【3-10】お約束トラップ






 ――――ボフンッ――――


 これで四体目の護衛が還ってしまった。


 召喚した護衛の残りは一体、追加で呼べる護衛は五体。まぁログボの回復材があるし、なんとかなるだろうが。


 ダンジョンに潜って何時間くらいだろう? 未だ終わりが見えないムスリム大峡谷のダンジョンは、教えられた通りトラップだらけであった。


 魔物の数はそこまで多くないが、トラップの数が多すぎる。壁から矢、落とし穴といった典型的なトラップに、魔物を呼び寄せるトラップや転移トラップなど多種多様。


 今の所、即死級のトラップはなかったが、この先もそうとは限らない。



「順調順調♪ もう少ししたらお昼にしましょ」

「……もう少しさ、俺の護衛に敬意を払ってくれよ? 順調順調♪ じゃねぇんだよ」


「払ってるわよ……ん? そこの床の色、おかしいわね。押してきて」

「とてもそうは見えんのだが……というか罠を見つけたなら、作動させないように避ければいいだろうが」


「帰りの事もあるし、他のトラップと連動している可能性もあるわ。作動させておいた方が安全よ」


 確かに少し先の床の色が、他と比べて違っている箇所があった。


 だが気を付ければ十分に回避できそうなトラップ、わざわざ作動させる必要性があるだろうか?


 ヴェラの言う通り他と連動している可能性はあるが……作動させた方が安全なトラップってなんだよ。


 仕方なしに俺は護衛にトラップを踏み抜くように指示を出す。ほんと、ふざけた指示で申し訳ない。



「――――」


 護衛が床トラップを踏んだその瞬間、床と壁から白いガスのようなものが噴出してきた。


 一瞬にしてガスに包まれる護衛。だがダメージを受けている感じはなく、外見にも特に変化はない。


「物理トラップじゃなさそうね……」

「もしかして毒ガス……!? それとも息が出来なくなるとか、催眠ガスとか?」


「クロエが確認して来ます」


 毒ガスや催眠ガスであれば、不思議な靄で構成されている護衛やクロエには効かないだろう。


 未だ晴れないガス溜まりにクロエが入って行った。もちろんクロエにも何の異常も見られない。


「ど、どうだ? 大丈夫そうか?」


「……よく分かりません。クロエの肉体は人のそれとは違いますので」

「じゃあなんで確認して来ますなんて意気揚々と突っ込んで行ったんだよ」


「少なくとも肉体に物理ダメージはありません。精神障害なども発生しておりませんし、毒ガスでもなさそうです」

「もしかしてただの二酸化炭素か? まぁ、とりあえず少し待とうか」


 ある程度ガスが消えてから、俺達は先へと進んだ。念のため息を止め、目を瞑って突っ切ったが、特に異常もなく抜けられた。


 こんな感じのトラップなら命の危険もないし、大歓迎なんだけどな。



「そろそろ昼飯にしないか? 腹へったぞ」

「そうね。魔物の気配もないし」


「……あれ? なぁヴェラ、お前いつの間に髪を解いたんだ?」

「髪を解いた? なに言ってるのよ?」


 昼食を取る事を提案するためにヴェラの方を見ると、いつもの髪型じゃない事に気が付いた。


 ヴェラの髪型はサイドテール、それが今は解かれセミロングとなっていた。


 見慣れない髪型に見惚れてしまったが、ダンジョンに入る前は結んでいたよな。


「似合ってるじゃん、その髪型も」

「あたし解いてないわよ……ってほんとだ、解けてるわ」


「もしかして戦闘中にぃっ……お、おい、お前服が……!?」

「な、なんなのよさっきから? 服って……」


 俺の目がおかしくなったのだろうか? ヴェラの着ている服が消え始めた。


 ゆっくりと消えていく服、露になる綺麗な肩。服消失の進行は止まらず、ついには黒い下着が見え始めた。


「ちょ、ちょっとアンタ!? 服が消えていってるわよ!?」

「いや消えているのはお前の方だろ!?」


「はぁ? あたしの服はだいじょう……って、なによこれぇっ!?」

「お、止まったぞ? 良かった良かった」


 服の消失が急に止まった。完全に黒ブラは見えてしまっているが、全ては消えずにお腹の部分で消失の進行が止まった。


 中途半端に消えたせいか、腹巻みたいな状態になっているが。


「良くないわよ! 見るなっ! お金とるわよ!?」

「しっかし随分と近代的な下着だな……もしかして異世界人の発明か?」


「訳わかんないこと言ってないで、服! 早く着る物よこしなさいよっ!」

「はいはい……ってうおぉ!? 俺の服も消えてる!?」


「(はぁ、はぁ……いい体です、ヨルヤ)」

「もしかしてさっきのガスか!? なんてお約束なトラップ……!」


 衣服を溶かすトラップといえば、有名なトラップである。


 都合よく衣服だけ溶けるお色気トラップ。しかしどうせなら下着も溶かして欲しかった。


「ちょっとヨルヤ! 何かないの!? 女の子にいつまでこんな格好をさせておくつもりよ!?」

「下着が露出しただけで動けなくなるとは、ご立派な冒険者ですね」


「なっ……」

「女を捨てきれないのであれば冒険者など辞めるべきかと。衣服が裂けてしまう事など多々あるでしょう。あなたはその度にそうやって無防備な姿を晒すつもりですか?」


「な、な……舐めんじゃないわよっ! 別に下着の一つや二つくらい、どうって事ないわ!」


 腰に手をあて、堂々とした態度を取り始めたヴェラ、もちろん丸見えである。


 クロエに煽られたヴェラは、顔を真っ赤にしながらクロエと言い合いを続けている。



【A・下着姿を褒める】

【B・ジトジロと見る】

【C・布を渡してやる】



 ヴェラはああ言っているが、めちゃくちゃ恥ずかしいのだろう、顔が見た事がない程に真っ赤だ。


 彼女も緊急時であれば羞恥なんて忘れるだろうし。それに女を捨てられるのは俺としても困る。


「ほら、ヴェラ」

「ん……」


 俺はヴェラに胸を覆い隠せる程度の布を渡し、彼女はそれを黙って受け取った。


 ハートエフェクトが出たのでこの行動は正解だったようだ。


「……それで、何か言うことは?」

「まぁその……綺麗だった」


「ふ、ふんっ! 当然よね! というか、あなたも何か着なさいよ」

「休憩場所に着いたら探すよ」


 その後、昼食を取るために手頃な場所を見つけた俺達は休息を入れた。


 その間に俺はショップから町人装束を購入、ヴェラには旅人装束を購入した。


 どっから服を出したとヴェラに追及されたが、そこは企業秘密。


 少しの休憩のち、俺達は攻略を再開する。ヴェラの表情が昼食前と比べて、柔らかくなっていたのは気のせいだろうか?



【好感度――――43】

【関係性――――冒険仲間】

【状態――――歓楽】

【一言――――可愛い下着つけてて良かった……】


 

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