【1ー15】ワケアリヒロイン






 馬車と馬の価格というのをある程度知った俺は、冒険ギルドと呼ばれる場所へ足を運んでいた。


 護衛というのをどこで雇えばいいのか分からないが、よくそんな事が描写される冒険者なのではないかと思って足を運んだんだが。


 その冒険者に、俺は早速いちゃもんをつけられていた。



「大体アンタが割り込むのがいけないんでしょ!?」

「割り込んでねぇよ! どこに行けばいいのか分からねぇから立ち止まってただけだ!」


 金髪のサイドテール、目は綺麗な蒼。身長も高めでスタイルも良い、はいはい確かに可愛いよ。


 ツインテールっ子ならツンデレの可能性もあるが、サイドテールだからかツンしかないんだな。


「あんな入口で立ち止まってんじゃないわよ! 冒険者でもないアンタが冒険ギルドに何の用よ!?」

「別にアンタには関係ないだろ! 大体、前を見てなかったアンタも悪いんじゃないのか!?」


 売り言葉に買い言葉と言うか、口からポンポンと強めの言葉が出てしまう。女性にこんな大声を出した事も、こんなキツイ口調で話した事も初めてだ。


 今までに会った事がないタイプだからだろうか? なんかこの子相手だと言えてしまった。



「おいアイツって、ヴェラ・ルーシーだろ?」

「ほんとだ、今日も相変わらず怒ってんのな」

「可愛いけど大の男嫌いなんだろ? あの男も可哀そうに」

「おい、声がでけぇって。あれでも銀二等級なんだからよ」


 どうやら有名人らしい。銀二等級と聞こえたが、凄いのだろうか? あと結構頻繁に怒る子っぽい。


 まぁこんな可愛くても冒険者なのだ。もし手が出ての喧嘩に発展したら、俺なんかが勝てるわけがない。


 ここは俺が引こうと思ったんだが、意外な事に向こうも怒気が治まったようだ。どうやら注目されるのは好きではないようだが、それなら大声出すなよと思う。



「……もういいわ、悪かったわよ。ちょっとむしゃくしゃしてたから」


 そう言ってばつが悪い顔をしたヴェラ・ルーシー。素直に謝られたのには驚いたが、こちらも喧嘩腰に言葉を発した事を謝罪する。


 男嫌いという事なので関りはここまでかと思ったが、意外にもヴェラはその場から去ろうとはしなかった。



「……ねぇあなた、それで冒険ギルドに何の用事があるの?」

「いや、護衛を――――」


「――――護衛を探してるの!? やっぱり商人なのね? ならあたしはどう?」


 食い気味に話し始めたヴェラ嬢。冒険者とはみんなこうなのかは分からないが、仕事の話だと思ったのか急にやる気が感じられた。


 なにかジロジロと視線を感じると思ったが、俺の恰好を見ていたようだ。高級服を着ていた俺を金持ちだと思ったのか。


 商人どころか無職だし、金持ちどころか全財産10万もないんだけどな。残念ながら俺は金づるではない。



「いや探しているというか、護衛の相場を知りたくて」

「相場? それは冒険者の等級や護衛時間によって結構変わってくるけど」


「まぁそこら辺をさ、聞きに来たというか」


 例えば半日ほど護衛をお願いした場合の値段、脅威から守ってくれる事が確約される護衛の質、そして専属契約が出来るのかなど。


 街中を走る路線馬車に護衛は必要ないのだろうが、俺がやろうとしている観光馬車には護衛が必須だ。


 それも中途半端な護衛などではダメだ。絶対に安全が確約されるほどの強さを持った護衛でなければ、俺の商売は成り立たない。


 観光馬車の説明は面倒なので省いたが、ヴェラに外で数時間ほど馬車を走らせた場合の護衛の値段などを聞いてみた。



「詳しい話はギルド職員に聞いた方が確実だけど、仮にあたしならそうね……30万ゴルドは欲しいわ」

「30万か……」


 驚くほど高い訳ではなかったが、それでも中々する。時給にすると数万という額だが、命を懸けて守ってくれる訳だから高いとは言えない。


 ヴェラによると行く場所や守る規模にもよるらしいが、この国の周辺を数時間回ったり隣町に行く程度なら銀等級が一人か二人いれば十分らしい。


 ちなみに銀等級は凄腕に分類されるっぽい。金等級ともなれば誰もが認める強者で、白金等級は英雄の領域との事。



