【1ー4】自主追放






 謁見の間にて、昨日の続き的な説明が行われていた。


 本来こういうのは初日に終わるのがテンプレだと思うのだが、説明の内容も俺が思っていたテンプレとはだいぶ違った。


 まずこの世界に魔王という存在はいるが、人類の敵……なんていう存在ではないそうな。魔族と言う種族がおり、その種族をまとめているのが魔王という事。


 友好関係にはないようだが、敵対関係でもないという話だった。


 人類の敵という存在は別にいるらしい。それは魔物や魔獣、厄災と呼ばれる存在で、それらは人々を見境なく襲うが魔族とは何の関係もないという事も知らされた。


 考えの違いから小競り合いが続いている国々はあるが、その戦いに強制的に参加させるような事はしないという事も。


 ならなぜ俺達は召喚されたのか。魔王が人の世界を滅ぼそうとしている訳ではなく、大きな戦争なども特に起きていないというこの世界へ。


 これには大多数の学生たちも疑問符を浮かべていた。勇者召喚とか言っていたし、勇者として魔王と戦ってくれ……なんて言われる事を想像していたのだ。

 

 とりあえず、最初の国としては大当たりなんじゃないだろうか? いきなり戦争に参加させられたり、転移者を道具のように扱う国とかもあるかもしれないし。



「貴方たちのように異世界から来た者は、ギフトの力を大きく引き出す事が出来ると言われております」


 昨日とは違い、王妃の代りに文官のような恰好をした者達が説明を行っていく。


 ギフトは神に与えられる恩恵で、その者の才能などによって授けられる物らしい。


 ギフトは努力で身につけられる物ではないが、授かったギフトを成長させるのは努力によるものだと言う。


 その成長の度合いが、異世界から来たものは此方の世界の者に比べて優れているのだとか。



「どうやら成長スピードが違うようなのです。統計にはなりますが、こちらの者が上位ギフトを習得する確率は10%ほどで、異世界の者は50%を越えているとか」


 それを聞いた時はなんとも言えなくなったな。同じ人間なのに、ただ他の世界から来たというだけで差が生まれるなんて。


 こちらの世界の人からしたら不公平以外の何物でもない。軋轢が生まれそうなものだが、この国の人は”そういうものなのだ”として特に気にしていないようだった。



「剣士のようなギフトを授かった者には、凶悪な魔獣などの討伐を生業として頂く事が多く、人々を脅威から守って頂いております」


「錬金術師や細工師などもそうです。歴史書には一線を画した物を生み出した者は、ほとんどが異世界から来た者とあります」


「ですから皆様には、各々の分野でその優れた力を発揮してほしいのです」


 つまり要約すると、世界が危機的な状況になったために俺達を呼んだ訳ではなく、異世界人を呼んだ方が世界が発展し、世界が安全になるからという事か。


 全く異なった環境の世界に行くという事を承諾してくれた勇気ある者、愛称として勇者と呼んでいると。


 ……紛らわしい。異世界に召喚に勇者って言ったらアレしか思い浮かばないじゃん。


 というかそういう事なら、避妊具をこの世界に生み出した奴は絶対に俺達の世界から来た奴だわ。



「じゃあ俺達の他にも地球から来た人が大勢いるのですか?」


 一人の学生からの問い。今までの話からすればそうだろうと思ったのだが、そうではないらしい。


 異世界から勇者を召喚できるのは数十年から数百年に一度程度とのこと。


 召喚術自体は簡単なものなので、ある程度の大きさの国であれば頻繁に行っているらしいのだが、何故か成功しないのだとか。


 神が制限をしている、なんて説が有力らしい。当たり前のようにこの世界の人達は神を信じているんだな。


 

「皆様はこの世界に来たばかりですので、しばらくはこの王城の一画に寝泊まりをして頂いて構わないと、王が仰っておりました」


「え……いずれ出て行けって事ですか?」

「俺一人暮らしなんてした事ねぇんだけど」

「未成年だし……そもそもお金をどうやって稼ぐの?」

「働けって事か? なんか思ってたんと違う」

「あれだろあれ! 冒険者! 異世界って言ったら冒険者しかないだろ!」


 親の庇護下にあった未成年の学生たちが騒ぎ出す。彼らが動揺するのも分からなくなかった。


 魔王を倒せなどの明確な目的は与えられず、己の才能で世界に貢献して欲しいと曖昧な事しか言われていない。


 もの凄く噛み砕けば、しばらくは王城に寝泊まりしつつ己の才能を生かせる職場を見つけて、この世界で生きていけという事だよな。



「あの……帰る事は出来ないのですか?」


 顔に緊張が走っている女子生徒からの問い。その質問に大勢の視線が彼女に集まる。


 神様は帰る事も可能だと言っていた気がする。しかしそれは、神の世界でのあの面談時に適用できた事ではないだろうか?


