それいけ! 秘密結社部!

荒音 ジャック

序章・御用だ! 秘密結社部!

 人が異質な力を手にした時、ある人はそれを武力・抑止力という。そして、ある人はそれを才能・持つべき者が持った力という。これは、そんな世界のお話……


 満月の浮かぶ星空の下、人里離れた山奥にある教会のような場所で、火の手が上がっていた。


 燃え盛る炎に包まれるゴシック建築の教会の前に、所々に焼け焦げた跡と血痕が付いた白のタートルネックの軍の制服のような物を着た高校生ほどの茶髪ロングヘアの少女とその左隣に少女の頭2つほど低い小学生ほどの赤髪ショートヘアの少年が燃え盛る教会を見上げていた。


 遠くからパトカーのサイレンが聞こえ、少女は左手で自身の左隣に立っている少年の右手を握り、静かな声で「行こっか!」と言うと、少年はコクリと頷き、少女に手を引かれてその場を去った。


 それから7年後……内陸に位置するある程度の都市化と自然が残る街・夕闇市、特徴的なのは北区・東区・西区・南区・中央区の5つの地区によって異なる特色があることだ。


 時刻は昼下がり・・・・・・そんな街の北区と西区の間にある学び舎の公立・夕闇紫雨高校にて、授業が終わって放課後のSHRがされている1年C組の教室で教卓の前に立っている黒のスーツ姿の女性教師が生徒たちにある事件で注意喚起をしていた。


「最近、複数の生徒が下校中に怪しい人物に襲われているということなので、下校中はなるべく集団で帰ることと、可能なら武装している【ハントレス】と一緒に帰るように!」


 担任の女性教師はそう言ってSHRを終えると、茶髪ショートヘアの優しい顔立ちの男子生徒が、サブバックを左肩にかけて席を立ち、他の生徒たちと一緒に教室を出て行った。


 ほとんどの生徒が昇降口や部室に向かう中、その生徒は左肩にかけていたサブバックの中に右手を突っ込み、手榴弾が収まったポーチが6つ連なったナイロン製ベルトをズルリと取り出して腰に巻く。


 パチンとベルトの留め具を嵌める頃には『秘密結社部』の表札がささった部屋の前におり、男子生徒はガチャッと扉を開けて中に入る。


6畳ほどの部屋の真ん中に長机が置かれ、囲むようにパイプ椅子が6脚置かれており、手前右の席に直径2cmのダイヤのように輝く六角形の水晶がはめ込まれたヘアピンで前髪を左に寄せている亜麻色ショートヘアの女子生徒が座っており、その右手前に机を挟んでノートパソコンを開いている黒髪天パの黒の四角縁眼鏡をかけた男子生徒が座っていて、入り口から見て、金髪ロングヘアの留学生の女子生徒が、部屋の奥の右側にあるロッカーの前に立っている。


「おや? 人猟課の候補生が何の御用だ? えっと確か名前は・・・・・・」


部屋の一番奥の席に座る赤髪ポニーテールの男子がそう尋ねると、男子生徒はポーチから円筒缶型の手榴弾を取り出して「主峰(おもみね) 呀麻斗(やまと)だ! ここ最近起こっている不審者による下校中の生徒への襲撃の容疑で御用だ」と言うと、後ろからチクッと首筋に何かが刺さる痛みが走り、呀麻斗は白目を向いて、ドサリと前のめりに倒れた。


 その後ろには右手に注射器を持って肩まで伸びた黒髪を右に寄せて結った黒髪サイドテールの顔の左側に火傷跡がある女子生徒が立っていた。


 1時間後、気を失っていた呀麻斗はハッと目を覚まして真っ先に目に映ったのは朱と蒼のグラデーションに彩られた夕暮れの空だった。


 呀麻斗はまだ頭がグワングワンする状態で上半身を起こすと、ハンモックで寝ていたことに気づく。


「目が覚めたか? 部室だとあれだから俺の家に運んでもらった」


 状況がまだ吞み込めていない呀麻斗にそう声をかけてきたのは赤髪ポニーテールの男子生徒で、服装が制服から私服なのか? 白のYシャツに踝が見えるようにロールアップした黒のズボンにサスペンダーと部屋着にしては少し奇妙な格好をしている。


