チュートリアル
【1ー1】二十歳以上はお呼びでない異世界
『――――を開始します』
【メイ――――――やっ―――】
【ク―――――――――――る】
【―――間―――――――制限】
【―リア―――ギフト――v1】
ザワザワと耳障りな音を聞きながらゆっくりと目を開けると、飛び込んできた景色は俺を落胆させるに十分だった。
さっきまでのは夢で、目を覚ましたら自宅のベッドの上、もしくは病院のベッドの上である事を願ったのだが現実は非情だ。
俺達を取り囲むように整列している甲冑を身につけた騎士っぽい人達、全身を覆い隠すほどのローブを着て杖を携えている魔法使いっぽい人達。
広い空間に煌びやかな装飾品。高級そうな真っ赤なカーペットに、偉い人が座りますと主張している豪華な座具。
どうみても王城じゃん。謁見の間じゃん。
「ま、まさか成功したのかっ!? なんと……よもや、私の代に勇者を召喚できるとは!」
大きな声を出すいかにもな王冠を頭に乗せているオッサン、その隣には煌びやかな衣装を纏った妙齢の女性、その後ろには年頃のイケメンと美少女。
どうみても王族じゃん。王に王妃に王子王女じゃん。
「な、なんだよここは!?」
「夢じゃなかったの!?」
「異世界キターーーー!!」
「嘘でしょ……」
俺の周りにいた見覚えのある子達が騒ぎ出す。数はざっと二十人強。
驚く者や興奮する者、嘆く者や呆気に取られている者。三者三様ではあるが、数的にはどうにも興奮している者が多いように感じる。
どうみても学生じゃん。俺が運転するバスに乗っていた三年二組の方々じゃん。
「みなさま落ち着いて下さい、ちゃんと説明しますので」
恐らく王妃様であろう、王冠オッサンの隣にいた淑女が綺麗な声を出した。
しかし学生たちの騒ぎは収まらない。王妃の声が耳に入ったのかどうかも怪しい所だが、そんな騒ぎを治めたのは学生たちの傍にいた一人の女性だった。
「み、みんな落ち着いて! 混乱するのも分かるけど、一先ずお話を聞かなきゃ!」
そう声を出して学生たちの騒ぎを治めようとしたのは、美人と言って差し支えない女性だった。
茶髪の長い髪をポニーテールのように結っており、華奢な体躯している。それでいて出る所は出ているという、なんというかモテそうな女性。
学生たちは彼女の声を聞いて少しずつ静かになっていく。彼女は学生達とは違う立場にいるのでこの行動は正解だろう。
「で、でもよおうちゃん」
「もう! おうちゃんと言うのは止めなさいって何度も……!」
大声を出した事を恥じたのか、頬を赤くして目を伏せてしまったおうちゃん。なんとも可愛らしい仕草ではあるが、それがおうちゃんと呼ばれている理由の一つであろうに。
彼女は修学旅行の引率の先生なのだ。たいして会話もしてないので、担任だったか研修中だったかは忘れたけど。
「では、皆さまがここにいる理由をご説明いたします――――」
代表して王妃様が説明を開始した。説明とは言ったが、神様に聞いていた事や地球での知識も多少あった俺に驚きはなかった。
学生たちも同じように思っているのだろう。王妃の言葉を聞いても、取り乱して再び騒ぎ立てるような事はしなかった。
お約束、テンプレ展開。そんな事が頭を過りながら、魔王と戦わされるなんて嫌だなぁ~なんて思っていた。
「……じゃあ俺たちは、本当に死んだんですか?」
「残念ながら……そうなります。こちらに呼べる魂は、死した者の魂だけと言い伝えられていますので」
「そういえばアキラは?」
「ミナちゃんもいない……」
どうやらこの場にいないクラスメイトもいるようだ。そういえばバスガイドの姉ちゃんの姿も見当たらない。
この場にいないという事は死んでいない、もしくはこちらの世界に来る事を拒んだという事なのだろう。
「やっぱりその……化け物と戦えとか言うんですか?」
「戦闘の才能がある者には、お願いしたいとは思っております」
「さっきのギフトってのは……」
「ギフトと言うのは神の恩恵の事です。才能、才覚と言ったりもしますね」
「そのギフトが私達にもあるんですか?」
「他の世界からいらした方々には、こちらの世界に来る際に神から一つギフトを授かると言う話です」
その言葉に学生たちが色めき立つ。初めて知ったというような反応だが、彼らは神様と面会しなかったのだろうか?
