【3-6】相性の悪い二人






「まさかヨルヤ、あたし以外の護衛を雇ったの?」


 いつも通りキツめの目で俺を睨むヴェラだったが、どことなく悲しみを感じるというか、目力がいつもに比べて弱い気がする。


 なにかイライラしていたようだし、依頼後で疲れているのだろうか……っと。



【A・俺の護衛はヴェラだけだ】

【B・誰を雇おうが俺の勝手だ】

【C・この子の名前はクロエだ】



 ふふ、こんな簡単な恋愛選択肢を間違う奴はいない。フラグを折りたい奴か、他のヒロインに集中したい奴らは知らんが。


 俺はゲームらしくハーレムを目指す。上手くいくか分からないが、男に生まれた以上は誰もが一度は夢見る事だろう。


 まぁハーレムは無理だとしても、基本的には好感度アップを行っていきたい。



「――――俺の護衛はヴェラだけだ」

「そ、そう……なら、いいけど」


 おぉ、レア仕草ゲット。ヴェラが恥ずかしそうに視線を逸らしながら髪を弄る仕草は初めて見た。


 結果はもちろんハートエフェクトの好感度アップ。最初は選択が難しいヒロインなのかと思ったが、初期好感度が低いだけで後は普通なのか。


「だったらその人はなに? 喋ったって事は護衛召喚で呼んだ奴じゃないのよね?」

「あぁ、この子は――――」


 ヴェラにクロエの事を説明した。


 ユニークギフトである守護者召喚から呼び出した者であるということ、意思の疎通が可能であると言う事などを。



「ユニークギフトって……本当なの?」

「本当だよ。護衛召喚のレベルをマックスにしたら出てきた」


「出てきたってなによ……ユニークギフトを授かるなんて、凄い事なのよ?」


 呆れるようにそう言うヴェラだが、そんなに凄い事だったのか。


 まぁユニークが凄いというより、オリジナルギフトのゲーム化が凄いという事なんだろうな。


 そんな凄いギフトから生み出されたクロエを見せようと、ヴェラに挨拶をするようにとクロエに伝えた。



「初めまして、クロエ・ゴノウエと申します」

「ゴノウエ……? まぁいいわ、あたしはヴェラ・ルーシー。クロエって呼んでいいわよね?」


「お断りいたします」

「……なによ、さんを付けろとでも言いたいの?」


「いいえ、ヨルヤ以外に呼んでほしくないだけです」

「あっそ……じゃあクロエ、これからも宜しく」


「「…………」」


 再び二人の間の空気がピキッと凍り付く。不敵な笑みを浮かべるヴェラと、相手を射抜くように目を細めるクロエ。


 クロエが威圧してもタゴナのようにヴェラは引かないため、場の温度はどんどん下がっていった。


「あたしはヨルヤの護衛よ? つまりこれからアナタは、あたしの指示に従う事になるのよ?」

「クロエはヨルヤの指示にしか従いません」


「アンタね……ヨルヤは御者で、これから沢山の客を馬車に乗せてお金を稼ぐの。大勢の人を護衛するって事になったら、指示役が必要なのよ」

「クロエはヨルヤの守護者です。ヨルヤを守護する事だけがクロエの存在意義であり、他者の事など知りません」


 これはクロエを一途設定にしたからではなく、守護者という存在がそういう設定になっているのだろう。


 ここは護衛と同じだな。命令すれば動いてくれるだろうが、自分から動いて他者を護るなんて事はしなさそうだ。


 例えば目の前で誰かが殺されそうになったとしても、護衛もクロエも助けたりはしないのだろう。



「あっそ、ならいいわ。ヨルヤに頼めばいいし」

「ヨルヤの手を煩わせないで頂けますか?」


「ヨルヤの命令には従うんでしょ? あたしの命令に従うようにって、ヨルヤに命令してもらえばいいだけよね」

「……ヨルヤ。この女、排除してもよろしいでしょうか?」


「い、いや……それはダメだな」


 クロエが目つきを変え、俺にお伺いを立ててきた。ヴェラにしていた殺気の籠った目つきではなかったが、まだまだ異様な雰囲気が漂っている。


 痴女エルフはどこに行ったんだと言う程、他者と接しているクロエは言動が変わる。ここは恐らく、一途設定が生きているのだろう。


 そういう意味の一途じゃなかったんだが。俺だけに痴女の姿を見せてくれるとか、喜んでいのだろうか?


