【3-5】一途な痴女は結構怖い
「いや、買わねぇよ」
ダンジョン踏破のメダルを持って、冒険ギルドにやって来ていた俺は、青銅級冒険者パーティーのタゴナ達に商談を持ちかけていた。
ダンジョン踏破のメダルに一番拘っているのは冒険者。需要があるのではないかと受付に提示したら、買取はしていないと言われたので直接冒険者に売り込んでいたのだが。
「でもお前ら、ミベールの洞穴は踏破してないんだろ? いらないのか?」
「ミベールの洞穴……? あそこのダンジョンって名前があったのか? みんな初心者の洞窟って呼んでるぜ」
「いやそれはどうでもいいんだけどさ、本当に買わないのか?」
「買わねぇよ、自分達で踏破しなくちゃ意味がねぇんだ! 確かにメダルを買い取って、それで等級を上げている奴らはいるけどよ……」
どうやらタゴナ達は立派な冒険者だったようだ。金で名誉は買わないと、自分達の力で掴み取ってやると声高らかに宣言した。
済まない事をした。少し彼らを見くびっていたようだ。
「……いや、やっぱり買おうかな? お前らどう思う?」
「ふむ。初級ダンジョン踏破の証があれば、依頼も受けやすくなる」
「買うべきです! プライドじゃ飯は食えません!」
「ったくウチの男どもときたら……まぁ、値段によるわね」
すまないなんて事はなかった。彼らは見くびるに値する冒険者だったようだ。
まぁ素直なのには好感が持てる。値段次第では彼らに譲ってもいいだろう。
「それで、いくら出せるんだ? 初級ダンジョンだし、安くするぞ」
「えっと……じゅ、十万……?」
……まぁ想像より安いが、いいだろう。
ダンジョンはまだあるし、バドス商会の騒動の時ツァリには世話になったしな。
「ちょっとタゴナ! ウチにそんなお金ないわよ? 見え張らないの、頭擦りつけて頼むのよ!」
「ヨ、ヨルヤさん! 三千ゴルドで売って下さいッ!」
「三千……? こちとら命をかけてダンジョンに潜ったんだぞ?」
土下座してみせたタゴナだが、流石に三千はない。それなら他の当て、なんでも買い取ってくれる商業ギルドに持ち込むだけだ。
まぁ命をかけるどころか、クロエと猥談をしているうちに踏破してしまったダンジョンではあるが。
「じゃ、じゃあ出世払いでどうだ!?」
「お前ら、出世する見込みがあるのか?」
「「「「…………」」」」
そこで揃いも揃って黙るなよ。
バランスは取れているパーティーだし、あと一歩の所までダンジョン攻略が出来たのなら頑張れば行けるだろう。
「それより、後一歩って事はボスが倒せなかったのか?」
「まぁ、そうだな……」
「結果的にはそうだったが、ダンジョンに辿り着くまでに色々と消耗してしまったのが原因だ」
「僕、ダンジョンに到着した時には魔力が半分しか残ってませんでしたよ……」
「まぁこればっかりはね。他のパーティーも同じような感じだろうし。それにアタシ達、野営をするほどの余裕がないからねぇ」
王都を出て、ミベールの森を進み、森の奥にあるダンジョンに着くまでの消耗。
その消耗を回復させるための物資、時間を考えれば野営を行う必要もある。
彼らの目的はダンジョン攻略、踏破。基本的にリソースはダンジョン攻略に使いたく、他の事には割きたくないのである。
「そういえばヨルヤ、護衛馬車だったか? もう運行してんのか?」
「いや、まだ。馬車がねぇんだよ」
「もうそれ予約するわ、早く運行してよ」
「分かってるよ。でもそんなに安くするつもりはないぞ? あくまで万全の状態を保たせるために護衛するって馬車だからな?」
万全の体調を整え、物資を消耗させる事なく、全てのリソースをダンジョン攻略に割り当てられるようにする。
それが護衛馬車のメインである。自分達でダンジョンに向かうより早いし安く付くから~、というのは副産物だ。
初めはその護衛馬車で稼ぐつもりだ。まぁその前に、成長馬車の購入代金を稼がなきゃならないのだが。
「おいそれよりもさぁ! 後ろにいるエルフの子、この前のエルフちゃんのお姉さんか?」
「ん? あぁまぁ、そんな所だな」
「やっぱりな! 前の子より胸が大きいからよ! なぁ紹介してくれよ~」
女たらしタゴナは、会話中もチラチラとクロエに視線を送っていた。
俺もクロエの様子を時折確認していたのだが、護衛とは違って完全無視をしているという感じではなかった。
言葉を発したりタゴナと目を合わせている様子はなかったが、ダゴナの事を値踏みするようにジロジロみていたのは意外だった。
いやしかし大人しいな。会話に混ざって来る事もなかったし、下ネタを言う事もなかった。
あの言動は俺の前だけの事か? 喜んでいいのか分からないが、周りに歩く変態痴女と思われないですむ。
「なぁエルフさん、名前を教えてくれないか?」
