【3-18】俺と一緒に納骨されてくれ






「今日これからデートしない?」


 中級ダンジョンを諦めきれなかった俺は、一人王都に戻って魔術ギルドへと足を運んでいた。


 ここに来た理由はもちろん、魔術師のラリーザにダンジョン攻略を手伝ってとお願いするためである。


 ラリーザの昼休憩時間を把握していた俺は、バッチリなタイミングでラリーザに声を掛ける事ができた。



「わぁ、会って早々デートのお誘い? 私まだ仕事中だよ?」

「半休使っちゃおうよ? あと明日は有給にして遠出しない?」


「う~ん、どこに連れて行ってくれるのかなぁ?」

「納骨堂」


「……うん? なんて言ったの?」

「だから納骨堂」


 声を掛けてからずっと笑顔だったラリーザの顔から笑みが消えた。


 しかしこれは伝えておかなければならない事実、隠して連れていく訳にはいかない。


 もしラリーザが大のオバケ嫌いとかなら可哀そうだしな。


「えっとぉ……さ、流石に早いんじゃないかな? 納骨される場所を見に行くのは」

「う~ん、でもラリーザしかいないんだよ」


「ざ、斬新なプロポーズだね。一緒のお墓に入ってくれってアレだよね?」

「あぁいや、そういうのじゃないんだけど……」


 ラリーザにベッチホスト近郊にある納骨堂ダンジョンの話をする。


 恐らく出てくる魔物は霊体なので、魔術師の力が必要だという事などを話した。


 話している最中、ジト目で俺の目を見つめるラリーザ。デートなどと言って少しふざけ過ぎてしまったようだ。



「ヨルヤくん、マイナス」

「はは……ごめんごめん。ちょっとふざけ過ぎたな」


「はぁ、まぁいいか……ベッチホストには確か、大きな動物園があったし」

「動物園あるんだな……異世界人か。でも動物園がどうしたって?」


「ダンジョン攻略は手伝うから、動物園に連れてってよ? 行ってみたかったの」

「お、おぉ! 行こう行こう」


 願ったり叶ったりである。ダンジョン攻略を手伝って貰える上に、デートまでしてくれるというのだから。


 この世界の動物にも興味があるし。まぁ馬とか犬とか猫とか完全にまんまだったし、恐らく似たような動物しかいないのだろうけど。


「ちなみにヨルヤくんが好きな動物はなに?」

「え……? 俺は……」



【A・馬】

【B・犬】

【C・猫】



「――――馬……って、なんだと……!?」

「馬かぁ、確かにカッコいいよね。私は猫が好きなんだぁ」


 青色の下向き矢印が発生した。初めて見るエフェクトだが、これは好感度が下がったという演出で間違いないだろう。


 こんなの分かる訳ねぇ、理不尽すぎる……ってそういえば誰かが言っていたな、女心は理不尽なものなのだと。


 それにもしかしてヒントはあったのかなぁ? なんとなく魔女には猫ってイメージがあるから。


「じゃあ有給申請してくるから、ギルドの外で待っててくれる?」

「ありがとう、よろしくな」


 ラリーザに言われた通り、魔術ギルドの前で待つ事に。


 そしてどのくらい待っただろうか? 流石に長い、暇だなぁと思い始めた時、知り合いに声を掛けられた。



「あれ、ヨルヤさん? 珍しいですね、魔術ギルドにいるなんて」

「ん……? おぉテト。どうした一人で?」


 声を掛けてきたのは冒険者のテト。


 辺りに仲間であるタゴナ達の姿が見えないので、テトは一人で魔術ギルドに来たようだ。


「いやまぁ、僕は魔術師ですからね。魔術ギルドに来る事もありますよ? 今日は魔石の変換に来たんです」

「魔術師が、魔術ギルドに、魔石の変換に来たのか? もしかしてテト、魔術師なのに出来ないのか?」


「ば、馬鹿にしないでください! 魔石変換くらいできますよ!」

「はぁ? じゃあなんで来たんだよ? 金がないのに……魔石の変換って金が掛かるんだぞ?」


「し、知っていますよ、そのくらい……」


 貧乏冒険者チームのくせに、なぜ不要な出費をしようとするのか理解に苦しむ。


 まぁもしかすると、力のある魔術師が変換した方が質のいい魔石が出来上がるのかもしれないな。


「そういう事か……頑張れよ? テト」

「また馬鹿にしてません? はぁ……いいですよ、本当の事を言います。でも内緒ですよ?」


「お? おぉ」

「実はですね、ここの魔術ギルドに、すっごい綺麗なお姉さんがいるんですよ。他の人はなぜか話題にしないんですけど、僕知ってるんです」


 ……それはもしかしなくても、ラリーザの事じゃないか? 他の人が話題にしないのは、認識阻害の魔術帽子のせいだろう。


 テトは運よくラリーザを認識できたのか。それは凄いが……ラリーザに会うために貧乏なのに金を使って魔石変換に来るとは。


 まぁラリーザは美人だからな、その気持ちは理解できる。俺もラリーザに会うために通おうとしたっけなぁ……と思った時に、やっとラリーザが現れた。