「あたしを排除するですって? 出来るならやってみなさいよ、人形エルフが!」

「造作もありません。男に媚びる事しか出来ない阿婆擦れ冒険者が、ヨルヤに近づかないで下さい」


「ア、アバズレですってぇ!? あたしはそんなに軽い女じゃないわよっ!」

「クロエはヨルヤに創られたのです。人形などと一緒にしないで下さい」


 流石にマズそうだったので、二人の間に割って入った。


 命令を出せばクロエはすぐに聞いてくれたが、ヴェラの怒気を鎮めるのに苦労したのは言うまでもない。




 ――――




「それで? なにをそんなにイライラしてたんだよ?」

「別に……依頼してきた奴がクズだっただけよ」


 ヴェラの怒気は飯を奢る事で収まりを見せた。俺達は冒険ギルド併設の酒場で向かい合って座り、話をする。


 酒は流石にギルドでは飲めないらしい。ギルドはヴェラが未成年だと知っている、そこはしっかりしているようで良かった。


 しかしクロエには驚いた。もっとぶっきら棒というか、命令したこと以外は話さないんじゃないかと思っていたからな。


「ヨルヤはなんで? 冒険ギルドに来たって事は、馬車の目途が立ったのかしら?」

「いや、その馬車を手に入れるために、これを売りにな」


 バドス商会の騒動後、馬車を手に入れるまでヴェラは冒険者として再び依頼をこなしていた。


 俺との専属契約は口約束。俺がダメだった時の事も考えて、俺自らヴェラに提案した事だ。


 まぁ本音を言えば、ヨルヤを信じている……なんて事を言ってくれるのを期待したのだが、保険をかけるのは当たり前だろとヴェラは言って、冒険家業を再開したっけな。


 俺はカバンからダンジョン踏破のメダルを出して、ヴェラに見せてみた。



「この刻印、初心者の洞窟の踏破メダルよね?」

「そうそう、この前いってきたんだよ」


「……これ、そんな高値で売れるの? 初級ダンジョンのメダルよ?」

「いやまぁ、十万で買うって奴はいたんだけどな……」


 それを聞いたヴェラは考え込む仕草を見せた。


 守銭奴のヴェラが、踏破メダルが売れる事を知らなかったのは意外だったが、ヴェラはダンジョン専門外だからな。


「初級で十万以上って事は……中級以上ならもっと高いのよね?」

「まぁ普通に考えたらそうなんじゃないか?」


「……ねぇヨルヤぁ? 覚えているかしら、あたしとの約束」

「なんだその作った笑顔……可愛いけど怖いぞ」


 なんと言えばいいのか……食われそうな笑顔だ。なにか厄介事に巻き込まれそうな、嫌な予感がする。


 その予感は的中したのかしていないのか。どちらにしろ、ヴェラからの提案は身に覚えのある事だった。



「あたしのダンジョン攻略、手伝ってくれるって言ったわよね?」

「あ、あぁ……そうだった、か……?」



『クエストを開始します』


【サブクエスト――――約束は守りなさいっ!】

【クリアー条件――――ヴェラ・ルーシーとダンジョンを踏破をする】

【クリアー時間――――10日以内】

【クリアー報酬――――50HEp、10好感度ポイント】



 ポイントは魅力的ではあるが、ヴェラが言っているのは中級以上のダンジョン攻略であろう。


 初級のようにはいかないのだろうな。色々と物資が必要だし、場合によっては野営も必要となる。


 確かダンジョン攻略に掛かる費用や物資は、俺が持つという約束だったよな? ただでさえ金が必要なのに、ここでの出費は痛いぞ。


 バドスから受け取ったのは一か月分の給料だけ。彼女達はもっと渡そうとしてきたが、今後のバドスの事を考えて断ったのだ。


 カッコつけずにもっと貰えばよかったと、今更ながら後悔し始めた。


「中級以上のダンジョンを踏破すれば、あたしは金等級に上がれるわ! 楽しみねっ!」

「……そうだな」


 今度はマジもんの笑顔じゃないか。そんな歳相応の笑顔を見せられたら断れん。


 クエスト化されたからだろうか、いつ行く? なんて事は聞かれず、準備が出来たら声を掛けてとヴェラに言われた。


 10日以内とあったから、10日過ぎたら痺れを切らしたヴェラがキレてクエスト失敗……とかなんだろうなぁ。


 これでヒロインからのクエストは2つ、どちらも期限は10日前後。


 全部クリアーしてハーレムに……なんてのはやっぱり難しそうだな。

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