【3-19】メロドーナさんの納骨堂






 次の日、目を覚ました俺は守護者クロエを召喚した。


「クロエ、どこにも異常は……ないよな?」

「はい、再召喚でクロエは元通りになります。処女膜も」


「うん、色々な意味で安心したわ」

「クロエもヨルヤが無事で安心しました。ヨルヤの童貞も無事ですか?」


「別にそれは守るもんじゃないだろ……というか童貞違うッ!」

「クロエはあの黄色頭に貫かれました。一突きでクロエは逝かされ――――」


「――――言っておくけどクロエ。俺に寝取られの趣味はない……二度と言うなっ」

「申し訳ございません、喜ぶかと思ったのです」


 いつ俺が寝取られスキーだと言ったのか、まったくあのジャンルは理解できん。一途設定しているほどなのに、喜ぶはずがないだろう。


 ともあれクロエを再召喚した俺は、ヴェラとラリーザと合流しメロドーナの納骨堂へと向かった。


 クロエに初めて会った時、ラリーザが呆れた目で俺を見ていたような気がしたが、気のせいだろうか?




 ――――




 さてメロドーナの納骨堂の入り口までやってきたわけだが、想像していたのとは違って納骨堂は、写真で見た事がある防空壕のような見た目だった。


 人の手が入った岩窟、綺麗に切られた岩で入り口が形作られている。お寺の中みたいな荘厳なのをイメージしていたのだが、それとは真逆のダークファンタジー。


 出る、絶対に出る。納められている方々には申し訳ないが、悪霊が出てくる予感しかしない。



「じゃあ確認するね? 戦闘はヴェラちゃんとクロエちゃん、支援が私で……ヨルヤくんは?」

「俺は非戦闘員だ」


「ヨルヤは荷物持ちよ。野営が必要になった時とか、雑用は率先してこなしてもらうわ」

「そ、そうなんだ……なんでダンジョンに潜るんだろう?」


 金稼ぎ、踏破メダルを売るために潜ります。そう言ったらラリーザはどう思うだろう? 初級ならいざ知らず、中級に戦えない奴が金のために潜るなんて命知らずだ。


 まぁでもダンジョンってそういうものだろう。ヴェラには否定されたが、ダンジョンとは言わば神の息吹が掛かった宝庫である。


 俺は御者だが金は好きだ。御者が財宝を狙ってどこが悪い。


「とりあえず私の魔法で、みんなの武器に魔力付与を行うから。効果時間は約一時間、切れたら掛けなおすから教えてね」

「ラリーザが魔法をブッパして進んだ方が早いんじゃないか?」


「そんな魔力ないよぉ……ボス戦ならともかく、このダンジョンがどのくらい広いのか、魔物の数とかも分からないし」


「そいつの発言は無視していいわ。あとクロエは基本的にヨルヤの命令しか聞かない面倒な女だから、無視して大丈夫」

「酷いなおい。来る前に決めた通り、リーダーは俺だからな? 道中の宝はやるけど、踏破メダルは俺のもんだ」


 二度手間にならないよう、ヴェラとはしっかり打ち合わせ済みだ。パーティーのリーダーを俺にして、踏破メダルは俺が貰う。


 その代わりにヴェラには、道中にある全ての宝をやることに。ヴェラ的にはメダルより宝箱の中身の方が価値があるらしいし。



「ラリーザ。一応聞いておくけど、あなた魔術師の等級は?」

「私はテトラ級だよ?」


「そう、じゃあ何の問題もないわね」

「凄いのか? テトラ級って」


 ライン、クロス、デルタ、テトラ、ペンタ、ヘキサ。


