【1ー9】インベントリ






【インベントリを開いてステータスを確認しよう!】


【クリアー報酬――――成長材(N)、200ゴルド】



 チュートリアルという初心者ガイドが始まったはずなのに、いきなり意味が分からない事を言われて困惑する。言われてというか表示されたのだが。


 インベントリ……ゲームでいうとアイテムボックスみたいなものだったか? しかし開けと言われてもアイテムボックスなど持っていない。


 もしかして持っているのかと思いポケットなどを確認するが見当たらず。訳が分からず大門を出てすぐの場所で途方に暮れていた。



「……まさかあれか?」


 少しして何か呪文やアクションが必要なのかもしれないと、数少ないゲーム知識や異世界転生物語を思い出した。


 異世界転生、ステータスの確認、表示。一つ心当たりがあったのだが、この人が多い大門付近で行う事は憚られる。


 まぁいいか、誰も俺の事なんて気にしていないだろう。こっちの世界の人達は当たり前に行っている事かもしれないし。



「……ステータス! ステータスオープン! オープンステータス!」


 恥ずかしさを無視して呪文を唱えてみる。こうするとあら不思議、目の前にステータスウィンドウが現れて、俺の状態が確認できるのだ。


 ……まぁ、何も現れなかったが。


 もしかしたら身振り手振りが必要なのかもと、大きく手を広げたり虚空に手を掲げてみたりしたのだが何も起こらない。


「ステータス表示! ステータス確認! ステータス……す、すてーたす……」


「ちょっとなにあの人?」

「なんか気味が悪いわね」

「お母さんあれなぁに?」

「しぃっ見ちゃだめよ!」

「通報しとくか? 薬でもやってんじゃねぇ?」

「おいほっとけ、ああいう奴たまにいるんだよ」


 ……俺はそそくさと人目が少ない森の方へと移動した。




「で、でた……」


 静かな森の中に移動し、格闘すること少し。ついに目の前に半透明のウィンドウを表示させる事に成功した。


 表示の方法は、ただ頭の中でインベントリを開きたいとかステータスを確認したいとか思うだけの事だった。


 呪文も身振り手振りも必要ない。強めにインベントリを開きたいと思うだけでよかったなんて……今までの行為はまさに奇行だな。



「ステータス、アイテム、ギフト、ヒロイン、クエスト、ショップ、ガチャ……おぉ! ガチャがあるぞ!」


 なんか目次のような一覧が画面左側に表示されている。


 色々あるようだが、やはりガチャという項目に目が奪われる……が、恐らくこれグレーアウトしているな。


 ステータスという項目だけ色が違う、たぶん今はこの項目しか選択できないのだろう。ゲームと同じで徐々に解放されていくのだろうか。


 仕方なしにステータスの項目を指で押してみるが反応なし、指が表示を突き抜けてしまう。スマホのような感じとは違うようだ。



「(ステータスッ)」



【名前――――ヨルヤ・ゴノウエ】

【職業――――無職】

【状態――――空腹】

【名声――――10】


【STp――――0】


【LV――――1】

【HP――――32】

【GP――――25】

 

【STR――――15】

【VIT――――12】

【AGI――――10】

【INT――――12】

【LUK――――8】


【捕捉:ここではステータスの確認、ステータスポイント(以後STp)を使用してステータスアップを行う事が出来ます】



 ステータスを表示しろと強く念じるとウィンドウの表示が変わった。この画面が俺のステータスなのだろう。


 名前や職業、状態は分かる。朝はカールとの乱痴気騒動のせいで食べ損ねてしまっていたから腹がへっている、だから空腹ということだろう。


 いやしかし、職業無職というのは中々心にくるな。あと名声とはなんだろう? そこら辺もチュートリアルで説明があるのだろうか?


 その下の英字や数字は俺の身体能力の値か。まぁこれはどうでもいいな、御者だし俺。俺が化け物と戦う訳じゃないし。


 というか、あまり好きな表記じゃないな。STRじゃなく力とか筋力とか分かりやすいのが好き。



『チュートリアルクリアーを確認しました』


【クリアー報酬――――成長材(N)、200ゴルド】



 本当に確認するだけでクリアーの表示が出て来た。


 お金まで貰えるなんて、なんて素晴らしい……と思っていたらすぐさま次のチュートリアルが開始されたようだ。



【アイテム一覧を表示させ、成長材を使用してレベルをあげよう!】

【クリアー報酬――――なし】



 今度はアイテム一覧を開いてレベルを上げろと表示された。いやそれより報酬なしって、そんなんありかよ?


 まぁ愚痴っても仕方がない、チュートリアルだし。報酬の事は考えずに、アイテム一覧表示を頭の中で強く念じると簡単に開く事が出来た。


 表示されたアイテム一覧には、現在所持しているのであろうアイテムの絵が二つ表示されている。


 一つのアイテム絵にカーソルを移動させるように念じると、思った通りに動いてくれた。


 そのアイテム上でカーソルがアクティブになると、下の方に説明のような文字がある事に気が付く。



【成長材(N)――――少量の経験値を獲得できる未知の素材】



 未知の素材って、使って大丈夫なのか? なんか試験管みたいな器に赤い色の液体が入っている絵に見えるが……腹を壊したり未知の変異体になったりしないだろうな?


