【3-9】悪魔みたいな効率重視女子






「さて、着いたわね。ムスリム大峡谷……流石に圧巻ねぇ」

「なんだこれ、グランドキャニオンかよ……」


 目の前に広がる雄大な光景、ムスリム大峡谷。ここの一部がダンジョン化しており、冒険者で賑わいを見せているのだとか。


 俺達はベッチホストの街にはいかず直接このダンジョンへと従馬を走らせ、今しがた到着した所だ。


 峡谷の入口には宿場町が作られていた。ダンジョンに潜る者、観光にやって来る者、峡谷から取れる資源を求めてくる者などで賑わっている。


「じゃあさっそく……いく?」

「……宿の確保はしなくていいのか?」


「まだ昼前よ? それに観光で来たんじゃないし、宿なんていらないわ」

「まぁ、そうだけどよ……じゃあ昼飯食ってからにしない?」


「しないわ、お腹へってないもん」

「そうですか……」


 大峡谷っていったら、イメージはゲーム終盤に出てくる高難度のダンジョンなのだが、この雄大さで本当に中級なのだろうか?


 つまり何を言いたいのかというと、怖い。目の前に聳え立つ岩山が圧巻過ぎて、自分がとても小さく思えてくる。


「(大丈夫ですよ、ヨルヤ)」

「(おぉ、頼むわ、守ってくれよ)」


「(ヨルヤのモノは小さくありません。立派に聳え立っていますよ)」

「(そっちかよ。たってねぇし……そもそもなんで知ってんだよ)」


 ダンジョンの場所の詳細はヴェラがギルドに確認済み、いよいよ俺達はダンジョンに向けて動き出した。


 この宿場町から歩いて二時間ほどの場所にダンジョンの入口があるらしい。まぁ従馬で行けば一時間もかからないだろう。


 はぁ、甘く見てたわ……初級ダンジョンである森の洞窟に比べてなんだよ、この圧巻さは。




 ――――




 そしてダンジョン入口に到着。宿場町からここまでは道もある程度整備されており、魔物と遭遇する事もなかった。


 入口に着いて思ったのが、意外に人がいるという事。ダンジョンの管理表に記入した者達が、続々とダンジョンに潜っていっている。


 そしてもう一つ気になった事がある。見覚えのある軍服を着た者が数人、ダンジョンに入って行く者達を見ては何かを話し合っていた。


「おい、なんで世界警察がいるんだ?」

「知らないわよ。アイツらはどこにでもいるでしょ」


「なんか雰囲気がおかしくないか? なんかあったんじゃ……」

「だから知らないって! ほらそれより、あたし達の番よ」


 ヴェラに背中を押され、俺は代表して管理表に入場の記入を行った。


 チラッと流し見てみたのだが……ところどころ退場の記載がない。こいつ等は戻って来れなかったという事か……?


 怖い。やっぱりいるんだな、戻ってこれない奴。



「おい大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」

「え……? あぁいえ、大丈夫です」


「そうか。もし体調が悪いのなら、別の日に潜る事をおススメする。ここは生半可なダンジョンじゃないからな」


 後ろに並んでいた男が声を掛けてきた。片目に眼帯を付け、ガッチリとした体に大きな斧を背負った強そうな男。


 その後ろには彼の仲間だろうか? 十人ほどの男女が列を成していた。


「それにお前達、たった三人で挑むのか?」

「えぇまぁ、そうですね」


「……大丈夫か? このダンジョンはトラップが多い、解除できる者はいるのか?」

「トラップって……マジ?」


「マジだ。トラップを解除出来ないと、こうなる」


 男は眼帯を外し、潰れた目を見せてきた。トラップの解除に失敗、もしくは気づかずに作動させてしまい、片眼を失ったと。


 トラップとはいかにもダンジョンっぽいが、うちのパーティーは全員が脳筋、繊細作業なんて出来る訳がない。


「問題ないわ、トラップがあっても」

「おおヴェラ! もしかして解除が出来るのか!?」


「出来ないわよ。でもアナタにはいるでしょ? 優秀で便利な護衛が」

「……お前まさか、俺の護衛を使ってトラップを作動させるつもりか?」


 なんて奴、なんて悪魔みたいな女だ。


 そりゃ護衛には命がないし、効率を考えれば作動させてしまった方が良いのかもしれないが……流石に非人道的である、まぁ人ではないが。


「問題ございません、トラップがあっても」

「おおクロエ! もしかして解除が出来るのか!?」


「出来ません。しかし精霊を召喚し、特攻させる事でトラップを作動させます」

「……お前もかよ。お前も非人道……非精霊道的だぞ」


 なんなのウチの女どもは、思考が物騒すぎる。トラップに特攻させて全作動とか、ゲームじゃねぇんだぞ。


 だがしかし、それしか方法がないのも事実。願わくば、罠解除が行えるシーフのような護衛が召喚されますよう。



「お、おい、本当に行くのか? このダンジョンに三人って……かなり深いダンジョンだぞ?」

「ありがとうございます。まぁ、行けるだけ行ってみます」


 心配してくれる男に礼を言い、俺達はダンジョンに入った。


 やはりダンジョンは大勢で挑むのが当たり前のようだ。かなり深いと言っていたし、初級ダンジョンのように短時間攻略は無理かもしれない。


 ダンジョンに入ってすぐ、例の浮遊感を感じた。


 先に入った奴らの姿や気配も感じないし、遊戯神の言った通り異次元に飛ばされたようだ。



「ヨルヤ、護衛」

「へいへい」


 現在のGPはマックスの150。昨日クロエの召喚維持を行ってから寝た事で、GPは全快している。


 つまり護衛はマックスで10体召喚可能。俺はとりあえず、5体の護衛を召喚した。


「すまねぇお前ら……俺達を助けてくれ」


 召喚された者達を見た感じ、二人ほど罠解除できるんじゃね? といった風貌の者がいる。


 解除できるなら特効させる必要はない。俺は護衛達に、罠解除の可否を問うた。


「トラップ解除ができる者がいたら、手を上げてくれ」

「「「「「――――」」」」」


「いないようね。じゃあアンタ達、先に進んで、列になってね」

「スイッチなどがあった場合は、積極的に押していって下さい」


「お前達、いくらなんでも酷すぎるだろ……」


 そもそも護衛は彼女達の指示には従わない。つまり俺が、あのように非道な命令を下さなきゃならないのだ。


 心の中で何度も彼ら彼女らに謝罪し、俺は護衛に命令を出した。


 ……あれ? そういえばダンジョン攻略のアナウンスが出ないが……なんでだ?

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