 要は召喚に応じない、拒否するとあの場では行う事が出来た。しかし一度来てしまったこの状況でも帰るなんて選択肢があるのだろうか?


 まぁ彼らは若い。なんか思っていたのと違う……なんていうのも帰りたくなった理由としてあるのかもしれない。



「送還の術はございますが……それが行われた事は歴史上は一度もなかったかと」

「ど、どうしてですか? やっぱり帰りたい、なんて思う人もいたと思うんですけど……」


「最初に申し上げましたが、皆様はあちらの世界で死んでいるはずなのです。つまり送還すれば、あなた達は……その……」


 向こうの世界に戻ったら死ぬ。即死なのか、戻った瞬間だけは意識があるのかは分からないが、死は確定している。


 他の世界に送り出すなんて事を行える神が嘘を付くとは思えない。というかここにいる者達は、承諾したからここにいるんだよな?



「そもそも私達って本当に死んだの?」

「それは……」

「誰か覚えてない? なにが起こったか」

「確か地震が起こって、目の前が白くなって……声が」


 己に起こった最後を思い出そうとする学生たちだが、自身に起こった事はみんな共通しているようだ。


 地震のような衝撃、そして明転。そのあと頭の中に声が響いてきて、異世界転移に承諾したらここにいた……という流れらしい。


 俺とは少し違うようだ。彼らは神に直接会った訳ではなさそうだな。



「――――バスが事故ったんじゃね?」


 ザワザワしていた中で響いた一つの声。その声を聞いたものは一瞬だけ考えるような仕草をした後で視線を彷徨わせた。


 誰かを探す様に辺りを見回す学生たち。その視線の全ては俺を見つけると固定された。


「ぜってぇそうだって。この数が死んでんだぜ?」

「確かに……バスに乗ってたんだもんね」

「バスの事故なら、助かった子もいたのかも……」

「マジかよ? アイツのせいで死んだん?」


 明らかに敵意が含まれた視線が俺に注がれ始める。


 その可能性については俺も頭をよぎった事であり、いつかは指摘されるのではないかとも思っていた。


 しかし、俺はその疑惑に対する否定材料を一切もっていない。



「なぁ運転手さん。あんたがバスの運転ミスったんじゃないの?」

「いや、そんな事はないと思うんだけど……」


「ここにいる奴って全員が同じバスに乗っていたクラスの奴だけだしさ、あのバスになんかが起こったって考えるのが普通だよな?」

「…………」


「正面衝突とかしたんじゃねぇの? ぶつかった衝撃だろ、あの地震みたいなの」

「そうかも。一番後ろの席に座ってたマトバ君達いないもん。生きてるんだよ」


「衝突なんてしていない! そもそも俺が運転していたのは大型の観光バスで、この人数が死んでしまうような衝突なんて……」


「バスの運転手さんにしては若いなって思ってたんだよね」

「新人って事? じゃあやっぱり、あの人のせいで死んだんじゃん」


「若いバスの運転手なんて普通にいるって……」


「もうパパやママに会えないんだ……」

「友達にも、好きなアイドルにも……」


『『全部、あの人のせいだ』』


 一度疑ったらそうとしか思えなくなったようで、俺のせいで死んだんだと言う声は治まりを見せない。


 話が進まず、埒が明かないため先生や文官達が学生の騒ぎを鎮めようと行動し、とりあえずは治まりを見せた。


 しかし彼らの表情を見れば分かる。俺のせいで死んだんだ、こんな世界に来る事になったんだと顔に書いてある。


 そんなギスギスとした雰囲気のまま、説明回は次のステップに進む。とりあえず何をすればいいのかという事を、個別に相談する時間が設けられた。


 まさかこんな事になるなんて、全く想像していなかったと言えば嘘になるが。


 この雰囲気、居づらい。しばらくの間、王城で生活するなんて話があったけど、俺は出て行った方がいいんだろうな。


 少し違うのだろうけど、まさかこっちの世界の人間じゃなくて、同郷の人間から追放される事になるなんて思ってもいなかった。



『クエストクリアーを確認しました』


【メインクエスト――――ようこそ異世界へ!】

【クリアー報酬――――ギフト・御者Lv1】

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