【3-4】痴女エルフとダンジョン攻略
「う~む、マジかよ……宝箱じゃん」
ダンジョンに潜り、魔物を倒しながら進んだ先の小部屋で、なんともゲームチックな宝箱を発見した。
これはゲーム化の影響だろうか? ダンジョンに潜ってすぐの宝箱が開いていないなんてあり得ないだろ……と思った所で思い出した。
冒険者のタゴナが言っていた、宝箱は時間が経てば復活すると。となればこの宝箱は俺のゲーム化ギフトの影響ではないという事だ。
「遊んでんなぁ遊戯神」
【そりゃ遊びの神様ですから】
「うぉっ!? いきなり出てくんなよな……」
【各地のダンジョンは僕の管轄だからね! 宝箱に中身は初回は少し豪華に、二回目以降は粗品程度に設定してあるよ!】
宝箱の復活を狙った稼ぎが出来ないように設定しているらしい。
一度目に開けた時にはスライム素材が出てくるが、二回目以降は回復材(N)しか出てこなくなるとか、そういう事だろう。
しかしそれなら、他のパーティーとバッティングした時に揉めそうだな……と思ったが、そこも対策済みらしい。
なんと遊戯神が作ったダンジョン。パーティー毎に異次元に飛ばされ、他のパーティーとはバッティングしないようになっているとの事。
造りや出てくる魔物などは同じだが、宝箱の開閉回数は入場者によって管理されていると。
ダンジョンに入った時に感じた浮遊感は、そういう事だったのか。
「無駄にすげぇ技術だな……」
【みんなに楽しんでほしくてね。基本的に宝箱の中身もランダムなのさ!】
「でも一つ思ったんだけどさ? パーティー毎に飛ばされるなら、ダンジョン内で身動きが取れなくなった奴らの救出ができないだろ?」
【うん、出来ないよ。ダンジョンでのピンチはまさしく命のピンチだね】
「それって、ヤバくないか?」
【ダンジョンだからね、そのくらいの覚悟は持って来てもらわないと!】
まぁ一応、ダンジョン脱出の魔法やアイテムは存在しているらしい。それらを所持してダンジョンに潜るのは当たり前なのかもしれない。
という事は、あの入場の管理表は遭難者の把握のためではなく、いつまで経っても戻らない者を把握するための死の記録という事か。
「そうならないように注意しないとなっと、宝箱の中身は……ローポーション?」
初回なのにローポーションかよ。まぁ最初の宝箱なんて、薬草もといローポーションなのは世の常なのか。
しかもこのローポーション、インベントリに収納できない。街の店で売る事が出来るというメリットはあるが。
一応小さな鞄は持って来ているけど、金とか身分証を入れるだけで精一杯の大きさだ。宝箱の中身によってはスルーも必要かもしれない。
強引にポーションを鞄に捻じ込み、ダンジョンを進む。これ以降の宝は全て護衛に持ってもらう事にしよう。
「いやしかし、暇だな……」
ダンジョン内はまさに洞窟、鉱山といった感じだったが、なぜか灯りが灯されているので暗くない。
魔物が現れてもクロエが一蹴し、護衛がアイテム回収を行う。俺はそれをボーっと見ているだけである。
「なぁクロエ。俺もさ、少し戦闘してみようかなって」
「ご命令とあらば」
「いや命令じゃないよ。お伺いというか……」
「でしたらなりません。ヨルヤの命の守護はクロエの最優先事項です。ほんの僅かでも、命の危険がある行為には賛同いたしかねます」
え、なにこの子。いきなりめっちゃ守護者なんだけど。
もうずっとそれでいてくれよ、それが俺の望んだ姿なのだ。そのキリっとした美しい顔でアナタを守りますとか、もう最高じゃないか。
「命を作り出す行為には大いに賛同いたします。ここで行いましょうか?」
「もう台無しじゃないか……」
なんでキリっとした美しい顔でお前はそんな事を言うのだ。どうしてお前は下ネタを言わないと気が済まないのだ。
まぁ命令すれば言わなくなるのだろうが、それだとクロエのアイデンティティがなくなるどころか、喋らなくなる可能性すらある。
というかこんな18禁設定の守護者を生み出せるとか、対象年齢のレーティングはどこにいったんだよ?
