【3-13】中級ダンジョンクリアー……からの事件です






 俺とクロエはダンジョンを踏破して踏破メダルを入手するために、再びムスリム大峡谷のダンジョン入り口までやって来ていた。


 時間的な問題なのか冒険者達の姿は全くない。


 しかし冒険者達はいないのだが、別の面倒そうな予感しかしない奴らが入り口を封鎖するように立っていた。



「冒険者の方ですか? 申し訳ありませんが、身分証の提示をお願いします」

「冒険者ではないですけど……どうぞ」


 そこにいたのは軍服を着た世界警察のポリス。


 随分と丁寧な警官だなと思った。そりゃいろんな人がいると思うが、今まであった世界警察の人間は横柄な奴か不愛想な奴しかいなかったからな。


 そんな世界警察の人間に身分証を手渡した。なぜ急に検問のような事をし出したのか分からないが、別にやましいことなどしていない。


「特級の身分証……ありがとうございました。すみませんが、お連れの方の身分証も拝見できますか?」

「あ~えっと……こいつの身分証は――――」


「――――おいっ! いたぞ! こっちだ!」


 身分証を持たないクロエをどうしようかと思った時、ダンジョンの入り口とは反対の方角から大きな声が聞こえてきた。


 何事だとそちらを振り向こうとした時、入り口を封鎖していたポリスが動き出した。


「お止めしてしまいすみません。ダンジョンに入るのであればお気をつけて!」

「あぁはい、どうも……」


 そう言うや否や、ポリスは声がした方角へと走り去っていった。


 もしかして犯罪者でも近くに潜んでいるのだろうか? それで犯罪者がダンジョンに逃げ込まないように、入り口を封鎖していたと。


 こんな時間に大変だな……と少しだけ世界警察の評価を上げた俺は、ダンジョンへと入った。



『ダンジョン攻略を開始します』


【ダンジョン名――――ムスリム大峡谷】

【ダンジョン難易度――――中級】

【ダンジョンタイプ――――タイムアタックダンジョン】

【ダンジョン特異性――――トラップアップ】


【タイムアタックダンジョン――――12時間以内の踏破で踏破ボーナス】

【トラップアップ――――通常のダンジョンに比べてトラップの数が増える】



 しっかりとゲーム化ギフトからのアナウンスを確認した。内容は想像通りで、ヴェラと潜った時と変わらない条件のようだ。


 12時間以内のクリアーでボーナスか。噂では一日以内とあったが、どうやら真実はその半分の時間での踏破が必要なようだ。


 今回もクロエにお願いして、ダンジョンのトラップを回避していく作戦だ。12時間以内でのクリアーを目指す。


「よし、行くぞクロエ。トラップは任せた」

「畏まりました」




 ――――




 ダンジョンに潜って数時間。一切の休憩なしでダンジョンを突き進んでいたが、流石に疲れと眠気が強くなってきた。


 GPは使い切っているため眠気を吹き飛ばす眠々打破は使えない。それどころか、クロエの召喚維持も行えない。


 今回ばかりは流石に、GP回復材を使用するしかなさそうだ。



「クロエ、後どのくらいで時間切れだ?」

「あと三時間といったところです」


「三時間……体力の方はどうだ?」

「そちらは全く問題ございません」


 少し軽率な行動だったかもしれない。ダンジョン攻略は問題なく出来るだろうが、自分の状態を軽視しすぎてしまっていた。


 体力消耗にGP切れ、空腹に眠気といった身体状態。


 こんな状態でダンジョン攻略とか、舐めんじゃないとヴェラに怒られてしまうだろうな。


「この調子で進めれば、最深部までは四時間といったところです」

「四時間か……ギリギリだろうけど、少し休もうか」


「はい。ではヨルヤ、膝枕をいたします。下は脱いだ方がよろしいですか?」

「脱ぐなよ。いやそれより、まず飯だ」


 ヴェラと潜った時に用意した食料、ほとんど消費されてしまったが少しだけ残っている。


 それを消費して一休み。膝枕を強く勧められたが、魔物の警戒をしなくてはいけないため断念。


 少しの休憩のち、GP回復材(R)を使用してGPを50%回復させた。



【GP――――0】→【GP――――75】

【GP――――75】→【GP――――50】



 すぐさまクロエの召喚維持を行い、残りのGPは50となった。クロエの再召喚分には足りないが、護衛なら数体呼べる。


