【1ー12】バトルゲーム化






『バトルシステムを選択して下さい』


【今回はチュートリアルバトルのため、バトルシステムはターン制コマンドバトルで開始します】



【バトルシステム】→【ターン制コマンドバトル】



『ターン制コマンドバトルで戦闘を開始します』



【ゴブリン(緑)が現れた!】



【注意:ターン制コマンドバトルは、相手とのレベル差が大きい場合(相手が高レベル)には選択できません】

【注意:ターン制コマンドバトルは、登録した人員以外が戦闘に参加する場合は選択できません】

【注意:ターン制コマンドバトルは、外的要因により強制的に解除される事があり、その場合はリアルタイムアクションバトルに変更されます】



 ゴブリンを前にして、機械音声や色々と注意書きが表示されているが頭に入って来ない。


 スライムや動物系の可愛らしい魔物ならともかく、ゴブリンという存在が俺の足を竦ませていた。


 手には鈍器を持ち、牙は鋭く尖っている。不気味な色をした目は狂気に満ち、俺への殺意がヒシヒシと伝わって来る。


 命の危険。向こうの世界では無差別通り魔事件とか起きるけど、そういう狂った奴に相対した時はこんな感じになるんじゃないだろうか?



「た、倒せったって……どうすれば」



【たたかう】

【さくせん】

【とうそう】



【たたかうを選択後、”こうげき”を選択してゴブリンを攻撃しよう!】



「ひらがなって、幼稚園児だと思われてる?」


 どこかで見た様な黒背景に白字表示、コマンドが表示された。たたかう表示以外はグレーアウトしているため、逃走を選択して逃げる事はできないようだ。


 というか何で平仮名なんだ? 容量の問題か? でもなぜか平仮名で表示されると拍子抜け……なんか落ち着いた。


 しかし戦うと言っても、素手で殴れというのだろうか? 殴るには近づかないといけないが、近づいたら殴られたり噛みつかれたりするかもしれない。


 単純に怖いぞ……いやでも、さっきレベル差があまりない場合にしか選択できないとか表示されていたし、このゴブリンの強さは俺と大差ないはずだ。


 ゲームにおいてレベル差というのは、中々に覆す事が困難な要素。体格は俺の方が勝っているし、普通に考えれば負けるはずがないんだ。


 それにチュートリアルを無視して成長材を使っているから、レベルはチュートリアルの想定より高くなっているはず。



「まさか負けイベントとかじゃないだろうな…………あれ?」


 そういやアイツ(ゴブリン)、なんで動かないんだ? 今にも襲い掛かって来そうな表情をしている癖に、あの場所から一切動いていない。


 まるで時が止まっているかのような……いや俺もゴブリンも息してるし、草木は風に揺られて動いている。


「今なら逃げられるんじゃ…………えっ!? 足が動かねぇ!?」


 足が竦んでいるとか、そういう意味ではない。まるで足が地面に縫い付けられたかのように、足が一切動かせなかった。


「ど、どうなってんだ!? ゴブリンの魔法かなにかか!?」


 俺の知ってるゴブリンと違う!? なんてやべぇバケモンなんだと冷や汗を流したが、どうやらゴブリンの魔法ではないようだ。



【ターン制コマンドバトルなんだからぁ、君がコマンド入力を終えないと動けないよぉ?】


「タ、ターン制コマンドバトル……なんだそれ、ドラ○エかよ!?」


【まぁ参考にはしたけどね】


 プレイヤーが選択を終えるまでキャラは動けないと。思考は出来るし、戦闘態勢を整えようと考えて体を捻ってみたら微妙に動かす事はできたが。


 でも逃げようとすると足が縫い付けられる。意志ある敵の行動すら操るなんて、なんていうハチャメチャなシステムだ。


 ゲームのキャラはこんな気分なのか。なんというか、これからはキャラの事も考えてゲームしようと思う。


 それよりレベル差があまりない相手にしか適用できないというのは、全ての敵にこれが適用できてしまうとヌルゲー化するからか?