「なぁ、俺が本気で襲ったらどうするんだよ?」
「クロエは受け入れますが、恐らく神の介入でクロエは掻き消される事でしょう」
「お前に消えられると困るんだけど……」
「ギリギリを攻めてみましょう。安全な日と危険な日の境目を楽しむように」
「いや意味わかんねぇよ……」
そもそも本当の意味で安全な日などない……まぁいいかこの話は。俺まで引っ張られるといよいよ審査に引っ掛かってしまう。
運営からの警告がないという事は、この程度の言動なら許容範囲という事なのだろう。生々しい言い方や、それこそ接触する事はアウトだと。
「――――」
「あ、すみません。いま進みます……」
そんな訳ないのだが、なぜか大剣の護衛から責められているような視線を感じた。
その後俺達は宝箱を回収しつつ、どんどん奥へと進んで行く。
魔物の数は外とは比較にならないほどに大量だったが、ものともしないクロエと大剣護衛。
「ヨルヤ、宝箱です」
「はいよ……ってまたローポーションかよ……」
「ローションなら色々と捗ったのに残念ですね」
「あ~そうですね~」
下らない会話をする余裕すらあるダンジョン攻略は、順調に進んでいく。
一切の休憩を行う事なく、俺達は最奥へと辿り着いた。
「あれ、このダンジョンのボスか? ブタの化け物みたいで結構つよそ――――」
「――――
「うだなって、おい」
『ダンジョンクリアーを確認しました』
【ダンジョン名――――ミベールの洞穴】
【クリアー報酬――――レベルアップポイント、30GIp、5名声ポイント】
もはやどんな魔物だったのかも分からないほど、バラバラになってしまったボスは靄となって消えていった。
ダンジョン内の魔物は倒すとああやって消えるんだよ……って、そうじゃなくてさ。
いくら初陣補正が働いているのだとしても、もう少しあるだろうよ。
「もうちょっとさぁ、一応ボスバトルなんだからさぁ……」
「視線だけで孕ませられそうだったので即殺しました。クロエは孕ませられるならヨルヤがいいです」
「喜んでいいんだか悲しんでいいんだか……」
「敵意の気配が完全になくなりました。ここはもう安全ですが……ここでクロエを抱きますか?」
「抱きません。帰るぞ」
ここまで吹っ切れてると欲も何も催さねぇわ。普通はこんな美人に抱きますかと聞かれたら即答でYESなんだが。
例えばこれがヴェラやエカテリーナだったら……まぁ、うん。アイツらは別の意味で後が怖いから無理か。
「待って下さいヨルヤ。ブタがなにか落としたようです」
「なにかって……ん? なんか光ってるな、金貨か?」
「豚が落とした金……キン〇マでしょうか」
「こらっ! お前それはダメだわ、それは下品。二度と言うなよ? これは命令だ」
「ご、ごめんなさい……」
おぉ、いいね、そのシュン……とした感じは好き。もしかして強めに怒れば性格を矯正できたりするだろうか?
仮の仮に性格:変態痴女だったとしよう。性格は環境や周囲の人間の影響で変わるものだ。こいつも例外ではないのかもしれない。
命令しての性格変更はなんか違う。ゆっくりでいい、矯正していこう。クーデレエルフを目指すのだ。
「怒られてしまいました……ふふ、しかし悪くありません。その証拠にクロエ、濡れちゃいま――――」
「――――分かった、無理なんだな、矯正は諦める、もう黙れ」
痴女を放置して豚が落としたっぽい物を拾い上げると、見た事もない金色のメダルだった。
金貨より小さいが、金貨より造りが細やかで技術の高さが見受けられる。どう見ても金貨より価値がありそうなのだが。
「小さなメダル……なるほど、遊戯神か」
【ピンポンピンポーン! それはダンジョン踏破の証だよ。それを集めて王様に持って行けば、貴重な物と交換してもらえる……なんて事はないけど】
「なんて事はないんかい!」
【まぁどこかに収集している人はいるかもね?】
冒険者なんかは、力の誇示のためにネックレスにして首から下げていたりするらしい。
見た目は小さな金貨といった感じだが、恐らく複製などは難しいのだろう。もっとも高価な通貨である金貨に比べて、造りが精巧すぎるからな。
「ヨルヤ。もしかしてそれは高値で売れるのではないでしょうか?」
「なるほど、確かに……」
【それを捨てるなんてとんでもない!】
「捨てるなんて言ってねぇよ、売るんだよ」
俺には正直必要のないものだ。これを集めている王様なんている訳ないし、俺が持っていても意味のないものなら売り払うのが最善だろう。
もしこれが高値で売れるようなら、成長馬車の購入に必要な資金集めが楽になるかもしれない。
「でかしたぞクロエ、よくやった」
「はぅ……」
頭を撫でてやると、頬を真っ赤に染めてしおらしくなったクロエ。
流石にその破壊力は高い。俺が望んだクーデレの姿がそこにはあった。
「ヨルヤ、どうしましょう……」
「うん? あ、ちょっと待て、なんか嫌な予感が……」
「クロエ、孕んだかもしれません……」
「……うん、孕んでないから、大丈夫、安心して」
はぁ、なんで言っちゃうのかな?
普通、顔を赤くしながらお腹を擦る仕草は美しい母親を連想させるが、今までの言動のせいかいやらしい痴女にしか見えん。
「……帰るぞ。これが売れるか確認しに行く」
「畏まりました」
「外に出たら従馬を召喚して……あ」
「騎乗するのですね? クロエ得意だと思います、騎乗ぃ――――」
「はいストップ! もう迂闊に喋れねぇじゃん! 勘弁してくれよ!?」
……大丈夫だよな? 運営から連絡きたりしないよね?
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