 体調が落ち着いてきた呀麻斗は「なんで僕は気を失っていたのかな? えーと・・・・・・」と自身の状況と赤髪ポニーテールの男子生徒の名前を思い出そうとすると「凱(かい)だ。槍悉(やりつ) 凱!」と名乗って呀麻斗が気絶していた理由を話す。


「気を失っていたのはウチの専属医が不意打ちで鎮静剤を打ったからだ」


 それを聞いた呀麻斗は「噂で聞いた話だと確かメンバーって問題児で有名な「ガンスミス」と「魔法使い」と「ハッカー」・・・・・・そして部長である君・・・・・・」と自身が知る限りの【秘密結社部】の内情を口に出すが、目の前にいる凱だけは謎だった。


呀麻斗(唯一何も知らないと思っていたのが、部長である彼だけだと思っていたけど・・・・・・他にもいたのか)


 凱は呀麻斗に「今回の不審者に関してだが、俺らは無関係だ。詳しいことは吏乃(りの)が明日話す」と言って、呀麻斗もこれ以上は何も解らないということもあって帰ることにした。


呀麻斗(結局今日は何も解らずじまいだったな。ていうか・・・・・・【秘密結社部】には解らないことが多すぎる)


 自宅への帰り道を歩きながら呀麻斗は心の中でそうぼやいていると、携帯に電話が入った。


呀麻斗(知らない番号だな・・・・・・誰だ?)


 呀麻斗は通話パネルをタップして「もしもし?」と電話に出た。


???「あっ! もしもし? 初めまして! 秘密結社部の吏乃です!」


 電話の相手は凱が言っていた秘密結社部の部員のひとりで、呀麻斗はなぜ自分のスマホの番号を知っているのか気になった。


「凱君は明日、君が詳しい話をすると言っていたけど・・・・・・いやそれよりもどうして僕のスマホの番号を?」


 呀麻斗の疑問に対して、吏乃は順を追って説明する。


「呀麻斗君の近くで【ガードドック】が反応していたから電話させてもらった。番号はワッチなりに調べた」


 吏乃から【ガードドック】という単語を聞いて呀麻斗は通話を繋げたままスマホを弄る。


「僕のほうには通知が着てなかったのにどうして・・・・・・」


 呀麻斗はそう言いながらスマホのアプリを開くと、自身のいる場所の周辺の地図が表示されて、現在地のピンを中心に小さな水色の円で囲われていた。


吏乃「通知にはラグがあるからね。君の半径約10m圏内で何かしらの犯罪が起ころうとしてるのは間違いない!」


 呀麻斗はスマホを片手に円の中を回るように住宅街を練り歩き始めた。既に日は暮れているが、周辺は街灯が20m間隔で立っているため、視界に問題はない。


 片側一車線の車道があるメインの通りには疎らに車が通る程度であまり人気がない・・・・・・それでも人の目がある以上、通り魔やひったくりが起こるとは思えなかった。


 呀麻斗はそのままメインの通りから死角になっていそうな脇道などを見て回るも、不審人物などは見当たらない。


「他の誰かが対応したのかな? 特に怪しい人物なんて見当たらないけど?」


 メインの通りへ戻りながら呀麻斗はスマホに向かってそう言うと、吏乃は「そんなはずはない! 君がいる半径50m圏内にハントレスはいないはずだ!」と返してきた。


 そう言われた呀麻斗は「じゃあ、なにも起こらずに終わったんじゃないのか? 【ガードドック】の犯罪検知能力は100%じゃないんだろ?」と吏乃に話していると、不意に後ろから殺気を感じた呀麻斗は振り向くと、そこには黒の目出し帽を被ってバットを振り上げる人物がいた。


呀麻斗は自分の短い一生を走馬灯のように思い返していたその時、刺客の持っていた野球バットが爆ぜたように真っ二つに折れて、木片が乾いた音をたてて地面に落ちる。


 呀麻斗は戸惑っていると、刺客は慌てた様子で呀麻斗に背中を向けて夜の闇へと消え、何が起こっているのか解らない吏乃は「呀麻斗君? 何かあったの?」と尋ねた。


 いきなり刺客に襲われそうになったり、刺客の持っていた野球バットが不可解な折れ方をしたりなど、情報量が多すぎて処理が追い付かなった呀麻斗は「色々起こり過ぎて僕の頭の処理が追い付かない・・・・・・とりあえず今日はもう帰るよ」と言って、家路についた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それいけ! 秘密結社部! 荒音 ジャック @jack13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