【1ー13】リアルタイム恋愛ゲーム






 次の日、俺は王城の一室で目を覚ました。


 昨日のゴブリンとの戦闘後は、なにもせずに王城に戻っていた。


 疲れていた事もあり夕食を頂いた後はメイドさんの案内の元、自室としてあてがわれた部屋に入ってすぐに寝てしまったのだ。


 まぁ大部屋だったので俺がいる事で部屋の雰囲気が悪くなってしまい、逃げるように夢の世界に旅立ったというのが真相だが。



「なぁ、今日は冒険ギルドに行ってみようぜ?」

「そうだな~、金稼がなきゃならねぇみたいだし」


「お前はどんすんだ?」

「俺は商業ギルドってのがあるみたいだからそっちに行ってみる。俺のギフトって商人だったからさ」


「あ~お前ん家って八百屋だったっけ? 親の仕事とか手伝ってたもんな」

「まぁ手伝わざるを得なかったつーかな」


 同室になった学生たちは俺に朝の挨拶をする事もなく部屋を出て行った。


 先日彼らは、俺のせいでこの世界に来る事になったのだと騒いだ。随分と楽しそうに部屋を出て行ったように見えたし、自らこの世界に来る事を選択したはずなのだが。


 単純に、俺に殺された、俺のせいで死んだんだって思っているのだろう。現世とか異世界とか召喚とか関係ないのだ。


 俺に命を奪われた、彼らの頭にあるのはそれだけだろう。


 今となってはバスが事故を起こしていない事も証明できないので、否定する事もどうする事も出来ない。


 俺も早々に金を稼げるようになって王城を後にしないと。関わらないようにした方が彼らにとっても俺にとっても、いいのだろうからな。


 俺は彼らが朝食を終え、王城を後にするまで部屋で待機した。




 ――――




「……さて、俺も行くか」


 十分に時間を潰したので、そろそろ学生たちは王城を出ただろう。インベントリのショップを眺めていたら結構いい時間を潰す事ができていた。


 しかし本当になんでも売っていたな。もし店売りと価格が変わらないようなら、ショップで買ってインベントリに収納した方が良いだろう。


 回復材やいくつかの武器の値段を頭に入れて、今日は店売りの物と値段を比べてみようと思って部屋を出た。



「まずは道具屋にでも……あぁそうだ、エカテリーナにクエスト報告をしに行かないと」


 エカテリーナのサブイベント、兄であるカールハインツが欲している酒の情報を得たので、クリアー条件を満たしたはずである。


「ヒロインポイントは地道に稼がないとだからな」


 ポイントで温泉旅行とかのイベントを発生させられるとか、どういう仕組みになっているのかは分からない。


 まぁ単純にイベントを起こせるほどのポイントを稼いだ頃には、ヒロインとそれなりに仲良くなっているという事だろう。


 色々売っていたショップだが、ヒロインポイントは売っていなかった。


 金でポイントを購入して温泉旅行イベントを……なんて事が行えないようになっているのだろう。


 そもそも仲良くもない人と強制温泉旅行とか、嫌すぎるしな。


 なんて事を思いつつ、メイドさんを見つけてエカテリーナの場所を尋ねる。


 どうやら私室にいるようだが、流石に部屋に入る訳にはいかないので前回の応接室で落ち合う事となった。



 ――――



「ゴノウエ様、お待たせ致しました」


 応接室で待つこと数分。今日は真っ赤なドレスを身に纏っているエカテリーナが応接室に入ってきた。


 相変わらずの美しさ。赤い瞳に銀髪という、日本人だった俺からしてみれば馴染みのない風貌だが、恐ろしいほどに似合っている。


 今は遠征中でいないという第一王女も、同じような感じだろうか? いやでも魔物討伐遠征に行くくらいだから、男勝りな王女という可能性も……。



「ゴノウエ様? どうかされましたか?」

「あぁいえ、なんでも――――」



【A・第一王女について尋ねる】

【B・クエスト報告を先にする】

【C・関係のない話をしてみる】



 ――――出たな選択肢、ありがとう。しかし急に目の前に現れるもんだから心臓に悪い。


 相変わらずの三択だ。これは想像なのだが、好感度が上昇する選択肢は1つか2つで、残りの選択肢は好感度が下がるようになっているのではないだろうか?


 しかし今回の選択肢は前回と違い、台詞の選択ではなく行動の選択のようだ。


 台詞の時は勝手に口が動いて恐怖を感じたが、行動の選択の場合はどうなるのだろう?



