【3-15】執行者 イネッサ・ランバドール・ウルディア
インベントリで見つけたアイテム、それはSSRの回復材。
俺の手持ちで最も高価なアイテム。これはログボで入手したアイテムなので、ショップで売る事が出来るはず。
これを売った金でGP回復材を購入して、クロエや護衛をたくさん呼ぶ。どさくさに紛れて俺達はダンジョンに潜ればいい。
そう考えた俺は、急いで回復材を売却しようとしたのだが。
「……なんっ……なんで10万ゴルドなんだ!? 売れば数千万するって話だったじゃないか!?」
「急になんですか? 恐怖で気でも触れてしまったのでしょうか?」
俺は急いで回復材(SSR)を売ろうとしたが、売却額がたったの10万ゴルドだった。
これでは売ってもGP回復材はNしか買えない。それを買って使用しても、クロエを召喚できるGPまで回復させる事はできない。
「さて、私もあまり時間がありませんので、そろそろお遊びは終わりにしましょうか」
男はそう言うと腕にオーラを纏わせ、俺達に向けてきた。
護衛やクロエが勝てなかった相手に、俺なんかが敵う訳がない、抗うだけ無駄である。
流石にここまでか。そう思った俺は、無意識に抱いているエルフに力を込めてしまった。
「ん……巻き込んでしまって……すまないな……」
「……いや、俺が勝手にやったことだから。最後にあなたみたいな綺麗な女性を抱けて良かったよ」
「ふふ……執行者の私に……そんな事を言ってきた男は……初めてだぞ」
「執行者……? そうか執行者、あんたがエクスキューションか……!」
抱いている女性があまりに若く、とても強そうには見えなかったので世界警察の最高戦力だとは思ってもいなかった。
俺はすぐさまインベントリから回復材(SSR)を具現化させる。それを握りこみ、俺の腕の中で弱弱しい目をするエルフと目を合わせた。
急ぎ慌てて忘れていたが、これはゲーム化されたイベント、クエストなんだ。
クエストクリアーの条件はエクスキューションの存命。つまりこの女性を存命させる事が出来ればクエストクリアー、そこには意味があるはずだ。
「名前は、なんて言うんだ?」
「イネッサ……」
「そうか。なぁイネッサ、もし万全の状態に戻れたら、この状況を何とかできるか?」
「造作……ない……だが、夢……語り……な……」
「そうか……――――じゃあコレを飲めッ!」
「んぶっ……っ……なに、を……!? がふッ!」
息が弱弱しくなり、目を閉じてしまいそうになっていたイネッサの口に、回復材を強引に流し込んだ。
死にそうになっている者に行っていい行為ではないが、緊急事態なので許してほしい。
というか俺は何をやっていたんだろうな。初めて感じた命の危険で思考がおかしくなっていたという言い訳はできるが、こんな状態になっている者を回復させる手段があったのに放っておくなんて。
まぁ回復させた所で相手がポリスなら状況は変わらなかっただろうが、目の前で嘔吐いている女性は世界警察の最高戦力、エクスキューションだ。
「はぁ、もういいですかねぇ? お別れも済ませたよう…………どういう事だ? 貴様、何をした?」
「は……ははっ! すげぇ! 腕が、腕が生えてきたぞ!?」
「そんな馬鹿な……そんな高度な魔法、人間に扱えるはずが……!」
「待っててくれてありがとうよ! お陰でこの通り回復したぜ!」
腕の中で驚いているイネッサを降ろすと、彼女はしっかりと立って見せた。
そこに先ほどまでの弱弱しさはなく、流石は最高戦力と呼ばれるほどの堂々さだ。
先ほどまでなかった腕の感覚を確かめるかのような仕草をした彼女は、黄色頭の男を見て不敵に微笑んだ。
「奇跡は起こるものなのだな。まさかゴッドポーションを所持した者に助けられるとは」
「ゴッドポーションだと……!? なんだそのふざけた名のポーションはッ!?」
「どうした、口調が乱れているぞ? まぁ焦りもするか。私は万全となった、先のように人質もいなければ、不覚を取りはしない」
「くっ……どうやら、時間切れのようですねぇ。今回はここまでにしておきましょうか」
「逃がすと思うのか? お前はここで滅ぶ、覚悟しろ」
「………調子に乗るなよ人間如きがァッ! 私が逃げるのではない、私があなた達を逃がしてあげるのですよ? 私は、寛容ですからねぇ」
男が腕を払うと、男の体を黄色いオーラが包み込んだ。そのオーラが消えると同時に男の姿も掻き消えた。
辺りが静寂に包まれる。それを掻き消すように、いつもの機械的な音声が頭に響いてきた。
『クエストクリアーを確認しました』
【特殊クエスト――――エクスキューションの危機】
【クリアー報酬――――ヒロイン化】
『ヒロインリストにイネッサ・ランバドール・ウルディアを追加しますか?』
【はい】
【いいえ】
終わった、なんとか……なったようだ。
もうこんなギリギリなイベントは勘弁してほしい。俺は世界を救う勇者なんかじゃない、ただの世界を回る御者なんだから。
こんな調子じゃ命がいくつあっても足りん。しかも俺自身には大した力がなく、基本的に他人頼りな状態なのに。
先ほどからイネッサをヒロインにするかしないかの選択肢が出ているが、正直もう関わりたくない。
世界警察の最高戦力をヒロインなんかにしてみろ、またあんな黄色頭のような奴に関わる事になってしまう。
めちゃくちゃ美人なエルフだが、エルフならクロエがいるし。それにまぁ、クロエに比べると胸が少し……かなり控えめだしね。
そういった意味で、俺は【いいえ】を選択しようと……。
「助かったぞ、礼を言う」
「え……あぁはい、よかったです、無事で」
「……どうしたのだ? 私にあのように話す男、新鮮で好意的であったのだが……」
「いやあの時はギリギリで……それにイネッサさん、エクスキューションですし」
「敬称は不要だ、口調を正す必要もない。それよりも、名を聞かせてくれるか?」
「あっと……ヨルヤです。ヨルヤ・ゴノウエです」
「ではヨルヤと呼んでもいいだろうか? 私の事もイネッサと呼び捨ててほしい」
「えっと……」
突き放せ、仲良くなるな。そんな初めて思う事を自分に言い聞かせる。
この女と関われば人生ハードモード、いくら美人なヒロインでも戦場でのロマンスは嫌だ。
俺は色恋に傾きそうになる自分を必死に抑え、いいえにカーソルを当てるように念じる。
すまないイネッサ。君にはこんな情けない俺じゃなく、もっと良い人が……。
「ダメだろうか、ヨルヤ……? 私は君に、イネッサと呼ばれたい」
「うっ……」
→【はい】
……勝てなかったよ。だってこのエルフ、痴女じゃないんだもん。俺が望んだクーデレエルフそのものなんだもん。
胸に軽く手を添えられ、僅かに頬を赤くした上での上目遣い。さっきまでキリッとした表情と声色だったくせに、それは卑怯だろうよ。
人生ハードモード確定。俺、ゲームはイージーかノーマルでやるタイプなんだけど。
「こ、これからもよろしくな? イネッサ……」
「……! あぁ、よろしく、ヨルヤ」
願わくば、彼女と歩む道が穏やかでありますよう…………ムリゲーだな。
【名前――――イネッサ・ランバドール・ウルディア】
【年齢――――26歳】
【職業――――世界警察エクスキューション】
【好感度――――25】
【関係性――――戦友】
【状態――――普通】
【一言――――男に抱かれたのは初めてなのだぞ】
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