【3-11】ダンジョンはゲーム化されている






 昼休憩のち、その後もダンジョンの攻略を行っていた三人だが、ついに分岐点と思われる状況となっていた。


 護衛召喚を行うだけのGPが尽きたのである。手持ちのGP回復材(R)を使用すればGPが50%回復するので、追加で五体の召喚は可能だが。


 時計がないので体感ではあるが、今は夕方といった辺りだろうか。大して疲れてもいないし時間的にも野営は早いが、護衛なしに進むのは危険である。



「……どうする? ここで野営するか、進むか」

「安全を取るか危険を冒すかって? そんなの決まってるわ」


「だよな、じゃあ今日はここで――――」

「――――冒険には危険が付き物よ、進むわ」


 インベントリから野営セットを取り出そうとした時、ヴェラの口からおかしな言葉が聞こえてきたため手が止まる。


 聞き間違えだろうか? 進むと聞こえてのだが。


「……進むだって? 護衛も尽きたのに、このトラップだらけのダンジョンを進むって言ったのか?」

「そうよ。いいペースだし、ちょっと確認したい事があるのよね」


 聞き間違えではなかったようだ。やはり彼女は危険を冒してでもダンジョン攻略を続けるつもりらしい。


 確かに冒険には危険は付き物だろうが、自ら危険を冒す必要性が分からない。冒す理由も確認したい事があるからという、よく分からない見返りのために。


「確認したい事ってなんだよ? そんなに重要な事なのか?」

「このダンジョンの事を調べている時、お金になりそうな面白い話を聞いたのよ」


「おい、金のために危険を冒すつもりはないぞ?」

「はぁ? 危険は金のために冒すものでしょうよ」


 どうやら価値観が合わないようだ。


 この世界で命というものがどれくらいの重さで考えられているのか分からないが、俺にとっては命より大事なものはない。


 もしかして蘇生魔法とかあるのだろうか? まぁあったとしても気軽に行えるものではないだろう、回復材(GOD)なんて物の存在が却下されるくらいだし。


 金は命より重い、そんな考えのヴェラ。そんなヴェラが不敵な笑みと共に出した次の言葉は、ふざけているとしか言いようのないものだった。



「このダンジョン、一日以内に踏破すると踏破メダルが二枚貰えるって、そんな噂があるのよ」

「はぁ? なんだよそれ? そんな訳ない……」


 ……いや、ありうる。ダンジョンは遊戯神の管轄、奴の力が多分に含まれている。


 まるでゲームだが、ゲーム化ギフトを持っている俺だからこそ分かる、その噂はマジだ。


 言うなれば、ダンジョンはゲーム化されているのだ。


 復活する宝箱、倒すと消える魔物に踏破メダル。パーティー毎の攻略が可能で、人の手が入ったような環境にボスの存在。


 全てが人為的、だが人に作れるものではない。


 遊びの神が娯楽として作り出した、この世界の人気アトラクション、それがダンジョンなんだ。



「あるパーティーが転移トラップを作動させて転移したら、目の前がボス部屋だったらしいのよ」

「なるほどな……」


 通常、こんなトラップだらけのダンジョン攻略は時間が掛かる。初見なら絶対に短時間攻略など不可能だ。


 どんなトラップがあるのかも分からないのだから、慎重にならざるを得ない。トラップの代りに魔物なら、短時間攻略も出来るだろうけど。


「あたし達も凄いスピードで進んでいると思うのよね。一日以内、いけるんじゃないかしら」

「だとしても、この先のトラップはどうするんだよ?」


 GP回復材はあるが、正直にいうと温存しておきたい。


 ショップで買えるから入手は容易いのだが、いかんせん高すぎるのだ。


「なんとかなるわ! 今までの感じ、気を付ければ大丈夫だと思う」

「……分かったよ」


 条件達成クリアーでのメダルで回復材分が賄えるだろうか? いやしかし成長馬車購入に充てたいと悩んでいたところ、様子を見守っていたクロエが話しかけてきた。



「ヨルヤ。ご命令頂ければあの程度のトラップ、クロエが対処いたします」

「えっ? 出来るのか?」


「はい。肉体ダメージ以外のトラップはほぼ無効化しますし、物理トラップを見切る事も可能です」

「ほ、ほんとに大丈夫なのか?」


 今までにあったトラップを思い返してみる。一番多かったのはやはり、物理トラップである。


 俺の護衛は矢に射抜かれたり、炎に包まれたり、落石に押しつぶされたりなど悲惨な最後を迎えていた。


 だがクロエの言うようにトラップを見切り、見事に回避して見せた護衛もいた。護衛の上位存在であるクロエなら、もっと上手く回避できるのかもしれないが。


 言葉を発し、思考するクロエがトラップでダメージを負う所なんて見たくないぞ。


「大丈夫です。現状況で、ヨルヤを護る最善と判断しました」

「最善は野営する事だと思うんだが……」


「ヨルヤは回復材を使わず、進むと決められたのですよね?」

「まあ、そうなんだけどさ」


「でしたら、これが最善です」


 猪突猛進のヴェラは、進むと決めたら止まらないだろう。やっぱり野営を……なんて受け入れるはずがない。


 まぁ彼女は一応、銀等級の冒険者だし。全くの無策という訳ではないと思う、思いたい。


 ここはクロエを信じようか。裏では少しポンコツで、かなりの痴女だがやる時はやる子だ……と思いたい。


 進む事を決めた俺達は、クロエを先頭にダンジョン攻略を進める事にした。




