【3-12】タダ働きのダンジョン攻略






『タワーディフェンスバトルで戦闘を開始します』


【拠点設定:ヨルヤ】

【勝利条件:敵の殲滅】

【敗北条件:拠点の崩壊】


【出撃ユニットを選択後、任意の場所に配置してください】


【出撃ポイント:75】


【ヴェラ:出撃コスト・35】

【クロエ:出撃コスト・30】



 これしかないと思った。やはり少人数対多人数の戦闘での最善はタワーディフェンスだと、そう思って選択した。


 以前あった、群れを成して襲い掛かってきたゴブリン達も、タワーディフェンスシステムの前では雑兵もいいところだった。


 あの時のゴブリンより今回のデスホビットの方が数が多い、だからこそのタワーディフェンスバトルだったのだが。


 失敗したかもしれない。



「クロエ! 右ッ右ッ! あぁぁっ後ろからも来てるッ!」


 三百六十度、全方位から襲い掛かってくるデスホビット達。


 ヴェラもクロエも物凄い勢いでデスホビットを屠っていくが、いかんせん数が多すぎる。


「ヴェラ! ヴェラァッ! 前見て! 来てるって! そいつから倒して!」


 圧倒的な手数不足。一撃で敵を倒せているのに、ゆっくりと迫ってくるデスホビット達との距離はジリジリと縮まっていた。


「怖ぇ……こんな気持ちだったのか、拠点って……!」


 今回は馬車がないからだろうか、なぜか俺が拠点と設定されてしまい、身動きが取れなくなっていた。


 言葉通り身動きが取れないのである。その場から一歩も動くことができず、ヴェラやクロエに声を掛けても反応されることもない。


 ただの物言わぬ防衛拠点である。


 そりゃ拠点が動き回れたりしたらゲーム崩壊だが、迫りくる敵をただ眺めるしかできないというのは何とも恐ろしい。


「にゃ〇こ砲みたいなのはないんか!? タワーディフェンスにはそういうのあるよな!?」


 それらしき表示はない。あるのは拠点である俺の絵と、ヴェラとクロエの絵が視界の下部に表示されているだけ。


 その絵の下には緑色のバーが表示されている。恐らくこれは俺達の体力だと思われるのだが。


「SDキャラ絵、きゃわいいな……」


 なぜか表示されている絵がSDキャラクター化していた。小さくデフォルメされたヴェラとクロエがすんげぇ可愛いが、それどころではない。


 命の危険に晒されている時にそんな遊び心、ゆっくりと楽しめない。



「まだ終わらないのかよ!? そろそろヤバ……ん?」


 そろそろヴェラやクロエに敵が到達してしまうといった時、SD表示されたクロエの絵が黒色に輝いた。


 何かしなければならないのかと思い、光っているクロエのSDイラストを確認すると念じてみた。



【一射即殺】 【雨矢絶殺】



 するとそんな表示が現れ、内容を見た俺はそれが必殺技なのだと即座に理解した。


 時間経過なのか敵を倒した数なのか分からないが、タワーディフェンスにはキャラクター毎に特殊行動があるはずだ。


 この数に一射はないなと思い、雨矢絶殺というものを使用するように念じてみた。


 するとクロエの行動が変わる。デスホビットに向けてではなく、弓矢を天に向けたクロエは弦を引き、矢を放った。


「おぉっ! すげぇぞクロエ!」


 放たれた矢が天から落ちてくると、それは無数の雨粒のようにデスホビット達に降り注いだ。


 一気に多くのデスホビット達が靄となって消えていく。クロエは特に反応することもなく、再び通常の行動へと戻っていった。


「あれをもう何回か打てれば終わりそうだな」


 再びクロエが黒色に輝くのを待つ。特に特殊な行動をした訳ではないため、一戦闘一回限りなんて制限がない限り、また打てるはずだ。


 その表示を待っていたのだが、先に変化が訪れたのはヴェラの方だった。


 ヴェラの可愛らしいSDキャラが金色に輝きだす。SD表示となってもツンデレっぽさが残っているのがヴェラらしい。



【獅子奮迅】 【狂瀾怒濤】



 ……バーサーカーみたいな奴だな。勢いが凄そうというか、一度暴れたら手が付けられない暴れ者みたいな。


 狂瀾怒濤って、言葉通りなのだろうか? まぁタワーディフェンスだし、拠点に被害が及ぶって事はないだろう。


 狂瀾怒濤を選択。ヴェラのように遠距離武器じゃないけど、どうなるのだろう……って、突っ込んでいきやがった。


「うわ……」


 俺の目には乱暴に槍を振り回しているようにしか見えない。


 狂った暴力、それしか言いようがない。そこに美しさはなく、ただただ圧倒的な暴力で戦場を支配していく。


 クロエ以上の戦果を見せたヴェラが定位置に戻った。チラッと表情を確認してみたが、いつも通り不機嫌そうなヴェラだった。


 そして気が付けば残り数体しか残っていないデスホビット。


 逃げればいいのに、バトルシステムに強制された奴らは断頭台への歩みを止められない。



【リザルト】


【魔石(N)】 x 41

【魔石(R)】 x 17

【HP回復材(N)】 x 8

【HP回復材(R)】 x 22

【成長材(N)】 x 3


【獲得ゴルド】 : 780


【レベルアップ】 40 → 41



 そして戦闘終了。リザルト画面が表示され、タワーディフェンスバトルシステムも解除されたのと同時に、ヴェラが意気揚々と部屋の奥へと進んでいった。


 そして何かを拾い上げる仕草を見せ、すぐさま意気消沈の様子となったヴェラ。


 思うような結果ではなかったのだろうか? そう思った俺はヴェラに聞いてみた。



「踏破メダル、一枚だけだったわ。やっぱりただの噂か……」

「いやそれより、一枚だけ……? 俺のは?」


「なに言ってるの? パーティーに対して踏破メダルは一枚、常識でしょ?」

「……なんだって? じゃあそのメダルは……」


 ヴェラの物になるだろう。勝手に人数分のメダルが貰えるものだと思っていたのだが、そうではないらしい。


 今回の攻略はヴェラがリーダーの、ヴェラのパーティーでの攻略だ。


 だからダンジョン攻略のアナウンスも、クリアーのアナウンスも出なかったのか。


 これじゃほんとのタダ働きである。物資など諸々俺持ちで、道中の宝箱にあったものも全てがヴェラの物。


 確かにそういう約束だったが、メダルが手に入るから承諾したようなものだったのだが。


「じゃあ帰りましょ? 疲れたわ」

「おう……」


 意気消沈で疲れたのは俺の方だ。帰り道は会話もほぼなく、黙々と宿場町へと向かった。


 宿場町に着き、宿を手配。流石にヴェラも疲れたのか飲み会などはなし、明日の朝に再び合流することにして、俺たちは別れた。



「……さて、じゃあ行くか、クロエ」

「はい。ラブホですね」


「ちがわい。ダンジョンだよ、もう一回ダンジョンに行くぞ」

「畏まりました」


 ここまで来てメダルなしなんてあり得ない。ダンジョンには何度も潜れるんだ、だったら潜ってやればいい。


 俺とクロエは再び、ムスリム大峡谷へのダンジョンに向かって馬を走らせた。

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