【3ー16】あなたはクーデレ派?ツンデレ派?






 その後、イネッサが応援のポリス達を呼び寄せ、亡くなった者達の遺体を収容する。


 遺体を放置、土葬などは魔石を狙った魔物や死体荒らしがいるので行えないらしい。


 人の体の中にも作られる魔石。それは遺品となって遺族の者へ届けられる。


「……こういう世界なんだな。人の命が軽いとは言わないけど、死は身近にある」

「そういえばヨルヤ、異世界人というのは本当か?」


 俺の隣で収容作業の指示を出していたイネッサ。


 初めは駆け付けたポリスに怪訝な目で見られたが、イネッサが命を救われたと言うと何人ものポリスから感謝された。


 イネッサは慕われているようだ。なんとなくイメージは寡黙でやりづらい上司だけど。



「あぁ、本当だよ。俺は別の世界にいたから」

「……そうか。ヨルヤ、その事は聞かなかった事にする。それと、あまり異世界人だという事は言わない方がいい」


「な、なんかマズいのか?」

「異世界人を欲している者達は多い。大半の人間はお伽噺だと思っているが、知っている者は知っている」


 中には悪意を持って、そして自分達の為だけに異世界人を欲している者達もいるという。


 それは世界史や国史が物語っており、望まぬ形となってしまった異世界人もいると。



「世界警察もその中の一つだ。世界警察は異世界人が作り上げた組織、異世界の者に対する執着も強い」

「イネッサは……どうなんだ?」


「私は……どうなんだろうな。迷っている」

「迷ってる……?」


 質問したのはイネッサも異世界人を欲しているのかどうか、という事だったのだが、返答には少し違和感があった。


 何を迷ってるのかは分からないが、続けたい話題ではなさそうだ。


 一先ず悪意を持って近付いてくる奴には気を付ける事にして、俺は話題を変えた。



「それより、あの黄色頭はなんなんだ? ただの人殺しの犯罪者なのか?」

「黄色頭……スペールビアの事か。異世界から来たばかりなら知らなくても仕方ないな」


「そんな有名人なのか? そのスペールビアって奴」

「奴は狂った導き手、今は強欲の厄災と呼ばれている。その名の通り、世界に厄災を振り撒く世界の敵だ」


 強欲の厄災、スペールビア。


 人々の認知は魔物と同じく、人々を見境なく襲う化け物。


 一般人からしたら災害であり厄災。その脅威から人々を守っている力ある者達。


 世界警察にとっては指名手配犯、傭兵には賞金首、冒険者には討伐対象。


 世界警察への印象は大きく変わった。あんなに犠牲者を出してでも、人々を守ろうと厄災に立ち向かっているのだ。



「……なぁもしかしてさ、ここって結構危険な異世界なのか?」

「難しい質問だな。他の世界を知らないから、なんとも言えないが……」


「のんびりスローライフな御者人生を送るつもりが……」

「安心しろ。そう出来るように我々がいる。それに厄災どもには行動に制限がある、強欲は暫く現れん」


 腰に手を当て威風堂々といったイネッサを見ていると、確かに心強いが。


 残念な事に俺は、世界を回って商売をするつもりの御者である。


 あんな化け物といつ遭遇するか分からない。クロエの強化は急務だな、新しい守護者も作成しておかないと。


 しかし厄災どもって……あんな奴が他にもいるのかよ。



「それよりヨルヤ、本当に助かった。ヨルヤがいなければ私はここにいない、何か礼をしたいのだが……」

「いや別になぁ……あぁそれなら、今度デートでもしてくれるか?」


 冗談でそう言った時、周りで作業をしていたポリス達の手が止まった。


 明らかにこちらに目を向けたりはしていないが、誰も彼もが聞き耳を立てている気がする。


 その聞き耳を立てている者達の表情、それは完全に好奇心であった。


「むっ……本当に物好きだな。私で良ければ構わないが」


「「「「ぉぉ……」」」」


 周りのポリス達から小さなどよめきの声が上がった。中には俺に向けてサムズアップしている者もいる。


 彼らの中でイネッサはどういう存在なのだろう?


 これだけ美人なら男の一人や二人いた事があるはずなのに……なんかおかしな反応だ。


「しかし私とデートなどして、楽しめるか?」

「まぁ楽しめると思うよ? イネッサ美人だし、それに楽しめるんじゃなくて楽しませるんだよ」


「そ、そうか。ふふ、楽しませる……か」


「(クーデレ最高だな、なぁお前達!)」

「「「「(あぁ、尊いっ)」」」」


 目元が緩み、僅かに口角が上がるイネッサ。


 その姿は珍しいのだろう、感動している様子のポリスも複数いた。


 イネッサの部隊とは仲良くやれそうだな、なんて思った時に一つ思い出した事があり、イネッサに問い掛けた。



「そうだイネッサ、一つだけ頼みがあるんだけど」

「なんだ? 可能な事であれば聞こう」


「エルフ酒って知ってるか? エルフ族が作っている酒らしいんだけど……」

「すまないが聞いた事はない。だが調べよう、数日中に吉報をもたらすと約束する」


 そして、再会する日を決めた俺達は軽く話をした後、イネッサの部下に宿場町へと送ってもらう事となった。


 送ってもらう道中、真剣な表情でイネッサの事を宜しく頼むと言うポリス達。


 聞くとイネッサ、男嫌いだと噂されるほど男の影がなく、ついには心配されるほどにまでなっていたそうな。


 彼女自身の圧もせいもあり、寄ってくる男もいない所に俺の発言、沸き立つのも無理はない。


 そりゃ寄らんよ、怖いもん。


 鋭い目、醸し出す雰囲気は威厳に満ちており、世界警察の最高戦力……そりゃ怖いもん。


 しかしそれがデレた時の破壊力は凄まじい。


 普段はクールな女性がデレる瞬間、それは筆舌に尽くしがたし。



「さて、こっちの怖い女性の方はどうするか……」


 宿場町まで送ってくれたポリス達と別れ、宿に戻った時。


 遠くからでも分かる。宿の前に立って、不機嫌ですオーラをこれでもかと撒き散らす女性。


 こっちの女性は普段クールではなく、普段ツン。


 絶対に怒られる……重くなった足取りで、俺は宿の前で仁王立ちしているツンデレヒロイン、ヴェラの元へと向かった。


「朝帰りとは、随分と楽しんだようね?」

「いや、楽しんだどころか大変でな……」


「心配させんな、ばか……」


 どうだいみんな? ツンデレも最高だろう?


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