 ――――




「……やるわね、あの子」

「あぁ、想像以上だ……」


 壁の中から飛来する矢を片手で掴み取り、炎に撒かれたと思ったら体に風を纏って対抗し、落石の位置を把握して紙一重で避ける。


 そんな凄まじい芸当を披露しているクロエは涼しい顔のまま、どんどん奥へと進んで行く。


 ガストラップや精神障害のマジックトラップといったものは、彼女には効かない。


 対人地雷除去機の如く、クロエは突き進む。


「初めからあの子に任せれば良かったんじゃない?」

「一度トラップを見たからこその動きじゃないのか?」


「それはあるかもしれないけど……あの子には恐怖心がないのかしら? 普通、進めないわよ」


 恐らくだが護衛と同じで、彼女にもそういった感情はないだろう。思えばクロエが驚いている所とか、慌てている所は見た事がない。


 というか、真面目か変態かの二つの姿しか見た事がない。


「先ほどまでの最善は、護衛を盾にしてヨルヤを護る事でしたので」

「そうかしら? 今の様にアナタがトラップを解除していく、それが一番安全じゃない?」


「あなたがヨルヤを襲った時は、護衛達では対処できません」

「はぁ? あたしがヨルヤを襲う? そんな事ある訳ないじゃない」


「可能性がないとは言い切れません。現状況では、あなたよりトラップの方が脅威だと判断しました」

「なんなのその考え……普通の人間の思考じゃないわ」


「クロエは守護者です。ヨルヤの決定、命令に異議は唱えません。進むと決めたのであれば、その中でクロエは最善を選択してヨルヤを護ります」

「あっそ……でも一つ言っとくわ。あたしは、ヨルヤを襲わない、絶対によ、分かった?」


 ヴェラのその言葉に頷いた様子は、俺には確認できなかった。


 他者と会話し反応もしているが、やはりどことなく壁というか、一線を引いているように感じる。


 これが守護者だからなのか、俺が一途と設定してしまった影響なのかは分からないが。


 そんな事がありながらも、ダンジョン攻略を続けていく。


 時間は掛かったが、数多のトラップを潜り抜けた俺達は、ついに最奥へと辿り着いた。



「立派な扉……ボス部屋だよな?」

「恐らくね、他に道もなかったし」


 俺達は扉を開け、中へと入った。入った瞬間に、最後のトラップともいえるものが作動する。


 扉が勝手に閉まり、俺達は閉じ込められた。ゲームではありふれた演出、敵を全て倒すまで出られませんという、あれか。


「ボス、いなくないか……?」

「……いえ、いるわ」


 ヴェラが薄暗い部屋の奥を睨みつける。俺も同じように、目を凝らして部屋の奥を見てみる。


 赤い光が二つ見えた。その光はゆっくりとこちらに近づいて来る。


「……なんだありゃ? 小さな……おっさん?」


 赤い光は小人の不気味に光る目であった。俺達の三分の一程度の背丈しかない小さなオッサンは、手に千枚通しのような針を持ち、目を不気味にギョロギョロさせている。


 ゴブリンなどとは違い人の顔をしている。しかしそれが余計に不気味さを増幅させていた。


「気持ち悪いけど、弱そうだな」


 千枚通しは凶器だが、脅威には感じない。体も小さいため、蹴り飛ばせばそれだけで終わってしまいそうな気がする。


 もしかしてめちゃくちゃ素早いのだろうか? だとしてもターン制コマンドバトルで戦闘を開始してしまえば、対処できるだろう。



「デスホビット……!」

「デス……? なんだって?」


「ヨルヤ、危険です。クロエから離れないで下さい」

「き、危険なのか? あんな小さなオッサンが」


 ヴェラとクロエが辺りを警戒しだす。自分達の周りをキョロキョロと確認し始める、その行動に違和感を覚えた。


 敵は目の前にいるのに、なぜ辺りを警戒するのか? その答えはすぐに分かった。


 辺りの暗闇に、真っ赤な目がいくつも浮かびだしたのだ。


「デスホビット……一人見つけたら、辺りに百人はいるわ」

「……ゴキ〇リ?」


「群がられたらお終いよ。体をあっという間に穴だらけにされる」

「想像しただけで痛いな……」


 本来なら叫び声の一つでも上げて逃げ出したい所だが、扉は閉じてしまっているので逃げられない。


 それに正直、怖くなかった。それは焦った様子などなく、ただただ面倒臭そうな表情をしているヴェラと、さっきから念話で卑猥な事を話しかけてくるクロエのお陰だった。


「(デスホビットですか。略すとデスホ……ラブホみたいですね。クロエ行ってみたいです)」

「(行く前にこの状況を何とかしてくれ……)」



『バトルシステムを選択してください』


【ターン制コマンドバトル――――選択可】

【リアルタイムアクションバトル――――選択可】

【タワーディフェンスバトル――――選択可】

【カードバトル――――選択不可】

【放置バトル――――選択不可】



 さてどうしようか……? 一見、ターン制はないと思われるが、広範囲への攻撃オプションが二人のどちらかにあるのであれば、選択するのもアリだ。


 逆に今回はリアルタイムがないんじゃないだろうか? こんな狭い部屋であの数、群がられたら終わりという言葉もある。


 となればターン制コマンドか、タワーディフェンスか……。

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