【3ー17】脳筋パーティーの弱点
宿場町に戻り、ヴェラと合流した俺は今後の事について話し合っていた。
とりあえずヴェラに、踏破メダルを手に入れるために再びダンジョンに行っていた事を説明した。
色々と面倒になりそうだったため、ボーナスメダルの事やイネッサとの騒動の事は言っていない。
ボーナスメダルの話をしたら、また行こうとか言い出しかねないし、イネッサの話はヴェラに余計な心配をさせてしまうだけだしな。
でもまぁ、怒られた。そりゃそうだろう、何も言わずにダンジョンに潜ったのだ。
今回はクロエがいたとはいえ、一言言ってから行くべきだったかもしれない。
「それであの子、クロエは?」
「あぁいや、ちょっと色々とあって……還った」
「……あの子が送還されるって相当よ? なんかポリスと一緒にいたし、何があったの?」
「まぁその……厄災ってのと出会った」
そう言った時のヴェラの驚いた表情は忘れられない。
やはり厄災は普通に認知されている存在で、出会ったら最後だと言われている。
だがそうそう出会うものではない。ヴェラも厄災に遭遇した事は一度しかないらしい。
悪い事をすると厄災が来るぞ、なんて子供を躾する時に親が言うような存在だと。
「それでクロエを囮にして逃げたって事?」
「そうだな、それが最善だってクロエが」
「正解よ。厄災なんて相手にするもんじゃない、基本的には逃げろって言われてるわ」
「ヴェラでも勝てないのか?」
「さぁね、戦った事がないからなんとも。でも厄災は簡単に言うと魔法の権化、そんなのに勝てると思う?」
「俺に聞かれてもな……」
全快したイネッサを見て、スペールビアはあの場から退いたのだと思うのだが。
単純にイネッサが強いからなのか、それとも本人が言う通り時間がなかったからなのか。
何かしらの行動制限があるっぽいからな、厄災には。
「ま、そうそう出会う奴らじゃないわ。出会わず一生を終える人もざらにいるし」
「そんなレアモンスターなのかよ……」
「そんな事より、これからの事よ。とりあえずアンタ、寝てないのよね?」
「あぁ、ちょっと眠いな」
「仕方ないわね、今日はオフにしましょ? ヨルヤは休んでて、あたしはダンジョンの情報を集めてくるわ」
ヴェラが優しさを見せてくれたため、俺は休ませてもらう事にした。
夕刻まで寝てGPを回復させた俺は、即座にクロエを召喚しようとしたのだが、召喚は出来なかった。
どうやら守護者は何かしらの理由で送還されると、再召喚可能になるまで1日かかる制限があるらしい。
クロエが再召喚可能になるまで約12時間。今後のために守護者をもう一体作成しておいた方がよさそうだ。
まぁここは宿場町、護衛は呼べるし特に危険はないだろう。
――――
あの後、宿の店員に聞いたら宿場町にも商業ギルドがあるとの事なので、暇だった俺は足を運んだ。
目的は踏破メダルの売却額を聞く事。しっかりと聞いてきた俺は、ヴェラと合流して情報の交換を行っていた。
「50から80万ゴルド? 意外に安いわね……」
「まぁな。なんかあまり需要がないらしい」
中級ダンジョンの踏破メダルは、大体が70万ゴルド前後で取り引きされるらしい。
色々と準備をした上で、命を掛けた攻略をして70万……それは高いのか安いのか、俺的には後者である。
「踏破メダルを欲してる奴って金持ちのコレクターか、力を誇示したい冒険者とかだけなんだと」
「ふーん……ん、このお酒美味しいわね」
「言ってしまえばただの記念品だもんなぁ」
「まぁね。持ってたからって、何かに使える訳じゃないし」
しかし実はこの踏破メダル、なんと所持していればステータスにボーナスが付く事が判明している。
だがそれは微々たるもので、俺のようにステータスが数値化でもしていなければ気がつかないだろう。
もしかしたらこのボーナスは、ゲーム化ギフトの影響の可能性もある。
俺が冒険者であれば金よりステータスだったが、御者の俺としてはステータスより金だ。
「傷がつかないほど頑丈で、加工も出来ないから材質が金なのかどうかも不明なんだと」
「なにそれ、凄いわね……すみませ~ん、これおかわりで」
現在の技術では、鋳潰すどころか傷一つ付ける事さえ出来ない踏破メダル。
人智を超えた神の技術という訳だ。
だがその超技術のせいで、本当にただの記念メダルとしての扱いしかされていない。
「まぁあたしは、冒険ギルドに踏破の証として提示した後で売るわ」
「俺も売るよ。馬車代にする」
そしてヴェラには隠している事がある。
それはタイムアタッククリアーでゲットしたもう一つのメダル、ボーナスメダルの事である。
なんとボーナスメダルの査定額、150万ゴルド。
理由は単純に希少だから。出回る数が少ないので価値が高くなっている。
加工できないという事は、刻印に手を加えられないという事。
贋作は作れない、作っても簡単にバレる。何しろ真作には傷が付けられないのだから。
ヴェラに内緒な理由は、またダンジョンに潜ろうと言われたら面倒臭いからだ。
「すみませ~ん、これもう一つ!」
「お前飲み過ぎじゃないか?」
「今日はオフだしいいのよ! じゃあ次はあたしの番ね、色々と聞いてきたわ」
俺の踏破メダル売却額の話が終わり、次はヴェラが集めたダンジョンの話である。
ベッチホストの街周辺にある中級ダンジョンは二つ。
ムスリム大峡谷と、もう一つが。
「メロドーナの納骨堂ね」
「の、納骨堂……? 納骨堂って、あの納骨堂? 遺骨の……」
「そうよ、その納骨堂。メロドーナっていう魔術師のね」
「…………」
……行きたくねぇ、めっちゃ行きたくねぇ。
というか何だよ納骨堂って、聞いた事ねぇよ。ゲームに出てくるのは墓標とか墓地とかだろ。
「……あまりさ、死者が眠る場所を荒らすのは如何なものかと……」
「もしかしてヨルヤ、怖いの? だっさぁ~」
「そ、そうじゃねぇよ! そうじゃねぇけど、そういう所に遊びで行っちゃダメなんだぞ!?」
「遊びじゃないわよ。歴としたダンジョンなんだから」
ダンジョンだろうがなんだろうが、行きたくねぇ。
俺の元いた世界ならともかく、ここは不思議な異世界だ。
つまり何が言いたいのかというと、絶対に出るということ。
ガイコツもオバケもゾンビも絶対に出る。幽霊を信じてない俺が断言する、絶対に出る。
「うん……? というか絶対に幽霊出るよな? どうやって攻撃するんだよ?」
「ヒック……はぁ? 霊体への攻撃は魔法って相場が決まってるでしょ!」
「……誰が打つんだ、魔法」
「…………ヒック……あん?」
「俺は打てないぞ。クロエも護衛も、魔法は苦手だ」
「……ヒック……すみませ~ん、おかわりっ!」
こうして俺達は、メロドーナの納骨堂の攻略を諦めた。
一先ず俺達は宿場町から引き上げ、ベッチホストの街へと向かう。
イネッサとの約束もあるので、俺は暫くベッチホストに滞在しなければならないのだ。
脱出用のアイテムを購入して行ってみようとヴェラは言うが、物理無効の霊体にどう挑むというのか。
だが俺的にも諦めたくないのが本音だ。何しろあと一回の中級ダンジョン踏破で、成長馬車代がたまる予定なのだ。
しかしそれには魔術師が必要だ。知り合いの魔術師に、声をかけてみようかな?
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