【1ー2】追放しないよ宴だよ
「ゲーム化……聞いた事ありますか?」
「いや、初耳ですな」
「これはジョブギフト? いやスキルギフトに分類されるのか……?」
「分類としてはユニークギフトになるのでは?」
「しかし召喚者がユニークギフトを持って来たという記録はありませんぞ?」
「まさかオリジナルギフトでは!?」
魔法使いたちが集まってザワザワし出した。
まだ全ての学生の鑑定を終えてはいないようなので全員ではないようだが、鑑定を終えたのであろう学生たちが興味深そうに俺を見ていた。
「なぁ、あの人ってさ」
「バスの運転手さんじゃん」
「あっほんとだ! あの人も来てたんだ」
「なんかおかしな雰囲気だね」
戦闘系のギフトや生産系のギフトを得た学生たちは余裕なのだろう。ここに来た時の悲壮感は薄れ、笑顔で友人と談笑する姿さえ見せるようになっていた。
俺はこの先どうしよう……? 無能ギフト持ちで使えないと言われ追放されたとして、どうやってこの世界を生きていこう。
「おぉ、貴女様は最初から二つのギフトをお持ちなのですね」
「は、はぁ」
「教師Lv1。ジョブギフトですね、珍しくはありませんが」
「教師……ですか。一応、向こうでも教師でしたので……」
「それと、限界延長……? これは聞いた事がないギフトですね」
「そ、そうなのですか?」
「ええ。限界突破というギフトなら聞いた事があるのですが」
すぐ近くから聞こえてきた声の方に目を向けると、そこにいたのは担任の女先生だった。
そうか、よくよく考えればこの人も二十歳を超えているだろう。神様達が言っていたもう一人の特例とはこの人の事なんじゃないか?
なんかやけに冷静だなと思って見ていたが、俺と同じならこの人も神様と面会したはず。ある程度の事情を知っていたからこその冷静さか。
俺はこの女性にお互い大変ですね、この後どうします? といった視線を投げかけてみたのだが、すぐに目を逸らされてしまった。
「さて皆さま、全員の鑑定が終わったようですな」
王様の言葉に全員の視線が王に集まった。王の手元には鑑定士から渡された紙束が握られており、俺達のギフトなどを確認しているのだろう。
さて次の言葉は何だろう? 無能がいるようだ、いらん、追放する、とかか?
頼むから口封じのために殺すとか、化け物の森に転移させられるとかは止めて欲しい。
そうなる前に逃げた方がいいのかもしれない。なんて事を考えて出口の場所を確認していた時、王の口から予想していなかった言葉が出てきた。
「色々なギフトがあったようだが……一先ずは宴にしよう! 皆さまも疲れているだろうし、詳しい話は明日と致しましょう!」
王の言葉にポカンとしてしまう。流れ的に追放の儀式でも行われると思ったのだが、宴とは。
困惑する俺達を他所に、謁見の間にメイドさん達が流れ込んできた。俺達はあれよあれよという間に別のフロアに移される。
なんか、思っていたのと違った。
――――
――
―
「――――それでは! 勇者様の召喚成功に、乾杯ッ!!」
そして始まった大宴会。俺の目の前には旨そうな料理の数々が並べられ、食欲をそそってきていた。
周りを見ると肉料理に齧り付く男子生徒や、見た事もない果物のような物を口にして驚いた表情をしている女子生徒の姿が。
若いとはこういう事なのだろうか。俺はどうしても疑ってしまう。
この料理が美味い不味いという事ではなく、何か盛られているのではないか? とか、後で金を請求されて払えずに奴隷に落とされるとか。
……とは言ったものの、昼食前に死んだ事も影響しているのか腹が減った。腹が減っている時に美味そうな見た目に匂い、抗えるものではない。
「…………パクリ」
欲に負けて芋料理のような物を口にした。その瞬間、脳に電撃走る。
なんだこれ……? 美味すぎる。味はまさにポテトサラダ、今まで食べた事がないほどに美味いポテトサラダだった。
おかしい。ここがテンプレ異世界ならばマヨネーズは異世界人が開発して大儲けする……って流れなはずなのだが、入ってるぞ、マヨネーズ。
それにこれは……刺身だ、そして醤油だ。おかしい、ここはテンプレ異世界じゃないのか!?
震える手で今度は肉料理に手を伸ばす。えらくいい匂いがする肉に思い切って齧り付いてみた。
その瞬間、身体中に電撃走る。
「な、なんだこの肉!? 豚でも牛でもない、何の肉なんだ……?」
あっちでは食べた事のないほどに美味な肉。高級肉なんて滅多に食べなかったが、何度か口にした事はあるのだ。
その高級肉の味を凌駕している。単純に味が、ではなく何かが違うのだ。何かといわれてもよく分からないのだが。
「お飲み物はいかがですか?」
肉の美味さに感動していると、メイドさんが近くに寄って来て飲み物を勧めてくれた。何の飲み物があるか分からなかったので適当に、水を下さいと答える。
こんな美味い料理だし、本当は酒が飲みたい所なのだが……ん? もしかしてアレは酒なんじゃないか?
