【3-25】メインクエストクリアー






「まず損傷修復……からの耐久性アップに緩衝性アップ……素材が足りないな、使い切っちまった」


 放置バトル開始から六時間後、護衛達が稼いでくれた成長馬車素材を使用して成長馬車の修復及び性能アップを行った。


 数値の上昇なので目に見える変化はないが、ちゃんと性能はアップしているはず。更に車輪に入っていたヒビは完全に修復されたのを確認した。


「ヒビの修復って難しいと思うんだけど、すげぇな。しかも一瞬だし、職人が裸足で逃げ出すわ」

「ヨルヤ、戻ってきたようです」


「ん……? おぉお前ら! 無事……じゃあないみたいだな」


 チャドラに担がれ気を失っている様子のタゴナ、ローブがボロボロになっているテト。


 それだけ見れば大敗も大敗なのだが、パーティーの紅一点、ツァリは満面の笑みを浮かべており、掲げられた腕の先には光り輝く金色のメダルがあった。



「…………」

「おい、しっかりしろタゴナ! 戻ったぞ!」

「うぅ……魔力切れでクラクラします……」

「見たかぁっ! 手に入れたわよ! 踏破メダル!」


 上級ダンジョンに挑んだのかというほどボロボロで、それを踏破したかの喜びようだが、彼らはついにやったようだ。


 あいつらを見ているとこっちまで楽しくなる、冒険したくなる、パーティーを組みたくなる。彼らは今、一番楽しい時なんじゃないだろうか。


「……へへ……やってやった……ぜぇ……」

「悪いが、ポーションを貰えるだろうか?」

「ヨルヤさぁ~ん……水魔石も下さい……」

「やっとダンジョン踏破……長かったわぁ」


「お前らっていつもボロボロだし汚れてんな……ほら、回復材に水魔石だ。それとまぁ一応、おめでとさん」


 馬車のサービス品である回復材と水魔石を彼らに渡す。それらを使用して色々と整えた彼らは一息ついた後、冒険譚を面白おかしく聞かせてくれた。


 話は馬車に乗り込んでからも終わらず、笑い声に包まれながらゆっくりと馬車は進む。


 客席で楽しそうに会話を繰り広げる彼らを見ていると、観光バスを運転していた時の事を思い出した。


 自分の運転する車で楽しそうにしてくれる、それはバスの運転手をしていた俺にとって、嬉しい事の一つだった。


 それは、御者となった今でも変わらない。俺はきっと、乗客が楽しそうにしている姿を運転席から見るのが好きなのだろう。


「天職か……」

「ヨルヤ、よそ見運転は危険ですよ」


「お前……台無しだよ、そうだけどさ」


 タゴナ達の盛り上がる声をBGMに、王都へと馬車を走らせた。


 冒険ギルドにつき、タゴナ達が降りるとみんな笑顔でお礼を言ってくれる。これも、バスの運転手をしていた時に嬉しかった行為の一つ。


 タゴナから乗車料とレポートを受け取り、笑顔のまま彼らと別れた。



『クエストクリアーを確認しました』


【メインクエスト――――仕事を見つけよう】

【クリアー報酬――――100ガチャポイント】




 ――――




『クエストを開始します』


【メインクエスト――――仕事を軌道に乗せよう】

【クリアー条件――――安定した収入を得る】

【クリアー時間――――無制限】

【クリアー報酬――――成長馬車素材、ギフトポイント、ガチャポイント】



「……俺のメインクエストって、なんかなぁ」


 なんか面白みのないクエストだ。メインのクエストだってのに、内容に面白みを感じないのはどうなのかと思う。


 まぁ俺は御者としての道を選んだので、それに合わせたメインストーリーなのだとは思うが……俺の人生は平凡という事か。


 久しぶりのメインクエスト更新だったが、あまり気にしなくてよさそうだな。気にしなくていいメインクエストっていったい……。


「さて、お次はここだ」


 メインクエストの更新はさておき、面白味のあるサブクエストをプレイするために傭兵ギルドへとやって来ていた。


 時刻は夕暮れ、まだギルドに入っていないにも関わらず、陽気なバカ騒ぎの声が外まで盛大に聞こえてくる。


 サブクエストとは直接の関係はないが、傭兵ギルドにやって来たのには理由がある。


 一つはもちろん護衛馬車の宣伝。もう一つはエルフ酒を造っているという場所の近くまで、用事がある傭兵でもいないかなと聞きに来たのだ。


 傭兵にも護衛馬車の需要はある。討伐依頼の出ている魔物などの近くまで、彼らを疲労させることなく以下略だ。



「――――という感じなんですけど、どうですかね?」

「おぉ! 面白そうじゃねぇか! 使いたいって言う奴はいると思うぜ? 金払いも冒険者どもと比べていいしな!」


「じゃあ宣伝をお願いしますね、筋肉マン」

「おう! あと俺の名前はジルコフだ! 覚えとけよ!?」


 受付のジルコフ・タイヤ―に宣伝をお願いした俺は、続けてモルガン大密林という場所に用事がある傭兵はいないかと尋ねる。


 エルフ酒を造っているという変わり者がいる場所が、モルガン大密林なのだ。俺の馬車でもここから一日は掛かる距離なので、遅くても明日には出発しないといけない。


 そんな事を考えていると、背後から大きな声が聞こえてきた。



「おいおいおい! モルガン大密林って聞こえたぞ? ついに依頼が出たのか?」

「あなたは……あぁ、泣く子も黙る赤鬼、ゲオルグ・ボナバルドじゃないか」


「おぉこの前の! あれ? 俺って自己紹介したっけ?」

「いや別に……なんと言ってもSSRだからな」


 頭の上に疑問符を浮かべるゲオルグ。こいつはバドスストーリーの時に、少しだけ話した事のある傭兵だ。


 ほんと少しだけなのに、俺の手持ちで最強カードとなってしまったゲオルグ。まぁ実際、赤鬼というランクにいるゲオルグは恐ろしく強いはずだ。


 爽やかイケメン、強い、陽気、赤鬼、そしてSSR。モテないわけがない。ちなみに赤鬼は上から二番目、ヴェラやラリーザより上位とされている。



「なんだゲオルグ、モルガン大密林がどうかしたのか?」

「いや向こうの連中がよ、スネークイーターが出たとか騒いでたからさ。依頼が出たのかと思ってよ」


「スネークイーター? なんすか、それ」

「でけぇ蛇のバケモンだよ! 喰われたら骨も残らねぇっつー、ヤバい奴」


 大密林という名前からして簡単にはいかなそうとは考えていたが、そんなヤバい魔物がいるのか。


 まぁ俺はエルフ酒を手に入れたらパパっと撤収するつもりだし、大密林というのだから広いのだろう。


 そうそう出会わないとは思うが……なんて言うと出会いそうだから、ここまでにしておこう。


「依頼は出てないが、本当にスネークイーターが出たのならそのうち依頼が出るだろうな」

「そうだよな! だったら先手を取るぜ、モルガン大密林に行ってくるわ!」


「おい待て待て! 本当に行くってんなら、丁度いい話があるぞ?」


 そう言ってジルコフは、俺の護衛馬車の話をゲオルグに聞かせる。なんかタイミングが良すぎて嫌な予感がするぞ。


 なんだったら断ってくれていいとすら思ったのだが、その話を聞いたゲオルグは少しも逡巡する事もなく即座に利用すると言ってきた。


 こうして、ゲオルグ他二名を乗せた護衛馬車はモルガン大密林へと向かう事になった。


 ただエルフ酒を貰いに行くだけだったはずなのに、なんであんな事になったのだか……なんて、言ってみただけだ。

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