 それが魔術師の等級で、ラリーザのテトラ級というのは冒険者でいう所の銀等級に位置するらしい。


 という事はラリーザって結構凄いんじゃん……多分だけど、テトとかはラインとかクロスなんだろうな。


 もう何も怖くないわ。銀等級のヴェラに、テトラ級のラリーザ、その二人にお墨付きを貰っている守護者のクロエがいるんだ。



「さて、じゃあ行くか。準備はいいか?」


「ええ」

「うん」

「はい」


 三者三様の返事を聞きながら、俺は納骨堂へと足を踏み入れた。



『ダンジョン攻略を開始します』


【ダンジョン名――――メロドーナの納骨堂】

【ダンジョン難易度――――中級】

【ダンジョンタイプ――――リストリクトダンジョン】

【ダンジョン特異性――――モンスターアップ】


【リストリクトダンジョン――――魔法を使用せずの踏破で踏破ボーナス】

【モンスターアップ――――通常のダンジョンに比べて魔物の数が増える】



 ……いきなりボーナスメダルが取得不可となったんだが。


 魔法が有効な魔物がいるダンジョンなのに魔法制限とか、ボーナスクリアーさせる気はないらしい。


 魔力武器やアイテムが必要という事だろうか? どちらにしろ諦めるしかない。ここまで来てラリーザに魔法を使うな、なんて言える訳がない。


「じゃあとりあえず魔力を付与するね? おいしょっ」


 ヴェラとクロエの武器に魔力が付与され、不思議なオーラを纏いだす。この瞬間、ボーナスメダルの消失が確定した。


 それは入って十秒ほどの出来事だった。





 ――――





「ひぃぃぃぃっ!? ガガガガイコツ!? 在り来たりだけど、実際に見るとマジ怖ぇ!」


 カタカタコツコツといった音を出しながら押し寄せるガイコツの群れ。


 動く骸骨というのは定番中の定番だが、この光景を実際に見てみると恐怖の一言である。


 しかもその数、十や二十ではない。百体以上はいるのではないかという骸骨が、ボロボロに朽ち果てた剣を振りかざしながら迫ってくる。


「はぁ……うっざ」

「脆い、カルシウム不足でしょうか」


 それを面倒くさそうに、涼しい顔で掃討する二人の強者たち。


 ヴェラが欠伸をしながら槍を振るえば骨が宙に舞い上がり、クロエが無表情で矢を放てば骨が粉砕されていく。


「あの二人、強いねぇ」

「そそうだなっ! 頼もしい限りりだ」


「……ねぇヨルヤくん? そろそろ放してくれない? 歩きづらいんだけどな……」

「い、いいから! だってここ暗すぎて……なんで松明の色が緑なんだよ……雰囲気作りすぎだろ……」


 俺は情けなくもラリーザの後ろに隠れて、彼女の服を掴んで心の安定を図っている。


 初めはダンジョン内が暗いから……なんていう理由をつけて彼女を掴んでいた訳だが、単純に怖いからだという事はすぐに見破られてしまった。



「……ちょっと、もう少し離れなさいよ? ラリーザが支援できないじゃない」

「そうですヨルヤ。あまり他の女にベタベタしてほしくありません、危険ですから」


「べ、別に支援できなくても問題なさそうだし……ラリーザは危険じゃないだろ……」


 戦闘を終えたヴェラとクロエ、情けない俺の姿を見て批難の声をあげてくる。


 どこか不機嫌そうなヴェラに、本気でラリーザを危険視しているのか様子を窺っているクロエ、そして無念の死を遂げたと言わんばかりの表情をした怨霊。


 三人に睨まれると流石の俺も怯んで…………え?