「あたしは銀二等級だから一人でも大丈夫よ?」

「そうなのか――――」



【A・安くしてくれるなら雇うよ】

【B・本当に一人で大丈夫なのか?】

【C・護衛を雇う時は君に声を掛けるよ】



「――――護衛を雇う時は君に声を掛けるよ(イケボ&イケメンスマイル(自称&システムアシストあり))」


「……そう。あたしはヴェラ・ルーシー、よろしく」

「ヨルヤ・ゴノウエだ。よろしく、ルーシーさん」


 なぜか目元が厳しくなり微妙に睨まれた気がする。そして発生したエフェクトは横風……?


 まさか停滞か? 好感度は下がりもしなかったが上がりもしなかったと。



「受付にあたしへの指名依頼を出せば受理してくれるはずだから」

「分かった。その時はよろしく頼むよ」


 じゃあまた……といってヴェラはギルドの奥へと姿を消した。


 ヴェラが美人だと思っているのは俺だけではないようで、歩く彼女に視線を送る男の冒険者が相当数見受けられた。


 男嫌いと噂されていたが話した感じは普通……まぁ少し壁は感じたけど、初対面の異性なんてそんなもんだろう。


 さて、そんなヴェラ嬢のステータスはと。



【名前――――ヴェラ・ルーシー】

【年齢――――18歳】

【職業――――銀二等級冒険者】


【好感度――――7】

【関係性――――お客】

【状態――――普通】

【一言――――お金持ちカモ】



 客かよ。


 まぁ客だけど、それって他人より上の関係性か? 少しだが好感度が上がってるな。


 お金持ち、カモ? なんか嫌な予感がするが、ヒロイン様だしなぁ。


 どこかスッキリしない気持ちで、俺も詳しい話を聞くためにギルドの受付へと足を運んだ。



 ――――




「馬車の護衛……ですか? そういった事でしたら傭兵ギルドにお願いした方が宜しいかと思いますが」


 冒険ギルドの受付に足を運び、馬車護衛の話を聞くと意外な反応が職員から返ってきた。


 傭兵ギルド? なんだよそれ、そんな話ヴェラは言ってなかったぞ。


 聞くと魔物の討伐を専門にしている者を傭兵と呼ぶらしい。


 冒険者はその名の通り冒険を主としており、各地を回りダンジョンに潜って宝を手にする事が専門っぽい。


 その傍ら様々な依頼を受け付けているとか。馬車の護衛も依頼として出す事はできるが、それなりの額を提示しないと受けてもらえない可能性があるらしい。



「ヴェラ・ルーシーさんは引き受けて下さると言ってましたが……」

「あぁ、ルーシーさん。彼女はお金を稼ぎたいみたいなので、割のいい話を探していると聞きましたよ」


 一応、馬車護衛の相場を聞いてみたが、ヴェラの言う通り等級や時間によって金額は大きく変わる事が分かった。


 ただこの国の周辺であれば凶悪な魔物の数は多くないらしいので、そこまで高額な護衛料にはならないと職員さんは言った。


「例えば青銅等級の冒険者であれば4人も雇えば十分だと思いますが、その場合の護衛料は一日10万ほどでしょうか」

「10万……」


 ヴェラ嬢の三分の一……いや、一人に換算すると2万5千だから十分の一以下。


 まぁ銀等級という事が大きいのかもしれないが、それでも多少ボッタクリな気がする。


 割のいい話というか、本当にいいカモを探しているんじゃないだろうな?



「彼女はソロの冒険者ですので、ダンジョン攻略などは苦手としているのですよ。どちらかというと依頼料で稼いでいる冒険者となりますね」

「はぁ、そうなんですか。なら傭兵になればいいんじゃないですか?」


「進めた事はあるのですが、凄い顔で怒られましたよ。傭兵の話なんかするなって」


 なんか色々と訳ありヒロインっぽい。とりあえずヴェラは怒りっぽくて男嫌いで傭兵嫌いでお金好きって事か。


 う~ん、ほんとにヒロイン……?


 その後、職員から色々と話を聞いた俺は冒険ギルドを後にした。まだ日が高かったため、その次に傭兵ギルドに話を聞きに向かったのだった。

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