「(え~と、どうしよう? なんとなくCは好感度下降の選択肢で、Bは停滞のような気が……ん? なんだこの数字?)」


 迷っていると選択肢の隣に10という数字が表示され、9、8、7とカウントダウンを始めた。


 0になったらどうなるのだろう? なんて事を考えていると、あっという間にカウントは0になり、その瞬間に選択肢の表示が消えた。


「んなっ!?」



【注意:選択肢の内容、ヒロインや周囲の状況によって相応の制限時間が発生する事があります】

【注意:制限時間を超えた場合の恋愛イベントは無効化され、その日の恋愛イベントは終了となります】



「(そういうのは早く教えてくれないかい!?)」


 俺が知っている恋愛ゲームには選択肢を選ぶのに制限時間なんてなかった。


 中には制限時間があるゲームもあるのだろうけど、そんなリアルタイムな恋愛ゲームなんて個人的には嫌だな。


 いやしかしそうか、リアルタイムか。選択肢の表示や好感度など恋愛ゲーム化している所はあるが、それは俺に限っての事だろう。


 世界の時間が止まっている訳でも、エカテリーナが恋愛ゲームに組み込まれた訳ではないのだから。


 貴重な一日に一回の好感度上昇イベントが……特にエカテリーナの場合、俺が王城を出たら中々会う事が難しくなるヒロインなのに。



「あの、大丈夫ですか? 体調が優れないようであれば……」

「あぁいえ、大丈夫です。あの、お兄さんのお酒の件なんですけど――――」


 エカテリーナに不安な顔をさせてしまった。俺は頭を切り替えて、エカテリーナからの依頼であったカールが欲している酒の情報を伝える事にした。


 今回は三日以内に達成しなければならないクエストだ。これ以上は期限が過ぎて失敗となる恐れがあるし。



『クエストクリアーを確認しました』


【サブクエスト――――第二王女からの依頼】

【クリアー報酬――――10好感度ポイント】



【名前――――エカテリーナ・リドル・ファルエンド】


【好感度――――40】

【関係性――――知り合い】



 クエストクリアー報告を受けて、すぐにエカテリーナの状態を調べてみる。好感度が40となり、関係性が他人から知り合いとなっていた。


 ここにきてやっと知り合いか。少しは心を開いてくれたのだろうか? まぁ、それでも知り合いだが。



「エルフ酒……ですか」

「ええ、そう言ってましたよ」


「エルフ族もお酒を造るのですね」

「確かに、あまりイメージはないですね」


 酒といえばドワーフとか? いるのか分からないが、そんなイメージ。エルフは酒とか肉とか、そういうのは食さないイメージだな。


 だから珍しく、カールの奴も飲んでみたいと思ったのかもしれないが。



「ムゥ、聞いた事ありますか?」

「いいえ、ありません。この国には流通もしていないと思われます」


 エカテリーナの問いに、近くにいたメイドさんが答えた。眼鏡を掛けていて知的に見えるメイドさんが言うのなら、そうなのだろう。


「王宮御用達の商人に聞いておきましょうか?」

「そうですね、お願い出来ますか?」


「畏まりました」


 どうやら手に入れるのは苦労しそうだが、ムゥさんは優秀っぽいし王女であるエカテリーナが動けば何とかなりそうな気がするな。


 いやしかし、兄の事をここまで想える妹は希少だよ。俺に妹はいないが、友達とかの話を聞くと中々に強烈っぽいし。


 なんとか力になってやりたいが、俺に出来る事なんてたかが知れている……というか何も出来ないからな。



「ゴノウエ様も、もしエルフ酒の情報を入手しましたら教えて頂けると助かります」

「えぇ、もちろんで――――」



『クエストを開始します』


【サブクエスト――――第二王女からの依頼・その2】

【クリアー条件――――エルフ酒を手に入れる】

【クリアー時間――――50日以内】

【クリアー報酬――――50HEp、20好感度ポイント】



「…………任せて下さい、貴女のために必ず手に入れてきます」

「は、はい。よろしくお願いします」


 なんて破格な報酬、ヒロインポイントが50に好感度ポイントが20も。


 クリアー時間が50日とある事から、それなりに難しいクエストなのかもしれないが、一気に仲良くなれて温泉旅行にも近づくのだ。


 その後、エカテリーナと軽く雑談をしたのち応接室を後にした。

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