メイドさんが俺の元を離れ、頭の中で酒の事を考えながら周りを見渡していた、そんな時だった。
『クエストを開始します』
「……は? ク、クエスト……?」
急に機械音声のような音が頭の中に響き渡った。耳に入った音ではなく、頭の中に直接響いたような、不思議な感覚を覚えた。
近くに座っている者達を見てみるが、誰も俺に話しかけた様子はない。他の者と談笑していたり、食事に夢中になっている者ばかりだ。
そして次の瞬間、目の前に不思議な羅列の文字が現れる。
【特殊クエスト――――私の酒友は王子様】
【クリアー条件――――第一王子か第二王子と友達になる】
【クリアー時間――――無制限】
【クリアー報酬――――10ギフトポイント】
「な……なんだよこれ?」
戸惑いつつも、目の前に表示された文字に一通り目を通し読み終えた。
読み終えた瞬間に文字は消えてしまい幻だったのかとも思ったが、幻と言うにはハッキリしすぎていた。
クエストとかクリアーとか、ゲームじゃないんだから…………って、まさか!?
俺のギフトが、遊戯の神から貰ったギフトが発動したとかなんじゃないか? だとしたらなんだよこのギフト。
クリアーすれば報酬が貰えるようだからメリットが皆無な訳ではないけど……王子と酒友になれだって?
最初のクエストって普通、スライム討伐とかお使いとかじゃないのか……あ、だから特殊クエストなのか?
ゲーム化、だったか? 遊戯神の奴……まさか文字通り、俺の人生をゲーム化して遊ぶ気なんじゃないだろうな?
「お水をお持ち致しました」
さてどうしようと頭を悩ませていた時に、お水を頼んだメイドさんが水を運んできてくれた。
他に何かご入用は? と聞かれたので、俺は意を決して聞く事にする。
「あの、王子様……殿下はどちらにいらっしゃいますのでしょうか……?」
一瞬、驚いたように目を見開いたメイドさんだったが、流石にプロなのかすぐに表情を元に戻し、王子の居場所を教えてくれる。
王の隣に座っているのが王子だと言う。やはり謁見の広間にいた、王の後ろにいたイケメンが王子だったようだ。
メイドさんにお礼を言い、再び王子へと目線を送る。王の隣に座り、キョロキョロと視線を彷徨わせては溜め息を付く……なんていう不審な行動をするイケメン。
王子に対し熱のこもった視線を送る女子生徒も何人かいる、それほどには整った顔をしている王子を見つめているとついに俺と目が合ってしまう。
俺は軽く頭を下げて会釈をする。なんてことはない、社会人になってから何度も行ってきた仕草である。
すると王子も軽く微笑み会釈をしてくれた。しかしそこから特に発展する事はなく、王子の視線は俺から外された。
「……あの、すみません。お酒とかってあったりしますか?」
「ご用意してあります。ご準備いたしますか?」
「お願いします……あ! グラスは二つでお願い出来ますか?」
やはりそう簡単にはいかないようだ。向かうから来るのを待っているのがダメならば、こちらから行動するしかないだろう。
メイドさんにお酒を持ってきてもらい、それを持って俺は腰を上げた。これまた社会人として何度か経験してきた行動だ。
このような宴会の席で、目上の者への挨拶回りの経験は何度もあった。今こそ飲み会で培ったコミュニケーションスキルを活かす時。
「お、お疲れ様ですぅ~」
「え……? あぁ、どうも、お疲れ様です……」
先ほどの笑みとは違い、少し驚いてからぎこちない笑顔で迎えてくれた王子様。どうみても、うわっなんだコイツ……みたいな表情だ。
そもそも友達を作ろうなどと簡単に言ってくれるが、そう簡単に出来るものではないだろう。
幼稚園児や小学生ではないのだ。普通はそれなりの時間を掛けて構築していく関係性だと思うけど、そうも言っていられない。
時間は無制限とあったが、王子と会話を出来るチャンスなど早々ないだろう。つまりこのチャンスを逃せば中々に達成する事が難しくなるクエストだと思う。
まぁしかし、今の俺には酒というチートアイテムがあるからな。
「で、殿下? 少しお話を聞きたいのですが……よろしいですか?」
「え? えぇもちろん……こちらにお座りください――――」
――――先に結果を言わせてもらえば、俺達は仲良くなれた。
王子と歳が近く、更には酒好きという共通点があった俺達はすぐに打ち解けた。いい感じに酔っていった俺達は、友人と言っても差し支えないほどに関係性を深められただろう。
やはり酒はいい。なによりこの世界の酒はもの凄く美味かった。沢山の酒を飲むために旅に出るのもいいかと思ってしまったほどだ。
しかしまぁ、飲みに吞みまくった俺は……俺達はやってしまった――――
「――――……ヤッちまった」
「ぐぅ……ぐぅ……あぁ……もう……でるぅ……」
「スヤスヤ……あ……垂れてきちゃいました……」
「うぅん……もう殿下……だめですよ……あんっ」
気が付けば朝。
宴会が終わった後も俺と殿下は飲み続け、俺達のために残ってくれた可愛らしいメイドが二人いて、殿下が調子に乗ってメイドの二人にも飲め……とか言い出した所までは覚えている。
キングサイズを超えるデカいベッド。そこに寝ているのは全裸の王子に、全裸のメイドが二人。
俺を含めて全裸の男女四人が、王子の私室、王子のベッドの上で、幸せそうに眠っていた。
一早く目覚めた俺は昨日の事を思い出す————
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