俺はイレギュラーだから面会せざるを得なかったという事なのかもしれない。
「ギフトは鑑定士に調べてもらいましょう」
王妃がそう言うと、数人のローブを纏った人たちが俺達に向かって歩いてきた。鑑定師と言っていたが、俺達がなんのギフトを持っているのかを調べるのか。
順番に鑑定が行われていく。告げられたギフト名に一喜一憂している学生たちを見ていると、嫌な緊張感が走った。
俺はイレギュラー、特例。テンプレ通りに事が進むのならば……。
「剣士Lv1です」
「おおっ! これでも剣道部主将だったからな!」
「あなたは細工師Lv1ですね」
「あ~文芸部だからかな? 手先は器用な方だと思うけど……」
「家政士Lv1ですな」
「か、仮性士? なにそれ、いや確かに仮性だけど……」
マズいぞ、本当にマズい気がするぞ。なんだよさっきから剣士とか細工師とか。
頭に自分が授かったギフト名を思い浮かべては冷や汗をかく。望まれたギフト、有能なギフトじゃなかった場合は……アレされるんじゃないか!?
「はぁぁぁぁ……なんだよ家政士Lv1って、家事はよくやるけどさぁ……」
おや? あの少年、随分と落胆しているようだが。もしかして無能ギフトだったのか? もしかしなくてもお仲間か?
はぁ良かった、他にも無能がいて良かった。なんて十代の少年に大人げない事を思ってしまった自分が情けないが……本当に良かった! 安心した!
「あ、安心して下され! 勇者様はまだ十七、二十歳を超えるまでは新しいギフトの取得も可能ですので」
「そ、そうなんですか? はぁ~良かった、安心した!」
あ、安心できねぇぇぇ! 二十歳を超えるまでは新しいギフトを取得できる? なにそれ? じゃあ二十歳を超えている俺はどうなるの!?
神達が言っていたのはこの事か。あの時は全然話を聞いてくれなかったから知らなかった。
「さて、お次は貴方様の番ですね」
「あ……はい」
ついに俺の前にやってきたローブの魔法使い。俺の頭の上に手を翳し、何かを読み取ろうとしているのか目を閉じた。
まずい、どうしよう? 無能ギフトな上に二十歳を超えていると知られれば……成長しない無能になってしまう!
「あ、あのすみません!」
「ん……はい? どうしました?」
鑑定を邪魔された事に苛立ったのか、目を開いて僅かに眉間に皺を寄せて見せた魔法使い。
「その、二十歳を超えているとマズいのですか……?」
「マズいというか……新しいギフトを取得するのが非常に難しくなるのです」
「な、なぜです? 私の世界には二十歳を超えてから才覚を発揮する人なんて大勢いましたが……」
「なぜと言われても、歴史が物語っておりますので……一説では、二十歳を超えると神々が見向きしなくなるそうです」
いや見向けよ!? なんて若者ばかり贔屓するのだ!? そもそも二十歳だって十分に若者だと思うのだが!?
いやでも、周りで一喜一憂している学生たちから見たら、俺ってオッサンなのか……?
「ギフトは神からの恩恵なのです。努力して身につける物ではなく、神から頂く物なのですよ。そのギフトを成長させる事は己の努力となりますが」
「……つまり二十歳を超えると、神に見捨てられ何も頂けなくなると?」
「み、見捨てられるなんて、流石にそのような物言いは……おや、貴方様は二十歳を超えているのですね」
「な、ななぜそれを!?」
見た目か? まだ十代で通用すると思っていたのに実は俺って老けているのかもしれない。
この前会った親戚のオバちゃんには十代に見えると言われたのに。アイドルになれそうって言われたのに!
「異世界人が二十歳を越えている事なんてあったかな……? えぇと、ヨルヤ・ゴノウエ様……二十五歳……ギフトは……」
名前まで……どうやら鑑定士ギフトの効果のようだ。名前、年齢、ギフト名が分かるという事なのだろう。
終わった、誤魔化しようがない。忘れていたよ、ここはファンタジー世界、なんでもありない世界だという事を。
「ギフト名は……――――ゲーム化……? な、なんですこのギフト? 初めて見たのですが……」
はいテンプレ展開ありがとう。無能ギフト持ちの末路なんて分かってますよ、追放でしょ、追放。
ほんとあの神、余計な事をしてくれたよ。遊戯の神だかなんだか知らないが、人の人生で遊ばないで欲しいもんだな。
頭の中でギフトをくれた遊戯の神の事を思い出す。このギフトがあれば二十歳を超えてていたとしても新しいギフトを取得できるとか言っていたが、本当だろうか?
騙されたかもな。だってニートの神とか言われてたし。
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