「ヨルヤく~ん、お待たせぇ~」

「おぉラリーザ、遅かったな」


「は……へ……? あれ、この人……」


「ごめんね、着替えに手間取って……どうかな?」

「いいね、可愛いよ。私服は初めて見たな」


「ちょっ……ちょっとヨルヤさん? この人って……」


「うんうん、ヨルヤくん、それはプラスだよ」

「魔術帽子はいいのか? あと着替えはある? ダンジョンに潜るんだぞ?」


「ちょっと無視しないで下さいよっ!」


「ちゃんと準備したよぉ。これはデート服で、ちゃんとダンジョンに潜る用の服も用意したよ?」

「そっか、ならオッケーだな。じゃあ行くか、ラリーザは馬に乗れる?」


「デ、デート服……? ちょっとヨルヤさん! どういう事ですか!?」


「乗れるよぉ、これでも元冒険者なんだから」

「良かった。じゃあ従馬をもう一体召喚して……」


「うぉわっ!? い、いきなり馬が!?」


 ラリーザが乗る馬を追加で一体召喚し、ラリーザを乗せるように命令を出す。


 少しだけ驚いた様子のラリーザだったが、特に追及されることはなかった。


 しっかりとラリーザが馬に乗った事を確認した俺も従馬に跨り、ベッチホストへと向かい始めようとした。



「ちょっとヨルヤさんてばぁっ!」

「ど、どうしたテト? まだいたのか?」


「いますよ! ずっといましたよ! だからその人って……ってそれよりも、どこに行くんですか!?」

「納骨堂だ」


「の、納骨堂……? な、なんですかそれ? 普通、そんな所にデートで行きます!?」

「いやデートは納骨堂じゃなく……そうだ、テトも魔術師だよな? 一緒に行くか? 戦力は多い方がいい」


 ラリーザだけというのが不安という訳じゃないが、魔法を使うには魔力がいるのだろうし、魔術師は多いに越したことはない。


 テトも魔術師の端くれ、少しは役に立つだろうと思ったのだが。


「い、行きますっ! よく分からないけど僕も行きます!」

「そうか、じゃあ従馬を……」


 そう思って従馬をもう一体召喚しようとした時、隣にいたラリーザが服の袖を引っ張ってきた。


 なにかあったのかとそちらを向くと、テトに聞こえないような小さな声で俺に囁き掛けてきた。


「ヨルヤくん。私は二人きりがいいなぁ?」

「…………悪いなテト。この馬一人用なんだ」


「そ、そんなぁ……詰めればもう一人くらい……」


 追いすがるテトに申し訳なく思いつつ、俺とラリーザはベッチホストに向けて出発した。


 道中は魔物と戦闘を行う事もなく、従馬の性能もあり夜にはベッチホストへと到着した。


 楽しそうに微笑むラリーザと並んで手配済みの宿へと入る。心なしかラリーザとの距離が近い気がするが気のせいだろうか?



「ねぇヨルヤくん? もしかして……一緒の部屋?」

「そうしたいのは山々だけどなぁ」


「私は別に……ねぇ?」

「いや~……ちょっと俺もすっかり忘れてたんだけど、紹介したい奴がいるんだ」


 その者がいるという部屋を受付に確認し、俺はその部屋にラリーザを連れて向かった。


 部屋につき扉を開ける。その中には酒が入ったグラスを片手に、中級ダンジョンの踏破メダルを弾いて暇を潰している様子のヴェラがいた。



「お帰り、その子が言っていた魔術師?」

「あぁ、うん……」


 ヴェラと話した結果、お互いに攻略を諦めるのは勿体ないという事になり、知り合いの魔術師に声を掛ける事になったのだ。


 まずは俺が知り合いの魔術師に声を掛け、ダメな時はベッチホストの冒険ギルドでヴェラが魔術師を募集する話になっていたのだが。



「ふ~ん、そういう事か」

「…………」


「ヨルヤくんマイナス~。あと、ダンジョン攻略は手伝うけどお金貰うから」

「え……そんな事いってなか――――」


「――――貰うから」

「はい」


 ヴェラの姿を見た途端、ラリーザが少しだけ不機嫌になったなと感じたのだが、間違いではなかったようだ。


 いつも優しそうな眼をしているのに、今はどことなく険しい。


 そんなラリーザはヴェラの元に近づき、自己紹介を始めたようだ。笑いあっている姿を見ると、仲良くやってくれそうではある。



「こんばんは~ラリーザって言います」

「あたしはヴェラよ。今回はよろしく」


「ところでヴェラちゃん? 言っておくけどぉ……負ける気はないから」

「……ふん」


「ライバルがいた方が盛り上がるし。これからもよろしくねぇ」

「そうね、それには同意するわ。あたしは勝つ、勝者としての眺めが大好きだから」


「うふふふふふ」「あははははは」


 仲良く……やってるよな?


 なんか二人とも、微妙に目が笑ってない気が……あれだな、いつものように気のせいだ。

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