【1ー16】見た目変更はソシャゲの基本
昨日、冒険ギルドの後に傭兵ギルドにも行ってみたのだが、傭兵ギルドは中々に凄い所だった。
筋骨隆々の男、男勝りな女が大声で笑い合いながら酒を飲む。そんな光景がギルドのそこら中に広がっていたのだ。
最初、ヴァイキングの集会か何かかと思った。冒険ギルドとは随分と雰囲気の違う傭兵ギルド、俺は酒臭い男達をかき分けて受付へと進んだのだが。
「まさか受付までもがムキムキだとはな」
ギルドといえば美人の受付嬢と相場が決まっているのではないのか? 実際に冒険ギルドの女性受付はみんな美人だったし。
まぁそれはいいのだ。話してみると凄く気さくな受付で、胸筋をピクピクさせながらも真剣に話を聞いてくれたし。
周りのヴァイキング達も新顔が珍しかったのか盛り上がってしまい、結局は俺も酒盛りに参加させられたが。
「めちゃくちゃ楽しかった……」
お陰様で二日酔いだ。まぁ本当に楽しかったし、傭兵はみんな陽気でいい奴ばかりだったし、聞きたい事は聞けたしで文句はない。
聞きたい事とはもちろん馬車護衛の話。
簡単に言えば、馬車護衛に関しては傭兵を雇った方が安全だし割安だという事が分かった。
魔物に対する知識も高いので冒険者より安全に護衛できるし、不測の事態に対応する能力も冒険者より優れているとか。
まぁ話を聞いていた感じ、傭兵はあまり冒険者の事をよく思っていないことが分かった。やたらと冒険者より優れている事をアピールしてきたし。
でも言っては何だがヴェラには傭兵にはない華がある。無骨な傭兵に比べるとヴェラは本当に華であるのだ。
集客にも期待できるし、個人的にはヴェラにお願いしたい所なのだが……客の安全性や料金の事を含めて考えると簡単には決めかねる。
「……まぁそれよりも、凄い発見をしてしまったんだがな」
頭が痛い事に加えて、先日と同じく同室の学生たちが部屋を出るまでインベントリを使用してショップ内のアイテムを物色していた時のこと。
ショップ内で変な物が売っているのを発見したのだ。
【護衛専用着せ替え衣装(水着)————護衛召喚によって呼び出した護衛の見た目を変更できるコスチュームアイテム】
これを見つけた時は一瞬意味が分からなかった。数秒考え、ある事に気づいた俺はインベントリ内のギフト一覧を表示させた。
そして見つけたのだ。御者のスキルギフト内にそれはあった。
【護衛召喚――――10GFp】
【護衛召喚――――スキルギフト。召喚者の命令を聞く護衛を召喚できる:消費GP15】
護衛を召喚できるスキルギフト、説明にはそう記載されていた。
果たしてどれほど使える護衛を召喚できるのか分からないが、ギフトポイントも結構あるしこれは取得するしかないだろう。
俺はすぐさま護衛召喚を取得するように念じた。
GFp――――55
【スキルギフト】
【護衛召喚Lv1】
随分と簡単に新しいギフトが取得できてしまった。二十歳を超えると取得が難しいとかが常識らしいが、簡単すぎるほど簡単だったんだが。
それよりこのギフトは俺の生命線になるかもしれない。戦闘系のギフトも取得はできるのだろうが、今の所は取得するつもりはないし。
【護衛召喚Lv1】→【護衛召喚Lv2】――――15GFp
【護衛召喚Lv2】→【護衛召喚Lv3】――――20GFp
GFp――――20
勢いそのままにLv3まで上げてしまった。Lv4にするには25ポイント必要なようなので一先ずはここまでだ。
もしこの護衛が問題なく使えるようなら、護衛を雇う必要はなくなるかもしれない。ヴェラには申し訳ないが、俺は金欠なのだ。
護衛召喚を取得した俺は嬉々として先日ゴブリンと戦闘した場所へと移動した。
――――
そして先日の森までやって来た。
ちなみに移動時間の間にカスタマーサポートに護衛召喚の事を色々と質問をした。
まず制限時間だが、一日経ったら消えるそうだ。あとは護衛のHPがなくなったり、召喚者の意思で送還する事で終了となるらしい。
護衛のステータスは基本的に召喚者に近いものになるっぽいので、いま召喚すると脳筋が召喚される可能性が高い。
護衛は喋れないらしいが命令には従うらしい。上位の護衛ギフトだと言葉を発するらしいが、詳細は教えてくれなかった。
まぁしかしかなり有能なギフトのようだ。
命令には従うし、召喚者に脅威が迫れば自動的に行動するという話なので、一人召喚していれば身の危険を心配する必要がない。
ちなみに、いちいち詳細を聞くのが面倒だとサポートに伝えた所、後日システムアップデートでヘルプを追加すると言っていた。
「じゃあ、召喚してみるか」
頭の中で護衛召喚のギフトを思い浮かべ、使用するように念じる。
するとすぐに反応が現れた。地面から黒い靄のようなものが立ち上ったかと思うと、徐々に靄は人の形となっていった。
僅か数秒で人型となり、黒い靄に色が付き始めた。そしてどこからどう見ても人間、といった風貌となる。
一言で言うと……そうだな、山賊だ。不愛想で無精ひげを生やした大男が、無骨な斧を持って静かに佇んでいた。
「えっと……ど、どうも」
「――――」
無口……じゃなくて喋れないんだったか。風貌が昨日の傭兵たちに似通っているので、喋らないと言うのは違和感があるが仕方がないか。
残りのGPは35。つまり俺はあと二人召喚する事ができるという事だな?
