第30話 ノーパン試験

 早朝から校庭に集合した生徒達は教師引率の下、迷宮への入口である洞窟に到着。

 ブレジナから再度注意事項と説明を受ける。

「この実地試験では様々な関門が用意されているが、あくまでも最終目標は地下迷宮最深部でのモンスター討伐だ! 祭壇に置いてある白い宝玉を破壊することで現れるので、それを倒すことで試験は合格となる! それと何度でも言うが、破壊してよい宝玉は一小隊につき一つ。他の小隊の分まで壊さないこと。また祭壇には赤い宝玉も用意されているが、そちらには手を出さぬこと! 以上! わかったなら返事!」

「はい!」

「よし! ではまず第一小隊前へ! ……訓練開始!」

 大きく口を開けた、薄暗い洞窟への不気味な入口。

 そこへ第一小隊が入っていく様を俺達は見送った。

 ブレジナが続ける。

「これから十五分間隔を設けたのち第二小隊、第三小隊と続いて貰う! 順番が来るまでは待機だ! ……どうだ、早く入りたくて仕方ないだろう? 待つことも楽しみの内の一つ、今の内にせいぜい外の世界の新鮮な空気を堪能しておくんだな!」

「はい!」

 それから十五分が経ち、第二小隊が試験に赴いた時、リックスが言った。

「ララちゃんのヤツ、この課題いつになくやる気だな! 今日はいつもより無口だし、あの鋭い眼光。それに……」

 彼が視線を向けた先を追う。

 するとそこには戦闘態勢の野獣かのようなライナライアが。

「フーッ……! フーッ……!」

「息遣いまであんなに荒いんだぜ?」

「あ、ああ、本当だ。俺も負けていられないな」

 そう対抗心を燃やした俺だったが、タリアの反応は違った。

「ララちゃんっ!? 今からそんなだと訓練が始まる前から疲れちゃうよっ!? ほらっ! リラックスリラックス!」

 ポン! と、軽く背中を叩いただけだった。

 それにも拘わらず、ライナライアは――。

「あふッんッ! !? ? ひぎぃっ!?」

「……えっ」

 その過剰な反応に皆が訝しがっていると、恐る恐るといった風にタリアが訊ねかける。

「もしかして……ララちゃん……」

 ライナライアの額には玉のような汗が浮かび、首筋を汗が伝っていた。

 一体どうしたというのだろうか。

 意を決したようにタリアが、先を続ける。

「おしっこ……我慢してる?」

 その問いにライナライアは、重大な決断でも下すかのよう、ゆっくりと重々しく頷いた。

 リラックスが「ぷはーっ!」と、肺に溜め込んでいた空気を吐き出す。

「ッんだよ!? ビビらせんなよ! ったく……。もっと深刻なことだと思っちまったっつーの! ションベンくらいそこら辺でしろよなぁ……」

 だがライナライアは――。

「ダメだっ! そんなはしたないことはできない!」

「じゃあどっか近くの民家で便所借りてこいよ。まだ時間は多少あるんだし、ほら、さっさと行って来いって」

 しかしライナライアは先程よりも顔面を蒼白にしながら、それでも不敵に笑いながら言った。

「フッ……今の私にそんな余裕があると思うか?」

「偉そうに言う事じゃないな!? え、そんなヤバイの!?」

 どうやら事態は急を要するようだな。

 仕方あるまい。

 すぐに俺はライナライアの前で背を向けながら跪き、言う。

「おぶされ」

「し、しかし、貴様におぶさるなど……」

「間に合わなくなっても知らんぞ?」

「くっ……すまない!」

 恥を偲び、背中に身を預けるライナライア。

――むにゅん。

 俺は思った。

 彼女は着痩せするタイプなのだな――と。

「しっかり掴まっていろよ」

 そう言って俺は自慢の瞬足で駆け出した――その直後のことだ。

「すまないハルノ、もういいから降ろしてくれ」

「なぜだ? 俺の足ならばすぐだ……あっ」

 その時、は背中に温かなものを感じる。

 ライナライアは屈辱に震える声で告げた。

「本当にすまない……。振動に耐えられなくて……くっ――!?」

 どうにかライナライアを慰めることはできないかと思考を巡らせ、言葉を絞り出す。

「文明が栄えるレベルだな」

「うっ、うるさいアホ!? アホーッ!」

「なっ!? お前が最初に慰めの言葉として使ったのに……」

「うるさい女心のわからない無粋な男め! アホ! バカ! 変態! アホ!」

「自分で言っていておかしいと思わないのか……」

「というかいつまで背負っているんだ!? 降ろせ! バカ! 変態貴族め! 服を汚してすまん死ね!」

「感情と思考がめちゃくちゃだな……」

 この後、なぜかアリネが持参していた俺用の着替えのお陰で難を逃れた? が、ライナライアは下着の予備を持ってきてはいなかった。

 つまりノーパンでの試験参加が確定してしまう。

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