【ヌルゲー化はしないでしょ? 強敵にこのシステムを適用したら、君はステータスの差で敵に先制攻撃を許し、何もできないまま殺されるよ?】


「お、おぉ……」


【だから敢えて選択不可にしたんだ。間違って強敵相手に選択してしまったら、理不尽に殺されるだけだろうから】


「システムに殺される!?」


【言っておくけど、死んだら教会で復活するとか王様に情けないと言われるとかないからね? 死の操作は僕には無理だから】


「そこは是非ゲーム化してほしかったな……」


【まぁコマンド選択前なら考える時間や準備時間が出来るし、コマンドでワンチャン逃げれるかもしれないけど……魔王にレベル1の勇者がコマンドバトルで勝てると思う?】


「それはコマンドバトルじゃなくても勝てないだろ」


【いやいや! 横スクロールシューティングバトルならワンチャンあるって!】


 なんだそれ? 俺は戦闘機にでも乗せられるのか? ああいう弾幕シューティングゲームは苦手なんだよな。


 でも確かに、あれなら技術があれば初期装備でラスボスを倒す事も可能か……?



「……というかさ、こういう意思の疎通が出来るならカスタマーサポートとかっていらなくない?」


【それはそれ! これはこれなんだよ! 運営に連絡できないソシャゲとかあると思う?】


 それは確かにないのかもしれないが、いちいちカスタマーサポートを使用して入力文字を念じるのが面倒なんだが。



「しかしアイツ、本当に動かねぇな」


 長々と遊戯神と話していたというのに、ゴブリンは初期位置から全く動いていない。今か今かと戦闘開始の合図を待つ剣闘士のようだ。


 改めてだが、神の凄さというかゲーム化ギフトの異常性を認識した。奴にとってはこの世界に干渉する事など朝飯前、お遊びなのだな。



【ほら早く選択しなよぉ? 僕も暇じゃないんだからさぁ】


 暇だからここにいるんだろ! 一人の人間だけに構っている時間があるくせに!


 俺がここでコマンドを選択すれば、戦闘が開始される。ターン制という事なので、ステータスの高かった方が先に行動できるのだろう。


 AGI上げとくんだった……! もし奴に先制攻撃を許したらどうなる……?


 殴られるのか? 噛みつかれるのか? 避けられるのか? 防げるのか? 痛いのか? し、死なないよな?