 まぁ使ってみなきゃ次に進めないようだし、意を決して右下に表示されていた【使用】というボタンを押すように念じる。


 すると”ティロリン”といった電子音が頭の中に響いた。使用に成功したという事を伝えたいようだ。


 てっきり飲まなきゃいけない物だと思っていたのだが、そういう所のゲーム化はありがたいな。



『チュートリアルクリアーを確認しました』


【クリアー報酬――――なし】



「……本当にレベルが上がったのか? なんか使用した時、バーが動いて数字が1から4に上がったようには見えたけど」


 特に身体能力が変化したような感じはない。体力が増えた様子も、力が強くなったり頭が良くなったような気も全くしないぞ。


 3しかレベルが上がらなかったからか……? そういえば、もう一つ成長材があったな。


 ……使ってみるか。俺ってエリクサーとかもバンバン使うタイプだし。



【ステータス画面からレベルアップポイントを割り振ってみよう!】

【チュートリアルクリアー報酬――――10ギフトポイント】



 チュートリアルは次のステップに進ませたいようだが、一先ず無視。どうやら強制ではないようなので、俺は再びアイテム一覧を表示させた。


 そこにはビーカーのような器に赤い液体が入ったアイコンがあった。確かエカテリーナのクエストで貰った成長材だったはずだ。



【成長材(R)――――中量の経験値を獲得できる未知の素材】



 成長材、レアか。先ほどのノーマルの成長材より多くの経験値が獲得できるっぽい。


 ノーマルで3もレベルが上がったのだから、10くらい上がるかもしれないな。


 俺は嬉々として成長材(R)を選択し、使用ボタンを押す様に念じた。



【所持金が不足しています】



「…………は? 金かかんの? なんで?」


 なんで素材を使うのに金が掛かるのだと思ったが、そういえばソシャゲのレベルアップにも金が必要な場合があった気がする。


 そういう所はゲームに似せなくていいんだけど……というか、金ならもっているはずだよな?


 ポケットを弄ると銀貨四枚と銅貨九枚あった。つまり4万9千ゴルド持っているという事だ。



【ゴルド――――0/3,000】



再びアイテム一覧に目を向けると、成長材(R)を使用するのに必要なゴルドが表示されていた。


 3千ゴルドが必要っぽい。なんでだろう、4万9千ゴルドもあるのに。この4万9千ゴルドは所持金として認識されていない……?


 そこで俺は思い付いた。この4万9千ゴルドはゲーム化以外で得た金だ。


「(ということは……3千ゴルドをインベントリに入金! 収納? ともかくインベントリに3千ゴルドを入れろっ!)」



【ゴルド――――3,000/3,000】



「うおっ!?」


 き、消えた。手の中の銅貨が数枚消えたぞ!? 見ちまったよ、世界から物が消失する瞬間を。


 なんてファンタジーな世界……いや、なんてファンタジーなギフトなのだと言った方が正しいかもしれない。


「……これ、出金はできるんだよな?」


 ゲームであれば、一度データ化してしまったら元に戻せたりはしないだろう。


 そういう事なら気を付けて入金しなければならないが……良かった、戻せるようだ。


 インベントリから3千ゴルドを出金。それを強く念じると手元に銅貨が三枚現れた。見ちまったよ、世界に物が生まれる瞬間を。



「待てよ? そういう事なら……成長材を出して物理的に飲めば金なんて掛からないんじゃね?」


 データとして使おうとするからシステム的に金が掛かるのだろう。なら成長材をインベントリから出して、あの赤い液体を飲めば金なんて掛からないんじゃ?


 どうやら俺は裏技を発見してしまったようだ。


「(よし……成長材(R)をインベントリから取り出すっ!)」



【このアイテムは具現化できません】



「ふっ……うまく出来てやがる」


 どうしても集金したいらしい。まぁお金でレベルを上げられるなら安いものか。それにあんな怪しい液体、飲みたくなかったからね。


 俺は再び3千ゴルドをインベントリに入金し、成長材(R)を使用した。



「おぉ、12になった」


 成長材を二つ使って、レベルが1から12になった。他者との成長比較が出来ないから分からないが、結構な勢いでレベルアップしたのではないだろうか?



 そして俺はチュートリアルを進めるためにステータス画面を開く。そこに記載されている数字を見て、確かに変化している事を確認した。



【名前――――ヨルヤ・ゴノウエ】

【職業――――無職】

【状態――――空腹】

【名声――――10】


【STp――――110】


【LV――――12】

【HP――――32➡】

【GP――――25➡】

 

【STR――――15➡】

【VIT――――12➡】

【AGI――――10➡】

【INT――――12➡】

【LUK――――8➡】


【捕捉:1レベルアップにつき10STp、5ギフトポイントが得られます】



 この110ポイントを好きに割り振れるという事だな? となれば流行りの特化型か? いや今も流行ってんのかは知らないけど、尖らせた方が良いと言う話は聞く。


 いや~迷うなぁ。なんか、楽しくなってきたわ。

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