「ク、クロエ……? 隣にいる少し体が透けた感じの女性はお友達ですか……?」

「おや、気が付きませんでした。霊体は気配がないので面倒ですね……どうやらこの女、クロエの体を乗っ取ろうとしているようです」


「お、おまっ! 何を冷静に!? 乗っ取られたら即送還だからな!?」

「落ち着いて下さいヨルヤ。クロエにそのような脆弱性はありません、不正アクセスへの対策は万全です」


「幽霊の憑依攻撃はウィルスか何かなのかよ……」


 クロエは魔力付与がなされた短剣を振るい、怨霊の首を切り落とした。命がないからなのか首が落ちても目がキョロキョロと動き、体が不気味に痙攣している。


 数秒後には空気に溶けるように消えていったが、最後の最後に気味の悪い呻き声を上げながら昇天していくという演出をかましてくれた。


「早くここから出たい……まるでホラー映画の世界にいるようだ」


「……し、仕方ないわね! そんなに怖いならあたしの傍にいるといいわ!」

「いやいいよ、このままで。ヴェラちゃんとクロエちゃんには戦って貰わないと~」

「ヨルヤ、クロエの傍にいる事を推奨します。この女どもは怨霊より厄介かと」


「……ちょっとラリーザ。なんでヨルヤの手を握るのよ? 放しなさいよ」

「え~? だってヨルヤくん、震えてて可愛……可哀そうなんだもん」

「ヨルヤ、手を放してください。この女はヨルヤに憑依しようとしています」


「こんな所で喧嘩しないでくれ……ホラー映画での仲違いはフラグだ……」


 護衛を召喚したい所だが、前回のダンジョンの時のようにGP不足となるのは避けたい。そもそもヴェラとクロエで戦力は間に合っているので、余計な召喚となる。


 俺はラリーザから手を放し、隊列の中央に配置してもらう事で冷静を保つ事にした。ラリーザはどこか不満気だが、ヴェラとクロエの機嫌を損ねる事も避けたい。


 その後は順調にダンジョン攻略が進んだ。魔物は大挙して押し寄せてきたが、ヴェラとクロエが強いので問題はなかった。



「しかし多すぎるな。大丈夫か、三人とも?」


「ん……流石に少し疲れたわね」

「クロエは問題ございません」

「私は少し歩き疲れたかな」


「俺も叫びすぎて疲れたし、少し休むか……」


 なんでお前が疲れてんだよ……そういった目をヴェラとラリーザから向けられたが、大声を出すのも疲れるのだ。


 霊体なんてのにも耐性がないし、あなた達より精神的に疲れたんだよ。


 しかし休むとは言ってもここは納骨堂。辺りには人骨が散らばり、とてもじゃないが休めるような雰囲気はない。


 綺麗に納められているのならまだしも、適当に壁を掘って作った感じの棚に無造作かつ野晒し状態で置かれているためか、風化が酷い。


「はぁ……気が滅入るな。広いし、空気悪いし、呻き声は聞こえるし」

「まぁ色々と曰くがあった魔術師……メロドーナの納骨堂だし……(´~`)モグモグ」


「は……? メロドーナって地名じゃなく人物名なのか!?」

「(*´ω`*)モキュモキュ……ベッチホストでそう聞いたわ」


「いやいや、メロドーナ以外も納骨されてるだろコレ」

「聞いた話だと……全部メロドーナの骨みたいよ……あ、これも貰うわね……(´~`)モグモグ」


「嘘吐け、何人いたんだよメロドーナ。それとも名前がメロドーナの人専用の納骨堂なのか? というか食いながら喋るな、というかよく食えるな」

「昨日から思ってたけど、ヴェラちゃん食べるし飲むのに細いよねぇ……ムカつく」


 そんな感じの緊張感のないモグモグタイムを行い、少し休憩したのちダンジョン攻略を再開させた。


 出てくるのはほぼ霊体の魔物だったが、物理攻撃が問題なく通る霊体なんて敵ではなかった。


 程なくして最深部、ボスの間に到着する。一体どんな悍ましい幽霊が出てくるのかと身構えたのだが、現れたのは他より少しだけ艶のある骸骨だった。



「綺麗な骨格ですね。標本のように完璧です」

「そ、そうなのか? 俺には同じに見えるが……」


「あれ、メロドーナね」

「えぇ、あれが? 動き回ってるぞ、全然納骨されてねぇじゃん」


「確かメロドーナって、精神攻撃魔術とか、魅了魔術を得意にしていたって聞いたよ」

「骸骨が魅了魔術、骨フェチには効きそうだな……クロエ」


 クロエが一歩踏み出した途端、敵だと判断したのか骸骨メロドーナが朽ち果てた杖を掲げ、魔法をクロエに向けて放って来た。


 その魔法をクロエは避ける事もせず一身に受ける。しかしクロエには何の影響もないようで、彼女の歩みは止まらなかった。


 気のせいだろうか? 表情がないはずの骸骨が慌てているように見える。今度は連続して魔法をクロエに放つが、全く効いていない。


 精神攻撃無効のクロエは天敵だろうな、可哀そうに……っと思った次の瞬間には、クロエの短剣でバラバラにされてしまった。



『ダンジョンクリアーを確認しました』


【ダンジョン名――――メロドーナの納骨堂】

【クリアー報酬――――レベルアップポイント、30GIp、5名声ポイント】


【レベルアップ】 41 → 42



『クエストクリアーを確認しました』


【サブクエスト――――約束は守りなさいっ!】

【クリアー報酬――――50HEp、10好感度ポイント】



 本当は、恐らくもっと苦戦するんだろうなぁ。クロエが特別過ぎて呆気なく終わってしまったが。


 忘れてはいけないのは、ここは中級のダンジョン。だがメンバーが異常だったのだ。


 戦闘力だけなら金等級と言われるヴェラ、支援だけに全力を注いだテトラ級魔術師のラリーザ、精神系魔法無効化という卑怯な存在の守護者クロエ。


 そしていそいそと踏破メダルを回収する、リーダのイケメン御者ヨルヤ。落ちていた髑髏の刻印がされた踏破メダルを無事にゲットできた。


 これで成長馬車を購入できるだけの踏破メダルが集まった。


 長かったが、いよいよ俺は御者としての人生の第一歩を踏み出そうとしている。

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