【しょうがないなぁ、今回は特別だよ? 先制は君が取れるよぉ、それにステータス的にワンパンで倒せると思う。コマンドバトルはステータスが全てなんだ】


「ほ、ほんとか!?」


【だって君、STR上げ過ぎでしょ。脳筋目指してんの?】


 良かった、筋肉は正義、やはり鍛えておいて損はない。


【まぁコマンドバトルは確率でたまにミスる事もあるけど。それが嫌ならLUKも上げる事だねぇ】


「くそ、どこまでもステータスゲーかよ……」


 でもそうだ、これはゲーム、ゲームなんだ。今までこういうゲームは何度かしたが、深く考えたりしたことはない。


 ゲームなんだから、楽しめばいいんだ。それが許されている世界、異世界なのだから。



【たたかう】→【こうげき】



 戦うから攻撃コマンドを選択、戦闘が開始される。



【ヨルヤのこうげき!】



 それが表示されたと同時に足が自由に動くようになった。良かった、遊戯神の言う通り先制は俺が取れたようだ。


 しかし自由といっても、恐らく逃げる事に意識を変更して後ずさる……なんてことはバトルシステムが許さないのだろう。


 そういう事はシッカリしたシステムっぽいし。


 俺は一歩、また一歩とゴブリンに近づいて行く。それをゴブリンも認識しているはずなのに、相変わらず奴は動く素振りを全く見せない。


 そしてついに俺は、拳が届くほどの距離までゴブリンに接近した。



「……ほんと動かねぇな」


 目の前に立ってもゴブリンは動かない。完全にゲームシステムの奴隷である。


「うおっ!?」


 背後から攻撃しようとゴブリンの背後に回ったら、急に奴は反転した。再び俺はゴブリンの背後に回るが、同じように奴も反転する。


 バックアタックはできないのか。今回は真正面から攻撃するしかないようだ。



「……じゃあ、いくぞ」


 呼吸を整え、俺は拳に力を入れた。


 俺は今からゴブリンを殴り、倒す。それは命を奪うと同義であろう。確かに見た目は化け物で、人に害をなす存在なのだろうが命は命である。


 異世界転生者が魔物や盗賊を殺す描写はよく見るが、よくできるな。


 動物を殺した事も、人を殺した事だってもちろんない。殺してぇなんて冗談で思った事はあるが、本気で殺そうと思った事など一度もない。


 いくらゲームだと思いこんでも、いざやろうとすると頭のどこかがストップをかける。



【君の世界の常識と、この世界の常識は違うよ? これを乗り越えなければ、君はこの世界では生きていけない】


「…………」


【君はもうこの世界の人間だ。大丈夫、時間は掛かるかもしれないけど、君にならきっと乗り越えられる】


「……なんだよ、急に真面目になりやがって」


 遊んでいても神なのか、今までとはだいぶ違う様子で諭された。


 乗り越えられるというか、慣れるまでは時間が掛かるのかもしれないが、この世界で生きていく以上はこのような場面に出くわす事もあるかもしれない。


 覚悟を決めなければ、殺されるのは俺の方だ。



【さぁじゃあ、サクッと殺っちゃおう! 大丈夫だよ、輪廻転生するから。この悪しき命は巡り巡って良い命に……なるかもしれない!】


「いきなり軽いなぁ」


 とはいっても、さっきまでとは違い心が少し軽くなった気もする。


 奴らもこちらの命を奪おうとしている訳だから、奪われたって文句ないだろう。



「じゃあ今度こそいくぜぇぇぇっ!」


 俺は腕を振り上げ、精一杯の力を込めてゴブリンを吹き飛ばすイメージで殴った。


 拳が当たった時の衝撃はそれほどでもなかったが、ゴブリンは数メートルは吹き飛んだように見える。



【ゴブリン(緑)に27のダメージ!】

【ゴブリン(緑)をやっつけた!】



「やっちまった……! ついに俺は命をうばっ――――」



 ――――♪ファファファファーファーファーファッファファー♪――――


【12の経験と5ゴルドを手に入れた】


 ――――♪テレレレッテッテッテー♪――――


【ヨルヤはレベル13に上がった】


【ゴブリン(緑)は宝箱を落とした】

【宝箱の中にはなんとっ】

【なんと回復材(N)を見つけた】


【補足:ゲーム化によって倒した敵からドロップしたアイテム、お金などは自動的にインベントリに収納されます】

【注意:倒した敵から物理的に剥ぎ取った素材や魔石などは、インベントリには収納できません】


「ちょちょ、ちょっとま――――」


『チュートリアルクリアーを確認しました』


【クリアー報酬――――なし】


【全てのチュートリアルをクリアーしました】

【再確認したい項目、その他質疑はサポートセンターにお問い合わせください】


【祝:チュートリアルクリアーおめでとうございます。宜しければご感想などをお聞かせ下さい】


【あとで】

【いますぐ】



「…………あとで」


 聞いた事のあるような音に表示、チュートリアルの表示が怒涛の様に現れた。


 殴ったゴブリンは森の奥へ吹き飛んでいったため、生死の確認はできないが恐らく死んだだろう。


 手に残る嫌な感触、もう二度と殴りたくない。今後は武器を使うようにしようと心に決めた。



【いえぇぇぇい! 初勝利おめでとう! どう? 楽しかった? バトルシステムには結構な力を使ったからねぇ~。あ、宝箱とかどっから出たとか細かい事は気にしちゃだめだよ? まぁ遊戯の神である僕の力なんですけどねぇ!】


「うるせぇなぁ! もう少し余韻に浸らせてくれよ!?」


 こうして俺の初戦闘、初の命のやり取りは賑やかなまま幕を閉じた。



【初心者応援1週間ログインボーナス☆】

【1日目――――成長材(R)】

【明日もログインしてくれたらGFpをプレゼント!】


 ログボまであるのかよ!? ほんとチートギフトだな……って7日目のログボが10連ガチャチケ!?


 ありがとうございます!

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