【1ー5】女性と曲がり角で激突すればそれはヒロイン
『クエストを開始します』
【メインクエスト――――仕事を見つけよう】
【クリアー条件――――仕事を見つけてお金を得る】
【クリアー時間――――無制限】
【クリアー報酬――――100ガチャポイント】
また再びの機械音声と文字列を見ながら、広間の片隅で溜め息を付く。
急にメインクエストクリアーと出て驚いたが、この世界に転移した瞬間にクエスト表示されていた気がする。
メインクエストが終わったと思ったらまたメインクエスト。メインというのだから、俺の物語というか人生においてのメインとなるイベントなのだろう。
ほんとゲームっぽい。異世界において指標を与えられるという意味では助かるのだが、メインクエストと言われると途端に安っぽく感じてしまう。
それに、自分の人生が遊戯の神に決められているようで何か嫌だ。
いやでも、100ガチャポイントってあったよな!?
それはなんか好き、ナイス遊戯神。ソシャゲ世代の俺としては早く引きたいぞ、10連ガチャ。
「はぁ……でもなぁ」
仕事を見つける……か。
やっぱり普通に働かせられるんだな。別の世界に来たというだけで、向こうの世界とやる事は変わらないと。
この世界でどんな仕事をしよう? ここはファンタジーな異世界だろう? 会社員、なんて感じではないだろうしなぁ。
ありきたりだけど冒険家? 画期的な物を開発して世界に貢献する発明家? 地球の技術を伝えて世界を発展させる革命家?
……無理だな。俺にその才能はないだろう。
殴り合いの喧嘩なんてした事ないし、もちろん剣を振り回した事もない。何か新しい物を創り出せるとも思えないし、俺が持つ向こうの世界の知識なんてたかが知れている。
となればまぁ、やはりコレに頼るしかないのだろうな。
「御者Lv1……御者ってあの御者だよな」
先ほどのメインクエストの報酬で、御者Lv1というギフトを授かったはずだ。肉体的にも精神的にもなんの変化もないけど。
あまり深く考えた事はないが、御者と聞けば馬車を操縦する人の事が真っ先に思い浮かんだ。
馬を操る人の事を御者と言った気もするから、俺自身も馬に乗って走らせる事ができるのだろうか? 競馬とかこの世界にあるのかな?
俺は向こうの世界でバスを運転する仕事をしていた。ギフトは才能という話だったから、この世界では御者と変換されたという事だろうか。
バスの運転の才能があるとか言われると嬉しいぞ。俺、なりたくてバスの運転手になったからな。
まぁこの世界にはバスが、自動車はないっぽいな。バスがあったならバスの運転手ってギフトをくれるだろうし。
自動車を作れる、知識がある者はまだこの世界に召喚されていないのだろうか?
まぁ話を聞くと若者ばかりが呼ばれているようだし、専門的な学校に通う生徒でも連れてこない限り難しいのか。
そこらへんが若者達だけを呼ぶ、ギフト取得制限の理由っぽいな。ぽんぽん革新的な技術を持ち込まれては大変な事になりそうだし。
「――――ゴノウエ殿」
生徒たちに関わらないように一人で色々と考えていると、一人の文官が俺に話しかけてきた。
今は個別相談の時間。自分が得たギフトを生かして仕事を見つけるのか、はたまた他の仕事に従事するのかなど、こちらの世界の頭いい人と相談する時間だ。
俺は冒険者になるぜー! なんて騒いでるお調子者の学生の声がさっきから響いてきている。
「ゴノウエ殿のギフトはゲーム化……どんな力があるのか私には分かりませんが、頑張りましょう」
ギフト名が記されているであろう用紙を見ながら、笑顔で話しかけてくれた文官さん。
知らないギフトだから、無能なギフトだから追放する! なんていう頭のおかしな人達じゃなくて本当に良かった。
「そうですねぇ。まずはギフトの事などは考えずに、街の様子を見てくるというのは如何でしょうか? なにか、やってみたい事が見つかるかもしれません」
「あ、あのですね。実は御者ってギフトが…………うっ!?」
「ど、どうされました? ゴノウエ殿? 顔色が……」
「は、腹が……そうだったぁ……俺、酒をたくさん飲んだ次の日は必ず腹っ……す、すみませんトイレ……どこですかっ……!」
トイレの場所を教えられた俺は急いで向かった。なんとか間に合って大惨事を防ぐ事が出来たが、ほんと気を付けなくては。
やはり飲み過ぎはイカンな。この世界の酒はかなり美味いから、自重できるかが今から不安ではあるが。
しかし飲み過ぎだと体が警告してくれているのだから、それには従わないと。もう少し穏やかな警告でお願いしたい所ですけどね。
「ふぅ…………やるな、異世界」
驚いた事があった。ウォシュレットがあったのだ。昨日もトイレには行ったが、全く気が付かなかった。
日本のようにボタンを押せば水が出てくる、という作りではなくレバーを引けば引いた分だけ水が出てくるという作りだったけど。
ウォシュレットがあるなら作りなんてどうでもいい、過去の勇者に感謝だな。まぁ水洗じゃなかったのはマイナスだけど。
やっぱり下水道って凄いシステムなんだな――――
「――――きゃっ」
「うおっと!? す、すみません! 大丈夫ですか!?」
ウォシュレットに感動していて周りに注意を払っていなかった。廊下を曲がった所で、俺は向こうから歩いてきた人とぶつかってしまう。
俺的には大した衝撃ではなかったが、ぶつかった人は転んでしまったようだ。
俺はすぐさまその人に手を差し伸べようとするが、その前にあの音が響いてきた。
『クエストを開始します』
【特殊クエスト――――第二王女との出会い】
【クリアー条件――――第二王女と知り合う】
【クリアー時間――――無制限】
【クリアー報酬――――成長材(R)】
だ、第二王女? え、王族? 俺、王族と出合い頭にぶつかって転ばせたのか!?