GPは宿なんかで休むと全快する、そんなどこかで聞いたようなシステムらしいので、今の俺は一日に三回護衛を召喚するか三人同時に呼べると。
「……もう一人呼んでみようかな」
どうにも二人きりだと居心地が悪い。まぁこの護衛は人間ではないのだろうが、ほんと無口なオッサンって感じだし。
今回は護衛召喚ギフトのチェックに来たのだと自分に言い聞かせ、俺はもう一人の護衛を召喚する事とした。
「……お? おっ……おおぉ!?」
次の護衛も不愛想なオッサンが出てくると思ったのだが、現れたのはどう見ても若い女性だった。
修道服のようなものを着ているので僧侶だ、ヒーラーだ! ちょっと無表情だけど、逆にそれがなんかいい。
と思ったのだが、右手には女性が持つとは思えないほど大きく禍々しい人の命を刈り取る形をしたメイスが握られていた。
「……脳筋僧侶かよ。こりゃヒーラーじゃねぇな」
そしてこちらの女性も無口。話しかけても頭をポンポンしても反応なし。というか無意識でやってしまったけど、触れられるのかよ?
なんか一気に18禁臭が……だってこの脳筋僧侶、かなりスタイルが良いぞ。黒い靄が胸を膨らませた時、思わず叫んじまったもん。
「ふむ。なんて素晴らしいギフトなんだ。遊郭いらずとは……ん?」
【警告:外見は人間にそっくりですが人間ではありません。服の下は黒い靄のままです。中身は暗黒です、漆黒です、深淵です、残念です】
【警告:このゲームは全年齢対象です。邪な気持ちで行動しないようお願いします。お子様が見ております】
「くっ、遊戯神めぇ……!」
見透かされていたというのか、ご丁寧に警告を表示してくれた。
だがしかし甘い。さっき頭をポンポンした時に感じた髪の感触、あれは本物だった。つまり服の上から触る分にはいかに中身が靄でも感触は本物と。
「脱がせなきゃいいんだろ――――」
【警告:現在、護衛召喚の見た目はランダム生成となっておりますが、あまりに酷いようであれば見た目をガチムチ大男に固定いたします】
「おいやめろっ! マジでやめろ! 分かったから! 頭ポンポンくらいで我慢するから! 全年齢対象で行くから!」
なんとか運営様に思い止まって頂き、護衛召喚の見た目はランダムで維持される事となった。
というか、ショップに水着コスチュームとか売ってたんだけど、あれはいいのかよ? この女僧侶に水着コスさせたらそれこそ18禁なんだが。
だってソシャゲの水着コスチュームって結構際どいの多くね? ソシャゲと違ってこっちは絵じゃないんだぞ? 動くんだぞ? 揺れるんだぞ? 触れられるんだぞ?
「……買おうかな、水着コス」
なんて本気で悩んでいた時だった。急に召喚した二人の護衛が俺の傍に寄って来ると、何かから守るような動きをし始めた。
表情は変わらないが視線が森の奥へと向けられ、まるで戦闘態勢を整えるかのように各々武器を構えだす。
「え、なになに? どうしたん?」
嫌な予感がしたため、俺も護衛達の視線の先に目を向けてみた。
遠目ではっきりとは分からないが、目を凝らすと森の奥で何かが動いているのが見え、何かが向かって来ているような気配が感じられた。
護衛達の行動もあり、俺はこちらに向かってきているのが魔物なのだと判断する。
『バトルシステムを選択してください』
【ターン制コマンドバトル――――選択可】
【リアルタイムアクションバトル――――選択可】
【タワーディフェンスバトル――――選択不可】
【カードバトル――――選択不可】
【放置バトル――――選択不可】
【補足:不意打ち、バトルシステムの選択に時間が掛かった場合など、状況によってはリアルタイムアクションバトルとなる場合があります】
【注意:バトルシステム決定後は、バトルシステムを任意変更する事は出来ません】
魔物の襲撃だと判断したとたん、ゲーム化ギフトからアナウンスが表示された。どうやら俺が敵を認識しないとバトルゲーム化は行われないようだな。
色々なバトルシステムが表示されたが、現在選択できるのは二つだけのようだ。
というかカードバトルってなんだよ? 俺、カードなんか持ってないぞ。
「この前と同じゴブリンが2体に……な、なんだあれ? ヘドロのような……スライムか!?」
名前は良く聞くモンスターだが、このスライムには目や口なんて付いていない。本当に生きているヘドロと言った感じで気色が悪い。
ともあれこちらには優秀な護衛が二人もいる。ターン制コマンドバトルが選択可能とあるので敵もそれほど脅威ではなさそう。
『ターン制コマンドバトルで戦闘を開始します』
【魔物の群れが現れた!】
ターン制コマンドバトルを選択した俺は、どこか余裕な気持ちで戦闘を開始した。
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