第31話 お漏らしクサクサ女

 全て見ていたタリアが励ましの言葉をかけた。

「……えーと、ララちゃん? そんなに落ち込まなくても……」

 しかしライナライアは沈黙したまま。

 困ったタリアは俺助けを求める。

「ほらっ、ハルノ君も何か言いなよっ!?」

「えっ」

 困る。

「細かいことは気にしてないよねっ!? ねっ!?」

「あ、ああ。大丈夫、全く気にしていない。むしろなんだ……弱みを見せてくれたことが仲間として嬉しくあるというか、悪い気はしない。むしろいい」

「それはフォローのつもりで言っているのか変態なのかわかりづらいよっ!?」

 見ればライナライアは涙目で赤面していた。

 リックスはリックスで涙を流すほど爆笑し、ベルも俯いて肩で笑っている。

 そんな中、ブレジナの無慈悲な声が響いた。

「第三小隊前へ! はりきって行ってこい!」

 迷宮試験は最悪なスタートを切る。



 物資の支給も無く、また地図も無いため、自分達でマッピングしなければならない迷宮内。

 命の危険もあるため、始めの内は各自が緊張感を持って進んでく。

 始めの内は……であるが。

「かーなーり、舐められてんな。こんな罠引っ掛かるヤツ居んのかよ」

「いや、お前が凄いんだリックス。少なくとも私は気付かなかった」

「そうか? まあ俺山育ちだし、仕掛け罠で動物や害獣やモンスター捕まえたりしてたから、それで罠は気付きやすいのかもなぁ」

「頼もしいな」

「おう! 任せとけよ! ハルノに頼られるのも悪くないな!」

 このリックスの罠察知能力の高さにより、俺達はかなりの危険を事前回避できていた。

 それだけではなく、なぜか居るはずのモンスターもまったく出てこない。

 迷宮に足を踏み入れてから結構な時間が経過していたが、今のところただただ暗い通路を前に進んでいるだけだ。

「……なんかモンスター出なくね?」

 このリックスの疑問に俺も頷く。

「うむ、俺もそう思っていたところだ」

 これを聞いたタリアがとんでもないことをさらりと言った。

「あっ、二人とも気付いて無かった? それならベルちゃんがモンスターの気配がした瞬間に、魔法で遠距離からやっつけてるからだよっ! ねっ?」

 こくりと頷いてから、ベルがポツリと呟く。

「零華(フロストフラワー)」

「お、おいおい。お前水属性のそんな高位魔法もう使えんのかよ……。しかもそれを魔法が得意なタリアしか察知できないような遠方の、任意の空間へ精確に発動って半端ねぇな……。どうなってんだよ天才ってーのは……。つかもうこれ試験になってなくね?」

「確かに。だが……。おいライナライア、そろそろ気持ちを切り替えたらどうだ?」

「……そうです、私がお漏らしクサクサ女です……」

 この調子でライナライアはすっかり落ち込んで使い物になりそうもなかったため、正直ベルのスタンドプレー気味の活躍には助けられていた。

 助け合いができる、いいパーティだ。(白目)

 そう思わざるをえない。

 ちなみにライナライアは半日ほどこの調子だった。

 おまけにお漏らしクサクサ女という発言はタリアにも刺さってしまう。

 平静でいられなくなった彼女は回避したはずの罠にかかるなど、予期不可能で理解不能なミスとハプニングを引き起こした。

 結局、第三小隊は普通に試験に挑んだ者達と同等に疲弊してしまう。

 それからこの日の探索を切り上げ、比較的安全そうな奥行きがなく、また別の通路にもすぐ逃避可能な場所を野営地とし、簡易的な食事と寝具を設置。

 睡眠時の見張りなども決め、皆休息に入った。

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