という事は不敬罪? いや傷害罪か? いやいや交通事故だろ!
慌てて、ぶつかって転ばせてしまった人物に目を向ける。
そこにいたのは綺麗なドレスを身に纏った紛う事なきお姫様。謁見の間にもいたし宴会にもいた子だ。
灰色というより銀髪と言った方が適切であろう異世界髪をした王女様、宝石のような赤く綺麗な目が驚きによって見開かれていた。
なんで王族が廊下を普通に歩いてんだ!? いや王城だし歩いているのだろうけど、こっちからしたら取扱注意な危険物がウロウロしているのと変わらない!
「し失礼しましたっ! お怪我はありませんか!?」
「は、はい。大丈夫です」
俺は手を差し伸べるが、彼女は戸惑った様子だった。
それは僅かな時間で結局は手を取ってくれたのだが……もしかして、王族に手を差し伸べるとかマズい行為なのでは?
王族貴族に対する礼儀作法なんて分からないぞ。いつかやらかしてしまう前に勉強した方がいいのかもしれない。
「本当にすみません。考え事をしていて……」
「いえ、お気になさらず。あなた様にもお怪我がないようで良かったです」
そう言って微笑む王女様。歳は学生たちと同じくらいの様に見えるが、ドレスのせいなのか髪色のせいなのか、纏うオーラが違う。
そりゃ王族だもんな。我々のような平民とは違って然るべきか。高貴、そう高貴である。
「では、私はこれで」
そう言うと王女様は行ってしまわれた。ただ歩くその姿さえ美しい、色々と頑張っているのだろうなぁ。
と、暢気な事を考えていた時に思い出す。クエストの事である。
このクエストに従って本当に大丈夫なのかという思いもあるし、本当に報酬貰えているのかとも思うが、今の俺にはこれしかない指標なのだ。
「お、王女様! お話……俺と少しだけお話しませんか!?」
出会い頭にぶつかられて転ばされた初対面の男からのこの言葉が、王女様にどのような印象を与えたのかは分からない。
傍から見たらただのナンパである。ちょっと特殊な出会い方をしたからって調子にのった、哀れな男のナンパである。
でもやるしかないのだ。特殊クエストってあったから、もしかしたらスルーしてもいいクエストなのかもしれんが。
いやスルーはしないでしょ。だって王女様と知り合えるなんて、中々ないし。
「え、えっと……」
「あいや、無理にとは……」
「いえ、無理という訳ではないのですが……あ、そういえば貴方様は」
「はい? なにか……?」
初めはナンパされて困っている女の子という感じだったのだが、何かを思い出したのか急に興味深そうな目に変わった。
まさかナンパに成功したのだろうか? 初めてナンパしたけど、案外ナンパって簡単なのかもしれないな。
『クエストクリアーを確認しました』
【特殊クエスト――――第二王女との出会い】
【クリアー報酬――――成長材(R)】
え、マジで? このクエスト簡単すぎない? カールの時とは大違いだな。
『ヒロインリストにエカテリーナ・リドル・ファルエンドが追加されました』
【好感度――――20】
【関係性――――他人】
【状態――――普通】
【一言――――特にありません】
……なにそれ? ヒロインリスト? 好感度って、恋愛ゲームじゃないんだから……って、まさかね。
いやそれよりもさ、クリアー報酬の成長素材は? いつどこでもらえんの?
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