 従馬はダンジョンから出る頃には消えているだろうから、二頭分の20GPを残しておく事を考えれば呼べる護衛は二体となる。


 これでデスホビット戦も大丈夫だろう。ヴェラには及ばないが、クロエとレベルマックスの護衛二体であれば、タワーディフェンスで対応可能なはずだ。


「しかし宝箱から出てくるアイテム、ハズレばかりだな」

「今のところ、回復材と魔石ですね」


「ヴェラはマジックスクロールとか、強そうな剣とか出てたもんなぁ」

「恐らくヨルヤ、LUKが低いせいかと」


「マジかよ、そんな重要ステだったのかよ」

「ちなみに運が良ければ、クロエが童貞を殺すセーター姿で召喚されます」


「マジかよ、LUK上げたくなってきたぞ」

「ちなみにクロエ、下着を着けていないので横から丸見えですね」


「マジかよ、下着は着けろよ痴女エルフが」


 少しの休憩のち、俺達は攻略を再開させた。


 この後は順調に進み、召喚した二体の護衛の力あってボス戦も危なげなく攻略、特筆すべき点がないため割愛させてもらう。



『ダンジョンクリアーを確認しました』


【ダンジョン名――――ムスリム大峡谷】

【クリアー報酬――――レベルアップポイント、50GIp、10名声ポイント】



「おおっ! やったぞクロエ! メダルが二枚落ちてる!」

「おめでとうございます」


 それぞれ刻印が違うメダルを手に入れた。片方は普通の踏破メダルで、もう片方は12時間以内クリアーのボーナスメダルだろう。


 これは高く売れるはず。金持ちの冒険者に売ろうか、商業ギフトと交渉しようか考えながらダンジョンから出た――――


 ――――その瞬間だった。



「ぐあぁぁぁっ……!!」


 人の叫び声のようなものが聞こえたのだ。


 明るくなり始めていた峡谷に響く男の声、それはまるで断末魔だった。


「な、なんだ!?」

「向こうから聞こえてきたようです」


 クロエが示した方向は宿場町とは逆方向、様子を見に行くべきなのか判断に迷う。


 魔物にやられたのか、それとも何か事件でも起こったのか分からないが、誰かの身に何かがあったのは間違いない。


「い、行ってみるか……クロエもいるし、護衛もいるし」


 流石に無視は出来ないかと、叫び声がした方向にゆっくりと足を進めた。


 誰かが魔物にでも襲われていたのなら助けないと……ヤバそうなら申し訳ないが脱兎の如く逃げ帰る。


 護衛を先頭に、クロエは俺の傍に控えさせて警戒させる。


 少し進むと、誰かが倒れていたため、俺は急いで駆け寄った。



「だ、大丈夫ですか!?」

「あ……あ……ぃ……」


「あなた、さっきのポリス……!?」


 そこにいたのはダンジョンの入り口で会った、あの丁寧な物腰のポリスであった。


 血だらけで息も絶え絶え、重症を負っているのがすぐに分かった。


「い、今すぐにポーションを……そうだ、SSRの回復材が――――」


「――――イ、イネ……様……助けて……おね……します……!」

「そんなこと言ってる場合かよ!? まずはアンタから……おい……おいっ!?」


「ヨルヤ、この者はもう絶命しています」


 男は目を見開いたまま事切れた。


 回復材をインベントリから取り出そうとした俺の腕を掴み、最後の力を振り絞って懇願してきた。


 誰かを助けてくれと。己の命を捨ててでも、他者を助けてくれと頼み込んできた。



『クエストを開始します』


【特殊クエスト――――エクスキューションの危機】

【クリアー条件――――エクスキューションを存命させる】

【クリアー時間――――30分】

【クリアー報酬――――ヒロイン化】



「……行くぞ、クロエ」

「畏まりました」


 いきなりのクエスト表示に驚いたが、クリアー時間が30分とあり一刻を争うようだ。


 初めて出会った好印象のポリスだったのに、こんなに早く別れる事になるとはな。


 正直怖い。見なかった事に、聞かなかった事にして逃げ出したい気持ちもある。


 だってエクスキューションって、世界警察の最高戦力だよな? そんな人物の危機って、ヤバい匂いしかしない。


 だけどここで逃げたら、絶対に後悔する。


 悪い癖が出たのかもしれない。俺は後先考えず、走り出した。


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