実に簡単なお仕事であった。


「でもこういう木の実って、動物たちが食い荒らしそうなもんだけどな」

「匂いのせいでしょうか。仄かに栗の花のような匂いがしますから」


「……しないけど。まったくしないけど」

「おや、そうですか。ではこの匂いは……もしかしてヨルヤ、出しました?」


「出してねぇよ! お前ってなんで二人きりになるとそうなんだよ!?」


 卑猥な痴女エルフ、こんな大密林の中でも発情とは恐れ入る。まぁ発情というか、下ネタ製造マシーンになるだけではあるが。


 せめてもの救いは人前だと大人しくなる事。ほんと、次にキャラクリする守護者はまともな奴を作ろうと心に誓った。



「袋がもうパンパンだ……木の実はもういらないな、というか入らない」

「袋がパンパン……栗の花の匂い……ヨルヤ、やはり漏れているのでは?」


「漏れてないから……俺まで変態にするな! というか栗の花とかお前が勝手に言い出したんだろ!?」

「――――」


 そんなふざけた会話をしていた時、右側にいた護衛が何かに反応し、剣を構えて戦闘態勢をとった。


 続いてクロエと、他の護衛たちも戦闘態勢をとる。魔物でも近づいてきたのかと静かに息を殺していると、羽音のような不快な音が聞こえてきた。


「虫の羽音ですね」

「虫……? それにしちゃ、なんか……」


 音がデカすぎる気がする。虫のようなものは全く見えないのに、ブンブンと悍ましい羽音だけが不気味なほど聞こえてくる。


 俺は護衛たちにゆっくり進むように命じる。近づいていくと、その羽音は恐ろしいほど大きく聞こえ、一匹や二匹じゃないという事も感じられた。


「(あの木々の向こうです)」

「(お、おお……見てみるか)」


 羽音のせいで声を出しての会話が困難なため、念話に切り替える。そしてクロエの背中に隠れ、木々の隙間からその先を覗いてみた。


 ものすごい数のミツバチでもいるのだろうか? そんな考えが可愛く思えるほどの光景が、その先には広がっていた。



「(な、なんだありゃ!? デカっ……えぇ、デカッ!?)」

「(どうやらモルガン蜂のテリトリーのようですね)」


 そこを飛び回っていたのは、体長が50センチ以上はありそうな大きな蜂だった。その蜂達が作ったのであろう巣も恐ろしいほどに馬鹿でかい。


 オオスズメバチが可愛く見えるほどの巨体、それが何百匹と飛び回る光景は悍ましいの一言である。


「(き、気持ちわりぃ……ど、どうする? どうにか出来るか?)」

「(それほどの脅威は感じませんが、数が多すぎます。ヨルヤの安全を考えると、戦闘は回避するべきかと)」


「(いやでも! こっそり蜜回収は無理だろ!? タ、タワーディフェンスバトルでなんとかならないか?)」

「(このタイプの魔物にそのシステムは相性が悪いかと。ヨルヤが戦闘に組み込まれるシステムは非推奨です)」


 高速で飛び回るモルガン蜂は、拠点へ接近してくるスピードが速い。手数不足に敵の数、そしてスピードを考えるとタワーディフェンスは悪手である。


 たとえ一撃で蜂を倒せても、倒している間に何匹もの蜂が抜けていく。防衛ユニットの数不足、更にタワーディフェンスは必殺技が時間経過で試用可能となるため、殲滅攻撃が連続で行えない。


 あっと言う間に拠点に到達され、拠点があっと言う間に陥落する。動けない拠点(俺)に脆弱な拠点(俺)なんか、あっと言う間に穴だらけにされるだろう。


「(でも俺が組み込まれないシステムって、リアルタイムか放置バトルしか……あれ? 放置バトルでよくないか?)」

「(いえ、放置バトルは――――)」

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