「……危険度2……雑魚です……」
「ん? なになに? なんか言った?」
「…………」
隣にいる俺にはハッキリ聞こえたぞ、雑魚って。なんかジロジロ見ているなと思ったら、相手の力量を量っていたようだ。
そんなクロエはタゴナに話しかけられても言葉を返さなかった。鬱陶しそうに目を細め、クールな雰囲気を醸し出した事には驚いたが。
護衛は話しかけられても無表情で無反応だった。けどクロエはタゴナの言動にちゃんと反応をしたのだ。
それには感動を覚えた。俺の作った者が社会に出て、他者の言動に反応したのだから。
こいつうっぜぇぇ……みたいな顔をしているが。
「(ヨルヤ)」
「(うぉっ!? 誰だ!? なんだ!?)」
「(クロエです)」
「(ク、クロエ? お前、念話できるのか?)」
「(はい。遠く離れていない限り、クロエとヨルヤは繋がります。ちなみに上だけでなく下の方でも繋がりた――――)」
「(――――うん、いいから。それでどうした?)」
護衛や従馬にも念を飛ばして指示を出す事は出来たが、話す事が出来るというのは凄いな。
そんな念話には驚いたが、脳内でもお構いなしに下ネタとは流石である。
「(この者はヨルヤのご友人ですか?)」
「(まぁ、そんな感じだな)」
「(そうですか。では排除してはいけませんか?)」
「(いけませんね。というかそんなに嫌だったのか?)」
「(ヨルヤ以外からあのような視線は向けられたくありません)」
これは恐らく、俺が設定した"一途"という影響のせいだろうか?
自分がハーレムになるのはいいけど、ハーレムの一員にされるのは嫌だという身勝手さから設定したのだが。
現実ではこうはいかないからな。自分で召喚した護衛や守護者くらい、俺に一途でいて欲しいし。
「(基本的にヨルヤ以外と会話はしたくありませんが、ヨルヤのご命令に従います)」
「(まぁ、軽い会話くらいしてやりなよ)」
「(畏まりました)」
そう念話を切り上げると、クロエはタゴナに顔を向けた。
鋭い目付きのままタゴナを見るクロエ。しかし誰が見ても分かる、その目からは殺気が迸っていた。
「クロエと申します」
「あっ……とタゴナです。その……今度ご飯でも行きませんか?」
流石女たらしタゴナである。あんな殺気を向けられているというのに、ナンパするとは。
「行きません」
「そんな……もう彼氏とかいるんですか?」
「クロエは身も心もヨルヤの物です」
「くっ……ならせめて、妹さんを紹介してくれ!」
「あの子の身も心もヨルヤの物です」
「バカなッ! なんでコイツがそんなにモテるっ――――」
「――――言っておきますが、ヨルヤに悪意を向けるのであれば、即座に排除いたします」
その瞬間、ピシッと空気が凍りついた。
クロエから放たれる殺気がいよいよ凶悪なものとなり、異様な雰囲気が辺りを包み込んだ。
殺気を一身に受けたタゴナの顔は引きつり、数歩後ずさった所で腰を抜かしてしまう。
そんなタゴナの姿と雰囲気を感じ取ったのか、注目が集まり始める。
こりゃマズいと思った俺はタゴナに適当な挨拶をいれ、その場を離れた。
「お前、結構怖いのな」
「守護者ですので。ヨルヤに悪意や害意を向ける者を排除するのは当然です」
「まぁ、有り難いけど……基本的には俺の命令が入るまでステイな」
「畏まりました」
確かにタゴナには軽く睨まれたが、嫉妬しただけで悪意というほどの事ではないだろう。
そこら辺は学習してくれるのだろうか? ともあれ暫くは、下手に動かないように命令しておくしかないな。
そんな事を思いながら冒険ギルドを後にしようと入り口に向かう。
するとその途中、不機嫌かつ悪意しかなさそうな表情をした者と出会ってしまう。
「ったく、ほんと最悪……ってヨルヤ? ここで何を……誰よその女」
「よ、よぉヴェラ」
それは不機嫌ヒロイン、ヴェラ・ルーシーだった。
俺の顔を見た瞬間は僅かに頬を緩めてくれたように見えたが、後ろにいたクロエの事を見て再び不機嫌となった。
ヴェラの目つきが険しくなる。それに呼応するかのように、クロエの目も鋭くなった。
あまりよろしくない雰囲気なのは間違いない。
「ねぇヨルヤ、何よその女。いつもの護衛の雰囲気じゃないわよね」
「ヨルヤ、この女は誰ですか? 気に入らない目つきをしていますが」
「あぁいや、そのね……」
なにこの修羅場の雰囲気。俺、何もしてないよな?
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お読み頂き、ありがとうございます
小説家になろう様の方に、ヴェラ・ルーシーのイメージイラストがあります
宜しくお願い致します
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